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生物学的側面

Wyattらは未治療の精神病状態は、それ自体が脳器質に対する生物学的毒性となっていると考えており、その視点からみれば治療開始の遅れ自体が回復不可能性を高めている一因となっている可能性がある。

統合失調症患者の脳の形態学的な変化については、まだ必ずしも均一な見解ではないようであるが、その説を後押しする研究が死後脳の研究や画像診断技術の向上とともに集積しつつある。

また、脳機能画像の研究や生理学的な研究もなされつつある。
統合失調症の形態学的変化の一部をあげれば、海馬・海馬傍回・扁桃体の容積減少、 海馬領域白質や脳室周囲の白質容積減少、線条体・淡蒼球の容積増大、左背外側前頭前皮質の減少などが認められる等の報告がある。

また症状との関連については上側頭回吻側部の容積減少と幻聴体験や思考障害との関連性や、左の腹内側前頭前野領域の灰白質の容積減少と陰性症状の重症度の関連性が示唆されている。更に病期から見れば、DUPと左上側頭回の体積が負の相関を示すという報告がある。

また初回エピソード患者で既に内側側頭葉、内側前頭前野の萎縮や第?V脳室拡大などの形態異常が見られた報告や、重度の初発統合失調症患者で、わずか1。5年の間に初回測定時に認められた側頭葉(ヘシェル回、上側頭平面)の萎縮が9%程度進行したとする報告もある。

最近のVBM(voxel-based morphometry)による複数の研究では、後に精神病を発症したUHR群において、発症しなかった群と比較してベースラインにおいて、脳溝の異常と右島回・下前頭回・上側頭回前部・右海馬・海馬傍回・腹外側前頭前皮質・基底核、・帯状回の灰白質体積が小さいことを指摘している。

また、同一個人内の縦断的検討では、発病しなかったUHRの進行性変化は左小脳のみだったが発病群は発病前に比べて左海馬傍回・紡錘状回、左小脳、両側帯状回、左眼窩前頭皮質に進行性の灰白質体積減少を認めたと報告している。

これらの報告はかなり早い段階から脳形態異常と体積減少などの器質的変化が見られることや発病後にも体積減少が進行することを示唆している。

出生早期から認知機能障害を伴うPremorbid phase(病前期)が始まっていると多くの研究者が考えており、特にワーキングメモリーは早期から障害され、その責任領域である前頭前野背外側(DLPFC)と辺縁系の血流低下や萎縮が様々な検査で認められている。 

統合失調症の病態仮説として、「病初期からみられる脳萎縮、 細胞移動の障害は胎生期に発現し、以降は進行しない」とする神経発達障害仮説(neurodevelopmental hypothesis)と、「発病後にもさらなる神経細胞の萎縮、神経線維網の減少などの微細な変化と関連して脳萎縮が進行する」とする神経変性仮説(neurodegenerative hypothesis)は相対する仮説として議論されてきた。しかし、 上に述べてきた様々な知見からその片方のみで画像所見等の変化を説明することは困難と思われる。

Woodsは両者を統合する概念として進行性神経発達障害仮説(progressive neurodevelopmental disorder hypothesis)を提唱している。
この仮説では緩やかな障害が、生前から成人の初期までを通じて起こるとしている。

死後脳研究においてこれらの形態異常にはグリオーシスを伴わないことからこれらの変化は胎生期早期にすでに発現した神経発達障害とされ、重度の精神病エピソードの反復により、初発時に存在していた脳の萎縮が進行する場合があると考えられている。

最近ではグリオーシスを伴わないアポトーシスという神経変性のメカニズムが明らかにされ、この点でも神経変性進行の可能性は否定できない。ほかの研究では統合失調症脳の病理学的所見として樹状突起の形態の異常などが認められ、これは神経細胞死ではないものの進行性の神経細胞障害ともとらえることができると考えられている。

この進行性の変化が神経発達の時期に起これば神経発達障害となり、神経発達が完了した後に起これば神経変性と呼ぶことになる。それぞれの異常の発現時期についてはまだ今後の研究の課題のようである。

精神病発症脆弱性については、眼球運動などの軽度神経徴候やEEG、PET、fMRI、IRS、P300、グルタミン酸脱炭酸酵素など様々な角度から内的要因が検討され、外的要因の関与も疑われている。

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