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啓蒙とスティグマ

しかしなぜ今、世界中で精神病前駆状態がこれ程に注目されるようになったのだろう。
もともと、古くから精神病前駆状態や統合失調症の初期症状については日本においても海外においても精神病理学的な議論がなされてきた。

しかし、現在と違い昔の精神病治療薬は副作用の出やすいものが多く、また社会の精神疾患や精神科病院に対する偏見もあり、たとえ精神病前駆状態と想定されても、診断することによる患者さんのメリットに対しデメリットが格段に高かったため、診断は極めて慎重になり、治療のハードルも高かったことが推測できる。

また、精神科治療薬が初めて国内の製薬会社から発売されたのが1955年で、現在の高齢者が若かった頃にはまだ精神科薬物療法が無かった時代があった。

その記憶から高齢者が精神疾患を悲観的に考えてしまいがちになることはある程度仕方がない現実とも言えよう。その問題について考える時、ある若者が治療を求めてきた時のことを思い出す。

祖父母は精神科通院に反対し、親は通院に賛成したが薬物療法には反対し、本人はできる限りの加療を希望した。治療が進むにつれ家族は治療協力的に変化していったがそれは、スティグマの世代間ギャップを象徴している出来事にも感じられた。

1990年代から(日本においては1996年から)副作用の比較的少ない非定型抗精神病薬が飛躍的に普及するにつれ、治療開始に伴う副作用というデメリットが軽減したこともあり、早期介入ができる下地が出来てきた。

また、複数の早期治療介入研究や画像診断の進歩などから、早期治療介入は可能であることや、また未治療期間が長いほど予後が悪いことや、発病のかなり早い段階から脳の変化が起こることなどがわかってきた。

現在多くの研究者によって、早期介入をすることは十分な意義があると考えられている。精神病前駆状態の加療については、まだクリアするべき課題は残っているが、そのために現在世界中で様々な取り組みがなされている。

症状のある患者やその家族が精神科受診することに思い至らなかったり、迷っている場合、保健所や内科などの他科に相談した場合、そこで適切な精神科サービスに結びつかなければ治療の開始は更に遅れてしまう可能性もある。

そのため、プライマリケアに携わる者が精神疾患の早期サインや症状、精神科サービスなどに関する正しい知識を持っていなければならない。

例を挙げれば国策として取り組んだ英国では、家庭医に対する知識の普及と精神科サービスに繋がるパスウェイの整備によってその問題をクリアしている。

また、 様々な早期介入の研究では、 学校からの紹介も重要な役割を果たしている。
日本においても、広く一般家庭へメンタルヘルスの知識を普及することや、学校や職場への支援が大切であることに変わりはないだろう。

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大森病院 メンタルへルスセンター イル ボスコ

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