腹膜透析(PD)を知る
腹膜透析(PD)のしくみ
腹腔内にカテーテルというという管を入れて、透析液を注入し一定時間貯留していると、腹膜を介して血液中の老廃物や余剰の水分が腹腔内に移動します。十分に移動した時点で透析液を体外に排出することで、血液が浄化されます。
尿毒素を除去し、ミネラルを調節し、余剰な水分を取り除いたあと、からだに戻されます。
尿毒素を除去し、ミネラルを調節し、余剰な水分を取り除いたあと、からだに戻されます。

きゅうりとぬか床
たとえがよくないですが「きゅうりのぬか漬け」は、きゅうりはぬかに漬けておくと、きゅうりから水分が抜けてしぼんでいきます。そしてうまみ成分や塩分がきゅうりに移動して味がついてきます。腹膜透析の場合、腹腔内にからだよりも濃い透析液を注入することでからだから水分を除去させます。ぬかのように塩分を濃くしておくと、からだがしょっぱくなってしまうので、ここではブドウ糖を用います。ブドウ糖はからだに吸収されても代謝されるので、短期的には害は少ないと考えられているからです。しばらく透析液を腹腔内に漬けておくと、徐々に尿毒素が透析液側に移動してきます。十分移動した時点で透析液を体外に排液します。これを繰り返すことで血液を浄化します。通常1回の貯留時間が6~8時間で、1日に4回交換します。

毎日行なうということ
浄化能力が弱いので、毎日行なう必要があります。しかし、毎日時間をかけて老廃物や余剰な水分を取り除くことが腹膜透析の利点でもあります。血液透析と異なり「透析と透析の間の負担」がなく、循環動態の不安定も少ないと考えられています。

CAPDとAPDとCCPD?
腹膜透析には1日かけて4~5回透析液を交換する「CAPD」と日中の交換をなくし、夜間就寝時に透析装置をつかって透析液を交換する「APD」があります。また、両方を併用する「CCPD」方法もあります。腹膜の状態によっても向き不向きがありますが、生活スタイルによって選択ができます。

腹膜透析液による腹膜への影響
腹膜透析液は高濃度のブドウ糖とミネラルで組成されています。ブドウ糖は短期的には人体に影響はありません。しかし、腹膜がブドウ糖に繰り返しさらされると糖尿病による血管障害に類似した変化が腹膜に生じ、腹膜が劣化してきます。腹膜の機能が変化すると除水能力が低下したり、腹水が出現することがあります。さらに形態学的にも変化してくると腹膜が腸管と癒着し、腸閉塞を起こすことがあります。
このため腹膜透析施行期間は7年以内が望ましいとされています。
このため腹膜透析施行期間は7年以内が望ましいとされています。
体液バランスと腹膜機能の温存
腹膜透析は血液透析よりも余剰の水分を取り除く能力が劣っており、むくみがちになります。これを是正するためにはさらに濃い透析液を用いて透析液側に水分を引き込まなければいけません。しかしこの結果、腹膜はより早く劣化することがあります。むくみがちなひとは心臓に負担がかかりますので血液透析と同様、しっかりとした塩分制限と飲水管理を行なうか、腹膜の劣化を承知で、濃い透析液を使用して除水能力を高める必要があります。

心臓のためにも腹膜のためにも、しっかり塩分制限を行う必要があるでしょう。
残存腎機能保持
「残存腎機能保持」とは「わずかばかりですが働いている腎臓をそれでも大事に使いましょう」という考え方から発信された言葉です。それだけにこだわりすぎてもいけないのですが、体液バランスがとれていることが前提で、だいぶ働きが低下した腎臓がもう少しがんばって働いてもらうためには、安定した腹膜透析と安定した生活が必要です。また腹膜透析は除水が穏やかな分、血液透析に比し残存腎機能保持に優れていると考えられています。
腹膜透析(PD)の利点
- 残存する腎臓の働きが保持されやすいです。
- 通院,透析時間に縛られない生活ができます。
- 透析による疲労感が少ないです。
- 透析中の血圧低下がありません。
- シャントに穿刺する針の痛みがありません。
- 血液透析に比較すると食事制限が緩やか(特にカリウム)です。
腹膜透析(PD)特有の合併症
- PD腹膜炎
多くの場合、腹膜透析のバッグ交換のときの不潔操作により、病原菌が吹腹腔内に入ることによって起こります。おなかが痛くなる。排液が濁る。熱がでるなどの症状がでます。繰り返すと腹膜機能が低下したり、カテーテルを抜かなければならなかったり、腹膜透析を中断しなければいけなくなります。 - PDカテーテル出口部・皮下トンネル感染
PDカテーテルの出口部から膿がでたり、不良肉芽(ふりょうにくげ)がでてきたり、皮膚のしたのカテーテルに沿って痛みがでたりします。PDカテーテルの出口部や皮下トンネル部に病原菌が入ることによって起こります。PDカテーテル出口部付近を清潔に保つことが大切です。 - PDカテーテルの機能不全
PD透析液の注液や排液に時間がかかったり、十分量排液がでてこない排液不良が起きることがあります。カテーテルの先端の位置がずれたり、フィブリン塊がつまったり、カテーテルに大網が巻きついたとき、カテーテルのよじれなどにより起きます。 - 被嚢性腹膜硬化症
腹膜の癒着によって腸管が動かなくなり、吐き気、嘔吐、腹痛、便秘などの消化器症状が現れます。排液からは腹水がでたり、血性排液がみられることがあります。高濃度ブドウ糖透析液の長期使用、難治性腹膜炎などが原因とされています。 - ヘルニア
腹腔内に透析液を1.5~2Lほど注液して、貯留するので、腹圧がかかり、ときどきヘルニアを起こすことがあります。比較的頻度の多い合併症といえます。
