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元気な生活ができるために-精神科リハビリテーション-【森田 桂子】

精神科リハビリテーションには様々な段階があります。回復してゆく症状がある一方、機能障害については残る部分もあります。患者さんが希望を失わないように援助し人間的な交流を保ち続けながら、様々な対処能力を向上させることが大切です。そして再び患者さん自身が制御と自由の感覚を取り戻して、自分の体験に価値を見出したり、自ら社会と接触し続けられるよう支援してゆく必要があります。

日本では在宅の統合失調症患者さんの約9割が家族とともに暮らしていると言われています。住居の確保、患者さんの能力的不利をカバーすること、治療を継続させること、患者さんの健康や財産を守ること、偏見の問題など、精神的・身体的・経済的に様々な重荷がご家族にもあることでしょう。患者さんの社会復帰の阻害要因として、やる気が出ないことや人付き合いの能力の障害、作業を最後までやりぬく力の低下、指示や情報の認知のゆがみといった疾患による症状と障害によるものや、周囲の無理解、居住環境等の環境要因、健康状態の悪化などがあげられます。

統合失調症のリハビリテーションは、幻覚妄想や興奮などの陽性症状が急性期治療によって落ち着いてきてから作業療法やデイケアなどを開始することが一般的でしたが、最近では治療開始とリハビリテーションの開始はほぼ同時と考えられるように変わってきています。しかし病状によっては安静が優先されることもあり実際にはケースバイケースです。また精神科リハビリテーションには医師だけではなく、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士、薬剤師など様々な職種がかかわります。

デイケア利用の動機は、「働きたいが自信がない」「人とうまく付き合えない」「何をやっていいのかわからない」「退院しても生活の目標が立たない」など様々です。退院後の生活に関する地域のリハビリテーションサービスについては、生活保護や自立支援、障害年金等の経済的援助や、セルフケアが不十分な場合はショートステイ、ホームヘルプサービスなどの在宅福祉サービス、また将来の自立や就労を目指した場合、精神障害者生活訓練施設等の社会復帰施設等があります。実際にどのようなサービスが利用できて、何が必要であるのか分からない場合は、精神保健福祉士や主治医と相談しながら、社会資源をうまく利用し段階に応じたリハビリテーション計画を立ててゆくことが大切です。

リハビリテーションの主役は患者さんですから、患者さんがどのようになりたいかを積極的に聞き出し、本人の目標も織り込んで環境調整や援助をしてゆくほうが患者さん自身も前向きに取り組めるでしょう。目標とする課題としては1)身だしなみ、金銭管理、食事管理、移動、趣味などの日常生活技能、2)症状が出たときの対処、再発前に出る症状(早期警告サイン)に配慮した再発防止対策、服薬の自己管理などの疾病管理技能、3)仲間づくり、質問、依頼、交渉、拒否などの社会生活技能の向上を目指して日常生活の支援をしてゆく必要があります。患者さんが達成可能な目標を描くことを助けてあげてください。日記や記録を眺めていれば、何かしらいいことがあり、何が成功しどこを改善すべきかが分かると思います。うまくいったことに注目し、患者さんが正しくできたことを褒めてください。食事、睡眠など小さい生活のことでかまいません。また、うまくいかないときは、失敗のパターンを検討し皆で考えて支援の計画を定期的に見直してみることも大切です。

治療効果の比較では、薬物療法のみより、治療に関する家族教育や、本人のストレスに対する対処法を磨くことや、社会生活技能訓練(SST:Social Skills Training)や認知療法などの心理教育を行ったほうが治療効果が高いことが知られています。また、家族の「批判」「敵意」「感情的な巻き込まれ」などの感情表出が強すぎると同居する統合失調症患者が再発しやすいこともよく知られています。

就労については、「昔はもっとバリバリできたのに今はできない」「なぜこの程度の仕事ができない」「人と上手くつきあえない」「すぐ疲れてしまう」など障害によるキャパシティーの減衰に患者さん自身も焦っていることがあります。本人の希望と実際の能力のギャップがあり、高望みし過ぎると運良く発症前と同じくらいの収入が見込める職を見つけても、いろいろ失敗したり、すぐ辞めてしまう、自信を失ってしまうなどの問題が起こることがあります。また、人付き合いが苦手なことから清掃や品出し、厨房関係など対物的仕事が向くことが多かったり、「疲れると時々休んでしまう」など継続力や持続力の問題があることがあります。なので、収入よりもリハビリテーションの一環と考え、ステップアップしながら患者さん自身が充実感や「できた」という成功体験を重ねられるように援助してゆくことが大切です。

本人の気力と体力を徐々に本格的雇用に向けてトレーニングしていく方向で準就労的枠組みをもった作業所、通所授産施設、障害者職業センターなどのプログラムの利用や、また職親制度、援助つき雇用や障害者雇用制度等の障害部分をカバーするような就労形態を調整することなども考えられるでしょう。

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