こころの病について

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各専門職の役割

1.医師の役割

医師の役割で最も重要なものは薬物療法を提供することです。「薬を処方する」という行為は他の治療と比較して非常に侵襲性が高い行為と言えます。それだけに当事者にとって「医師の存在」や「医師の一言」は大きな影響力を持ち、時には病状を大きく左右する可能性もあります。このため医師の役割は当事者だけではなく当事者を取り囲むチーム医療全般にも大きな影響力を持っていると言えます。

医師はまずこのことを十分に認識したうえで治療を展開していくことが求められます。また医師の役割として導入時における当事者の詳細な情報をチームに提供することが挙げられます。短い診察時間の中で詳細な情報を収集することは時として困難な場合もあるため、場合によっては他職種スタッフと協力しながら出来る限りの情報を収集し、治療方針を立てていくことが求められます。

そして当事者およびその家族との信頼関係を維持していくことも大事な役割の一つです。さらに他職種スタッフと協力しながら当事者の精神症状と行動をアセスメントし、適切な薬物療法が行われているかのモニター、副作用のチェックなどの観察を行っていくことも重要な役目と言えます。

2.保健師・看護師の役割

他職種チームにおける保健師および看護師の役割は、保健師としての役割と看護師としての役割の2面性を兼ねそろえている必要があります。保健師としての役割は、保健所・保健センター等の公的機関で求められるような予防的な視点を持つことです。

一方で看護師としての役割は、病院や訪問看護ステーションなどで求められるような治療的視点をもつことです。これらの2面的な機能を果たしながら、当事者のセルフケア能力をアセスメントし、当事者の自己決定・自己選択を促していくことが看護職には求められます。

特に当事者の身体的側面の評価は看護職に求められる重要な役割と言えます。しばしば当事者は様々な症状のために言動や表情などによって彼らが抱える問題を知ることや伝えることが困難である場合があります。

例えば便秘でお腹が張っているとしても「お腹の中にヘビがいる」と表現する場合があります。そのような場合でも、生活状況の観察や表現の促しを通して当事者が感じる違和感を敏感に察知していくことが求められます。

また、薬物療法を行っている当事者に関しては副作用の観察が非常に重要となります。検査で採血を行ったとしても数値で現れるものは少なく、日々の観察の中で発見されることがほとんどだからです。中には副作用のことを話すと薬を増量されるのではないか、入院させられるのではないかと心配して黙っている場合もあります。
そのため、日頃から当事者の抱えるつらさを受容し、当事者自身が再発に至らないためには服薬を継続することが重要であるということに気付いていけるように教育的にサポートすることが必要です。

また、日頃から体調の変化を感じたり表現したりすることや、早期に他者に相談するという対処法を身につけていけるようサポートしていくことも重要な役目と言えます。

3.精神保健福祉士の役割

精神保健福祉士の役割は、精神障害者を「生活者」として捉え、医療・保健・福祉の様々な場面を統合したサービスによって地域生活をサポートすることです。
具体的には当事者に関わる医療スタッフ、医療機関や保健所、社会復帰施設といった関係施設との中間的存在としてコーディネートの役割を担い、当事者とその家族が地域生活を維持し、満足して生活を送ることが出来るように支援していくことを目指します。

入院している場合は当事者と社会のかけ橋の役目をし、在宅の場合は当事者の社会活動を具体的に支援する役目をることになります。また支援利用へのアクセスの容易さを可能にしていくことも重要な役目です。

しばしば当事者のみならずその家族自身も病気の理解や知識に乏しく、精神科リハビリテーションへの動機づけなどが明確でない場合があります。こうした場合には無理にプログラムを推し進めるのではなく、当事者の現在の生活と問題意識を確認し、病気と共に生活することについてともに考えたり、当事者の目標について話し合いながらプログラム内容を検討したりしていくことが重要です。

時には入院中から一緒に外出したり、退院後の生活をスムーズに行うための準備や話し合いをしたりしていくことも重要となります。

以上のように、精神保健福祉士には当事者と社会のかけ橋となり、当事者のみならずその家族も満足した地域生活を送れるようサポートしていくことが求められます。

4.作業療法士の役割

作業療法士の役割は当事者の生活のしづらさをアセスメントし、適切な介入により生活の質を向上させることです。その意味で創作やレクリエーションといった活動を通して喜びや達成感を促す関わりから、より実生活で役立つ技能の獲得を目指す関わりへと幅広い関わりが求められます。特に精神科リハビリテーションにおいては後者の実生活に結びつく技能獲得に関する支援が重要となります。

実生活における問題やそれぞれが持つ能力には個人差があるので、生活スキルの向上やストレスマネジメントを目指して個別に介入をしていくことが求められます。特に当事者の持つ生活のしづらさには認知機能障害が関連しているとされることから、高次脳機能のリハビリテーションとしての視点から生活における障害を捉えなおす関わりは重要となります。
また介入の際は「今ここで」の即座の対応が生活技能の学習に困難をもつ脳機能障害を補完する上で、最も有効な介入のタイミングと言えます。

この様に当事者のもつ生活上の困難を固定された障害の結果として捉えることなく、アセスメントに基づき実生活で有効な技能を身に付けていくための具体的な援助を行っていくことが作業療法士には求められます。また他職種と同様に、カウンセリングや当事者の環境調整、プログラム提供など幅広い関わりも求められます。

5.臨床心理士の役割

臨床心理士の役割の中で重要性の高いものは心理学的なアセスメントを行うことです。心理学的なアセスメントは面接や観察、心理検査などを通して行われます。中でも心理検査から得られる情報をチームに提供することは臨床心理士に求められる役目と言えます。

心理検査には、
1.知的能力や発達段階を推定する知能検査
2.性格や対人関係、病態水準を推定する性格検査
3.脳機能の働きを調べる神経心理学検査
があります。

近年注目されている精神障害者の認知機能障害では、記憶、注意、流暢性などの高次脳機能の障害が認められ、当事者の抱える生活の困難さに密接に関わっています。
そのため、神経心理学検査によって脳機能をアセスメントすることで治療の標的がより明らかとなります。心理学的なアセスメントを通して当事者の抱える問題を多角的に分析していくための情報を提供することが求められます。

それ以外の役割にはカウンセリングを行ったり、コーディネーターとして関わったり、プログラムを提供したりすることが挙げられます。しかしこれらの役割はチーム内の他の職種も行っていることであり、臨床心理士に特化した役割ではありません。そのため他職種と連携を保ちながら柔軟な対応を取ることが求められます。

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