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三叉神経痛

このホームページをご覧になっている方の中には、長い間、三叉神経痛でお悩みの方も多いと思います。痛みの原因を検査したり、痛みを和らげるお手伝いをすることは、我々脳外科医の務めです。確実な診断と納得のいく治療を当施設でも提供しております。

①三叉神経痛とは?

三叉神経痛とは“顔面”の痛みです。頭が痛いのは頭痛ですので、その症状が頭ではなく、顔面に出ている状態といえます。ただし症状には頭痛と違う下記のような特徴があります。
  • 痛い時と痛くない時がはっきりしている
  • 痛みは一瞬で複数回繰り返す
  • 顔面への刺激が痛みを引き起こす引き金なることがある
  • 痛むのは左右のどちらかで、必ず同じ場所が痛む
  • “うずくような” “刺されるような” “しびれるような”と感覚がある
以上が、三叉神経痛の主な特徴があります(もちろん例外もあります。最も一般的な症状として挙げています)。

②顔面神経痛とは?

顔面神経は基本的に顔面の動きを支配する神経ですので痛みを感じたり発することはありません。したがって顔面神経痛という医学用語は存在しません。顔面の痛みは三叉神経に関与する痛みということになります。

顔面以外では、後頭部は後頭神経、首から下は体性感覚神経が感覚の伝達に関与しています。

③三叉神経痛と特発性三叉神経痛

顔面の感覚は顔面の皮膚に張り巡らされた感覚神経が刺激を感じると、その刺激を電気信号に変え、三叉神経を走行して、まず脳幹部(橋)に入ります。そして神経核という中継地点で神経繊維を乗り換えて大脳表面の感覚中枢へ運ばれ刺激を感じます。

つまり顔面表面から脳幹部(橋)までが三叉神経です。このうちのどこかで神経に圧迫や炎症が加わると予期せぬ痛みを感じてしまうということになります。たとえば虫歯をこじらせた場合や慢性蓄膿、顔面のケガなどが原因となります。このような神経に対する侵害の場合、痛みは局所的で持続的な事がほとんどです。これらも広い意味で三叉神経痛ということができます。

一方、①で示した特徴のある痛みを呈する三叉神経痛は脳に原因があり、“特発性三叉神経痛”と区別して扱われます。“特発性三叉神経痛”とは、以下に示すような特定の原因による特定部位の顔面痛を呈する特定の疾患です。

④特発性三叉神経痛の原因

三叉神経が単なる圧迫で痛みを呈していたら、顔を触ったりするたびに痛みが発生し困ってしまいます。そのようなことがないように三叉神経はコーティングが施されており、ちょっとした刺激では痛みを感じないようになっています。しかし三叉神経が脳幹部(橋)に入り込む付近ではこのコーティングが不十分になっている場所があることが判ってきました。この部位は刺激に弱く刺激を受け続けると神経に痛みが走り、あたかも顔面が痛いように感じてしまうのです。これがまさに“特発性三叉神経痛”のメカニズムです。

ではこの場所を刺激するものは何でしょうか?それはご自身の血管です。

大半は頭蓋内を走行する動脈がカーブを描くときに神経に接してしまうのです。この現象は決して珍しいことではありません。頭蓋骨内には大抵ぎっしりと脳が収まっています。わずかな隙間に何十本という神経と何十本という動静脈が走行しているのです。神経と血管が接したり、場合によって食い込んでくる事もあります。血管は加齢とともに蛇行を強める事が多いので、神経への圧迫も加齢と共に強まっていきます。その結果、神経への血管の食い込みは年齢とともに強まっていき、特発性三叉神経痛を発症、症状も進行性に強まっていくことになります。

⑤特発性三叉神経痛の外科治療

痛みの原因は三叉神経と血管の衝突でした。治療はこれらを引き離すことが最も理にかなった治療法といえます。つまり外科手術です。正確には全身麻酔下微小血管減圧術と呼ばれる方法になります。聞きなれない難解な名称ですが、人体の二つの構造物を数ミリ移動させるまたはクッションを挟む極めて単純な方法です。1930年代に脳外科の高名なDandy博士が原因を解明され、1960年代後半にJannetta博士が顕微鏡下手術を確立されました。現在に至るまで幾つかの改良が加えられ、より安全性の高い治療として普及し、日本でも多くの患者さんが手術治療を受けられています。

ただしどのような手術にも常に危険が伴います。いかに安全性が高まっているとはいえ脳手術の合併症は重大な後遺症、時に生命の危険も招きます。そのため内服治療を行ったうえで効果が乏しいと判断された患者さんに手術が適応されています。

⑥特発性三叉神経痛の内服治療

痛みを発している神経の興奮を抑える(神経保護)目的で抗痙攣薬などの内服治療が行われます。代表的なものとしては“テグレトール”(一般名カルバマゼピン)があります。服用開始時にふらつく感じが出やすいですが、少量より開始して1~2か月かけて増量することで軽減できます。

そのほか、原則的にはテグレトールを中心に他の薬剤を補助的に使用することもあります。同じ抗痙攣薬の仲間で、ガバペン(ガバペンチン)、フェニトイン、デパケン(一般名バルプロ酸)などです。

抗うつ薬では、トリプタノール(一般名アミトリプチリン)、GABAB受容体作動薬のギャバロン(一般名バクロフェン)などです。これらの内服薬の効果には個人差があり、症状に合わせて内服の量も調節します。

⑦特発性三叉神経痛の神経ブロック治療

痛みを発している神経を麻痺させる治療です。薬剤を使用して神経を麻痺させるので当然その領域の感覚は鈍くなりますが、うまく麻痺させることが出来ると切れの良い鎮痛効果が得られます。痛みが広い範囲で出ている場合には三叉神経のもっと根本で麻痺させないとならないために、ブロック部位が深くなって技術的に難しくなります。効果は約1年程度で、次第に効果が薄れてきます。

⑧特発性三叉神経痛の放射線治療

定位放射線治療と呼ばれる一か所に集中的に照射する方法が用いられます。三叉神経の根本付近に放射線を集中的に照射することで神経の感度を低下させようという方法です。様々な施設で治療効果の実績が報告されていますが、おおむね約半数の方に効果があります。ときに照射領域に新たな違和感が出現することも報告されていますので注意が必要です。

当院では行っておりませんのでご希望の方はしかるべき施設へ紹介させていただいております。

最後に

三叉神経痛は誰にでも起きる可能性があり、一旦かかってしまうと自然治癒はしないことが多いものです。最初は時々痛かったのが次第に強まっていき日常生活で大きな支障を伴ってきます。決して命を奪う病気ではありませんが、痛みに対する悩みでうつ病(傾向)になってしまう方も珍しくありません。反面この病気に効果的な治療法が確立されているということを知らない方が多くいらっしゃいます。いきなり手術というと恐怖感があると思いますが、まずは内服治療で症状を緩和せることも可能です。治療を行う中心は脳神経外科ですので遠慮なく来院してください。

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 脳神経外科

〒143-8541
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TEL:03-3762-4151(代表)