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SIPS/SOPSとCAARMS

それでは治療しなくてはならない精神病前駆状態とは、どのようにしたら見出すことができるのだろう。

その問いに答えるために、様々なアセスメント(評価)方法が開発されている。
代表的なものに、SIPS/SOPSとCAARMSがある。

精神病前駆状態のアセスメント

1.SIPS (Structured Interview for Prodromal Syndromes)/ SOPS (the Scale of Prodro

アメリカのYale大学精神科でMcGlashanらによって開発された「精神病前駆状態に対する構造化面接(Structured Interview for Prodromal Syndromes:SIPS)」という評価法である。

これについてはPRIME(the Prevention Through Risk Identification、 Management、and Educationの略)Research Clinicという早期介入研究を目的とした施設で用いられている。その特徴はSIPSに内包される「精神病状態の診断基準」にて、過去及び現在の精神病状態を除外し、「前駆症状評価スケール(The Scale of Prodromal Symptoms:SOPS)」にて、前駆症状の診断基準に当てはまるかを確認できることである。

SIPSは症状についての項目として、陽性症状、陰性症状、解体症状、一般症状についてさらに19項目の下位分類がされており、それらについて数字で重症度をつけていくため、障害されている機能がわかりやすい便利さもある。また、家族歴、統合失調症型人格障害(DSM-?W)、生活機能尺度(Global Assessment of Functioning:GAF)についても触れられており経過を追ってゆくこともできる。

SIPSは既に少なくとも14カ国語に翻訳され日本語版も用意されている。
Millerらの研究によればSIPSによって精神病前駆状態と判定された場合、統合失調症様精神病状態に移行する確率は、6ヶ月後までに46%、1年後までに54%の発症が認められている。1年後の時点で感度100%、特異度74%と報告されており、偽陽性はあったものの、SIPS陰性者で2年後までの調査期間中に発症に至った者はいなかったと報告されている。

また、評価者の違いによる診断の差異についての研究では93%の一致率が認められ、 SIPSの信頼性の高さが証明されている。

2.CAARMS(Comprehensive Assessment of ARMS)

オーストラリアのメルボルン大学精神科のYungやMcGorryらによって開発された、「発症リスクのある精神状態の包括的評価(Comprehensive Assessment of ARMS :CAARMS)」という評価法である。

これは、明らかな精神病の発症リスクが高いと考えられる若者を診療する目的で様々な団体からの資金援助を受けて臨床と研究を実践するために設立された「PACE(Personal Assessment and Crisis Evaluation)クリニック」という施設がメルボルンにあり、そこで陽性症状評価尺度および超高リスク研究の編入基準としてCAARMSが使用されている。

この基準の特徴は既に精神病を発症している患者は除外し「発症リスクのある精神状態」の基準に該当するのか否かを判定する。また、 精神症状と機能の経時的変化を概観し、長期にわたる評価も行う。

下位項目を見てみると、思考内容の障害、知覚の異常、解体した会話について更に細かい項目が設定されており、それらの出現頻度と持続、ストレスとの関連などからARMSに該当するかどうかを判断している。

Yungらの研究によれば、PACEクリニックでUHRと判定された場合1年後までに約4割が精神病状態に移行すると報告された。しかし、その後の研究ではこのUHRの基準に該当した場合、12ヶ月以内に10~50%が精神病水準へ進展するとの報告がなされている。

現在の前駆状態のアセスメントの主流はSIPSとCAARMSである。
対象とする状態は、SIPSの前駆症状とUHRは大筋では重なっているが、期間や頻度などの細かい基準の設定はやや異なる。

他にも早期介入を目的とした評価方法はいろいろ開発されているので補足的に紹介する。
スクリーニング検査としては米国のPRIME ScreenやPQ(the Prodromal Questionnaire)がある。PRIME ScreenはSIPSから派生した検査であり、前述のPRIME Research Clinicで使用されている。症状の程度と持続期間についての質問項目が10数個のみある自記式検査であるため、時間がかからず簡便なスクリーニング評価法であるといえる。

PQは健常者も含んだ一般の集団に行う自記式の92項目からなるスクリーニング評価法で、大学などで構造化面接につなぐべき個人や援助を探している者(help- seeker)を見つける目的で使用されている。陽性症状、陰性症状、感情の徴候や解体症状を20分程度の検査でアセスメントできる。

長期研究にて妥当性が検討されている検査としてERIraosやBSABSがある。
ERIraosはGRNS (the German Research Network on Schizophrenia) という研究とケアを目的としたチームで使用されているもので質問紙としても、面接としても使用できる。9。6年間の観察で、最初に前駆状態と判断された者のうち観察期間中に70%が発病し、 陰性と判断された者の中からも4%が発病している。

他にBSABS(Bonn scale for the assessment of basic symptoms)は10年間の観察にて特異度70%、感度96%という成績を得ている。

その他、IRAOS( an instrument for the assessment of onset and early course of schizophrenia)という初期の精神病症状に焦点をあてた半構造化面接や、 SPI-A(the Schizophrenia Prediction Instrument-Adult Version)という早期の前駆状態の可能性をみるために使用されている検査など関連の検査は様々な物が開発されている。

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