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小児脳神経外科

小児脳神経外科領域は、集学的治療が重要となる分野です。当院では小児科、新生児科、小児外科、形成外科等と連携し、各専門分野の知識および技術を活かして、円滑なチーム医療を行っております。具体的には、新生児水頭症、二分脊椎、小児脳腫瘍といった疾患を積極的に受け入れており、緊急手術を含めた迅速な対応が可能です。

新生児水頭症

新生児水頭症の原因は、新生児脳出血に続発するもの、神経奇形に併発するもの、脳腫瘍に続発するものなど様々です。しかし新生児水頭症は、その未熟さから治療に困難を要することが多いのが現状です。

新生児水頭症の診断

新生児は、成長に伴って閉鎖するであろう大泉門が開存しているため、大泉門からエコーを行うことで、容易に水頭症の状態を視覚的に評価することができます。
エコー
上図は脳室内出血を起こした新生児の大泉門からのエコーの一例です。この画像をもとに、頭囲拡大の程度、大泉門の緊張の程度などから、手術的治療が必要かどうかを慎重に判断いたします。

新生児水頭症の加療

体重2500g以下の場合は、V-Pシャント術(根治術)に伴う合併症(シャント不全)が出現するリスクが高いとされています。そのため以下のように水頭症のコントロールを行い、V-Pシャント術に十分に耐えられる状態になるまで待つのが一般的です。
  • CSFリザバー留置 — 定期的にリザボアから髄液を穿刺
  • PIカテーテルの留置 — 持続的に髄液をドレナージ
  • 脳室‐帽状腱膜下シャント — 脳室から髄液を帽状腱膜下に貯留させる
当科においては、CSFリザバー留置にて、定期的に髄液を排出させることで水頭症のコントロールを行っています。児が成長し、手術に耐えうると判断した時点でV-Pシャント術を行っています。しかし、全例にV-Pシャント術を施行するのではなく、リザバーからの髄液排出量を十分に検討した上で、自然緩解を示したと診断された症例については、シャント術は行っておりません。つまり、手術適応を慎重に判断する方針をとっており、子供に対し、低リスクな治療が提供できるように努力しております。

また、解剖学的に穿刺が難しい脳室や、狭小化した脳室に穿刺する場合は、特殊な磁場式ナビゲーションシステムという機器を活用して手術の際に安全に穿刺ができるように工夫しています。

二分脊椎

胎生初期に形成される神経管の形成異常によって生じる奇形を二分脊椎といいます。
具体的には、生まれた時に、腰の部分にコブ(瘤)ができていて、脊椎という骨や、脊髄という神経の束に障害がある先天的な病気のことです。
大きく分類すると、開放性二分脊椎と閉鎖性二分脊椎があります。

開放性二分脊椎

腰にできたコブを覆っている皮膚が破けており、脳と脊髄を流れる水(脳脊髄液または髄液)が、皮膚欠損部より流出した状態です。そのため、このまま放置すると、菌が脊髄に侵入して髄膜炎という感染症を引き起こし、死に至ることもあります。したがって、緊急手術によって閉鎖術を行い、髄膜炎の発症を予防する必要があります。

当院では、新生児科および形成外科と連携をとり、この奇形の治療に取り組んでいます。

開放性二分脊椎は、水頭症とキアリⅡ型奇形を高率に合併します。水頭症合併例では、新生児水頭症の加療と同様に、慎重にV-Pシャント術を行うか検討しています。シャント術が必要と判断された症例については、速やかに手術加療を行っています。キアリⅡ型奇形については、水頭症の治療を優先に行い、脊髄空洞症が進行性であれば、大後頭孔減圧術を施行しています。

開放性二分脊椎は、ほぼ全例で神経因性膀胱と下肢運動障害を認め、この症状は後遺症として残存します。そのため、小児科および泌尿器科とも連携していきます。下肢のリハビリテーションは、近隣のリハビリテーション病院を紹介しております。

閉鎖性二分脊椎

閉鎖性の場合、髄膜炎発症の危険性がないため、緊急手術の適応はありません。当科では、生後4-5か月で、手術を施行しています。閉鎖性二分脊椎は、ほとんど脂肪腫を合併しています。病態としては、脂肪腫で脊髄停留を引き起こしていますので、脂肪腫の摘出とともに、停留解除をすることが、手術の大きな目的となります。
術中モニタリング
当科では、臨床検査技師と協力し、上のように術中モニタリングを行うことで、低侵襲な手術を行っています。モニタリングの内容は以下です。
  • BCR(bulbocavernosus reflex)球海綿体反射
  • SEP(somatosensory evoked potentials)体性感覚誘発電位
  • CMAP(compound muscle action potential)複合筋活動電位
これらのモニタリングにより、機能している神経根を傷つけずに、有効な停留解除を行うように努めています。また、開放性二分脊椎と同様に、特に神経因性膀胱が問題となりますので、小児科および泌尿器科と協力し、治療にあたっています。逆に神経因性膀胱の診断から、潜在性二分脊椎と診断されることもあります。

小児脳腫瘍

小児脳腫瘍
小児脳腫瘍は、小脳にできる良性の星細胞腫(せいさいぼうしゅ)で約20%を占めます。その他、悪性の髄芽腫(ずいがしゅ)が12%、胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)が10%、先天性の腫瘍で頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)という良性腫瘍が9%、上衣腫(じょういしゅ)が5%となっています。成人と違って、小児の場合は大脳に腫瘍を形成するより、小脳や脳幹部に発生することが多いのが特徴です。

脳腫瘍は一般的に、摘出可能な部位に存在していれば、手術摘出が治療の第一選択となります。そして、摘出された腫瘍の組織診断で、後療法が必要と判断された場合、放射線治療および化学療法を行います。この場合は、小児科と連携し、その治療に取り組む体制を整えております。

小児脳腫瘍に対する当院の手術の特徴は、磁場式ナビゲーションシステムが活用できることです。小児に限らず脳腫瘍を摘出する際、手術の安全性を高める上でナビゲーションシステムは重要です。現在のナビゲーションシステムは光学式が一般的であり、その活用には頭部を金属ピンで強固に固定する必要があります。しかし、小児に対しては、薄い頭蓋骨に金属ピン強固に固定すると、頭蓋骨骨折により、頭蓋内出血を引き起こす危険性が高いため、不向きです。

磁場式ナビゲーションシステムは、金属ピンでの頭部固定が必要ないため、小児に対しても安全であり、術中において、正確な腫瘍の位置関係をリアルタイムに表示することができます。これにより、小児脳腫瘍に対する低侵襲な手術加療を可能にしています。

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 脳神経外科

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)