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留学体験記

松村 沙衣子 先生

 私は2017年5月から2020年7月までシンガポール眼研究所(Singapore Eye Research Institute:SERI)の近視疫学チームにClinical Research Fellowとして留学していました。

留学といえば、アメリカやヨーロッパが人気であり、シンガポールはマイナーな選択と思われますので、まずシンガポールの国について説明しようと思います。シンガポールは赤道直下の常夏の国で、面積は東京23区と同じ(約700km2)、そして東京の約半分の人口である600万人が暮らしています。外国人の割合も人口の約3割と多く、インターナショナルな雰囲気あふれるアジア都市です。

この国の魅力的な点は、なんといっても住みやすさです。日本人も約3万人以上が暮らしており、日本人小学校、日系スーパーやレストランも非常に充実しており、在住者は東京24区と呼んでいる位、比較的早く慣れることができます。日本へのフライトも6時間(時差1時間)で治安もよいため、小さい子連れの留学にはありがたい環境でした。

もう一つとても魅力的な点は、破格の値段で住み込みのメイドを雇えることです。シンガポールは女性の活躍が著しく、女性研究者も半数以上います。男性は2年の徴兵制があるため、女性が先に出世しやすいこともありますが、メイド制度が大きくサポートしてると思われます。一緒に住む?無理!と思われ方もいらっしゃると思いますが、シンガポールの住居はメイドが住む前提でデザインされており、玄関、シャワーやトイレも別、また生活導線を分けることも可能です。私もフィリピン人のメイドのおかげで、休みが無駄に多いインターナショナルスクールに通学する娘を持ちながらもフルタイム勤務を楽にこなすことができ、非常にありがたかったです。ラーメンにトマトやパプリカが入ってても許容範囲でしょ、という女医さんには是非おすすめの留学先と思います。

留学先であるSERIはシンガポール国立眼センター(Singapore National Eye Centre:SNEC)の研究機関として設立され、科学論文数や獲得した研究助成金も含め、アジアでトップ機関の一つです。SERIとSNECは月に何度か共同ミーティングを行い、SNECで働く臨床医とSERIの研究員が新しいアイデアを交換しながら橋渡し研究を立ち上げることができる環境が整っています。私は近視疫学チームに所属し、小児から大人までの人口調査のデータを用いて近視の有病ます。中でも、Singapore Epidemiology of Eye Diseases(SEED)Studyは有名で、おおよそ10000人のデータを長期に観察しています。自分のテーマを決め、プレゼンが了承されると、このような貴重なコホートのデータ分析、論文作成が可能です。留学前は、異国の地での研究という初めての経験に不安だらけでしたが、分からないことは恥を捨て聞きまくる、振られた仕事はすべて笑顔でYes!というスタンスでこなし、周囲がとても協力的だったこともあり、徐々に順応できました。英語でのプレゼンには大変苦労しましたが、倍以上の時間を費やし、何度も何度も練習したことも、今となってはよい思い出です。

今現在留学を振り返ってみて、苦労もたくさんありますが、得られる経験の大きさにすれば思い切って進めてよかったと思うことばかりです。日本の臨床生活では知り合えない貴重な人脈を形成できたことも大きな宝になりました。また実際の現場で感じた文化の違いは、医師の立場だけでなく女性としての生き方も、私の考えに大きく影響しました。女医にとってキャリアと育児とのバランスは悩みの種ですが、海外ではアウトソーシングを許容し、うまく活用している女性が多い印象を受けました。また外国人は自分アピールがとても上手で、プレゼンの仕方も一遍通りではなくユニークです。

たまに大したことないことを自信満々で語ってる場合もありますが、遠慮がちで謙虚な日本人は少し見習ってもよいかもしれません。英語の壁に関しても、いくら勉強してもネイティブレベルにはなりませんし、相手も完璧な英語を期待していません。大事なのは自分の意見があり、それを伝える勇気と単語力ですので、単語はコツコツ準備しながらもチャンスの波があれば躊躇わずに乗ることが大切と感じました。プライベートでの留学のメリットは、家族との時間の確保と子供の教育でしょうか。日本で夫婦共に臨床生活をしていた頃と比べると、研究生活はフレキシブルですので、長期休暇を使用したくさん家族旅行に行くこともできました。娘達はありえないスピードで英語を吸収し、世界中にたくさんの友人を作り、母国はいまだにシンガポールと思って過ごしているようです。帰国してから今でも家に飛び交う姉妹間の英語の会話を聞きながら、留学にかけたお金はプライスレスだったはずと無理やり信じながら留学の余韻に浸っている毎日です。

最後に、私を支えて下さっている東邦大学大森病院の堀教授と医局員の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。この留学で得た知識と経験を生かせるよう、今後も努力していきたいと思います。
写真1:留学先のシンガポール眼研究所(Singapore Eye Research Institute:SERI) 写真1:留学先のシンガポール眼研究所(Singapore Eye Research Institute:SERI)
写真2:SERIの Executive DirectorであるProf Aung Tin(右4番目)とボスのProf Saw Seang Mei(右3番目)とチームメンバー 写真2:SERIの Executive DirectorであるProf Aung Tin(右4番目)とボスのProf Saw Seang Mei(右3番目)とチームメンバー
写真3:Myopia Centreにて【ボスのProf Saw(左3番目)とジョンソン・エンド・ジョンソン・ビジョンのチームメンバーと共に】 写真3:Myopia Centreにて【ボスのProf Saw(左3番目)とジョンソン・エンド・ジョンソン・ビジョンのチームメンバーと共に】

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