日本の土壌と文化へのルーツ64 味の効能と味覚障害

緒言

 東洋医学では味覚自体に効能があると考えている。味覚には、身体、精神に対して作用、副作用があり、その作用はそれぞれの味によって異なる。味覚の効能というのは、現代の栄養学ではあまりテーマにされない内容かもしれない。
一方で、日常診療では、「味をあまり感じない」という味覚障害の訴えがある。食事をおいしく摂ることができなくなった状態を広く味覚障害と呼んでいるが、原因も多彩であり、診断には詳細な問診および口腔内乾燥の有無や衛生状態、舌表面の注意深い観察が必要である。1)、東洋医学においても現代医学と異なったアプローチで味覚障害の治療が行われている。
 ここでは、東洋医学的な味覚の効能を主体に紹介してみたい。

現代医学と東洋医学の味覚の分類

 現代医学における味の分類は以下のようになっている。甘味、塩味、酸味、苦味、旨味という基本味以外に辛味、渋味、えぐ味、キレ、コク、食べ物の温度や硬さ、嚙む音、さらには食べ物の香りや色と五感をフルに動員して美味しさを感じる。さらには気温や湿度などの周囲の環境や、そのときの心理状態、経験なども味の感じ方に違いを及ぼす。1)
 一方、東洋医学では味覚を酸味、苦味、甘味、辛味、塩味(鹹)の5つに分類している。淡味は甘味に渋味は酸味に含めている。

味覚の効能と弊害

 東洋医学では例え人体に必要なものであっても、摂りすぎは良くないという考え方がある。あくまで、不足にも過多にも弊害があり、適切な量の摂取こそが望ましいというバランス、中庸を重んじる。

甘味 補う・緩めることによる疼痛緩和

 甘味について、東洋医学では次のように解説している。「甘味の食物は、人体の衰えをよく補養し、緊張をゆるめ、痛みをとる作用があり、諸薬の中和の役目をもつ。滋補強壮作用があるので、身体気血の虚に対して有益である。」2)
諸薬の中和とは、副作用を減らすという考え方である。漢方の処方は、複数の生薬の配合で形成されている。甘味を有した生薬を配合することで互いの生薬の相互作用に問題が生じないようにするという考えである。例えば甘草という生薬は本来、薬物相互作用に対する有害事象軽減目的で配合されている。それが多すぎると偽アルドステロン症という逆に副作用の原因となってしまう。多すぎても少なすぎてもいけないという教訓となっている。
「甘味の食べ物は、穀類、芋類、卵類、乳類、肉類、魚類、果実類、蔬菜類、調味頻の各範囲にわたって多く、これらはみな甘味の効用により補養作用がある。」2)
「カボチャやサツマイモなどが当てはまる。」3)
 心身を補うというのが、甘味のもっている特質である。今のように甘さが流通していない時代には、穀物を中心とした自然の甘さが“補”の典型であった。
「例えば、消化器系統の機能が弱っているような場合に、モチ米にナツメを加えた粥を与えるが、これはモチ米とナツメがともに甘味の食べ物である上に、加熱により温性(註:身体を温める性質)が加わり、よく補益し、温めて消化器の冷えを治すことができるからである。」2)
 消化器系統が激しく弱っている場合には、重湯を用いていた。これも補液という手段がない時代には、注意深く行われていた。その際には新米よりも陳倉米といって、年を経過した古いコメの方が弱った消化管には良いと考えられていたのである。
 その必要な甘味であっても、摂りすぎると良くないことが生じる。例えば、以下のようなことが書かれている。
「体に熱がこもりやく、余分な水がたまりやすくなります。」3)
「過食すると弛緩作用が過剰になり、体がだるく、腎の作用を弱めてブヨブヨになる。」2)
 ここでいう腎とは、東洋医学のいう五臓の一つでその人がもっている潜在的な生命力を貯蔵している場所と考えられている。つまり、腎の強さは寿命や元気でいられる時間にも関係しているのである。

辛味 発散する

 それでは、辛味にはどのような効用があるのであろうか。
「体を温め、発散させ、気血のめぐりをよくする効用がある。風邪をひいたときとか、寒冷によるものや停滞する病気に対して有益である。」2)
 辛味には身体を温める作用、心身をめぐる気(註:エネルギーのような概念)や血(註:赤い液体の栄養物質)のめぐりを良くし、発汗する作用がある。
「辛味の食物は、葱、ニンニク、ニラ、カイワレ葉、辛味の強い大根、紫蘇、ハッカなどのほか、香辛料の生姜、胡椒、唐辛子、ワサビ、辛子、山椒などである。」2)
 生姜、大根、葱が代表的である。
「生姜、胡椒または山椒にナツメを加えて煮出したものを飲むと、寒さで引きつるような痛みによく効く。これらの香辛料は、辛くて熱性なので、よく発散させ、気をめぐらせるからである。」2)
 特に寒い日には、このような香辛料を使った鍋は心身を温め、寒さをしのぐには良い方法である。くれぐれも汗をかきすぎないようにすることが大切である。汗をかきすぎると、せっかく温まった身体内の熱が外に逃げてしまうからである。
 辛味はのどへの刺激が強いため、甘味と合わせる方法もある。
「例えば、風邪の初期などに、葱、生姜、ニンニク、大根などをたくさん使った料理や飲み物を用いたり、姜糖蘇葉飲のように、生姜と紫蘇の葉を煮出して砂糖を加えた飲み物を作って風邪やのどの痛みを治療する。これらは、辛味の持つ発散作用によって、病を体表面から駆逐してしまうのである。」2)
 これは生姜との辛味を砂糖の甘味で治療する方法である。甘味を多少加えることによってのどへの刺激が弱まり、より飲みやすくなる。
 ただ辛味も多く摂取すると害がある。
「辛味のものを過食すると、汗や人体の陽気を発散しすぎて、逆に冷えるので注意を要する。」2)
「体の「陰」を傷つけ、「陰虚」などの体質の方に合わないとされている。」3)
 汗をかくことは、運動全般が少なくなった世の中では一定レベル必要なものである。しかし、すべての体質の方に奨励できるものではない。特に陰虚といって身体がもともと乾燥傾向で、のぼせ、ほてりを生じやすい方には不適な味覚であう。

酸味 引き締める

「酸味の食物は、出すぎるものを収め、渋らせる効用がある。また、消炎作用を持つ。ゆるみのある状況に対応する味で、盗汗、長引く下痢、尿の出すぎ、遺精などに有益」2)というのが酸味の効能である。
 辛味が心身のめぐりを良くするという効能に対して、酸味は漏れ出るのを防ぎ、引き締める役割を有する。
「酸味の食べ物は、スグキ、ミョウガ、梅、スモモ、キイチゴ、ザクロ、レモンや橙のような柑橘類、酢、ヨーグルトなどである。」2)他にホウレン草、渋柿、銀杏がある。3)
 ちょっとした味付けに用いるとすれば酢、レモンなどが代表的である。
「梅シロップは夏の飲み物として最適である。これは梅の酸味が下痢や汗の出すぎを防ぐ上に、甘味が加わることによって生津するので、のどの渇きに対しても効果的なのである。」2)
 酸味は止汗作用として用いられる。夏には、身体の皮膚の感染は開いて発汗しやすくなっている。これは熱を外に出すシステムとしては必要なものである。しかし、過度となると脱水傾向をきたしやすい。このような調和するために酸味、そして甘味を加えると良い。酸味には皮膚のきめを引き締め汗を漏れ出さないよう適度に調整する。この場合の甘味は生津といって体液の方を補う働きである。
 熱帯のタイ国のトムヤムクムという料理をご存じの方も多いと思う。トムヤムクムは唐辛子など辛味もさることながら、レモンなど柑橘系の酸味も加えている。暑いさなかすっきりと汗をかきながら、かつ酸味で発汗過多のならぬよう調整されている。その微妙な調味を美味しいと感じられるのはありがたいことである。
 しかし、酸味も摂りすぎると身体に負担がかかる。
「酸味は骨(「腎」のシステムに属する)を傷つけ、酸味を摂りすぎると胃腸の負担になり、体が無力になります。」3)
 そのため、胃腸が弱いと感じている方は、酸味はあまり得意ではない。東洋医学において、胃腸とは気を産生する源と考えられているため、胃腸が弱くなると気が減少し、倦怠感を生じやすくなる。
「過食すると、収縮する作用のために、もともと発散傾向の少ない人はさらに発散妨害を受けるので注意する。」2)
 例えば、慢性便秘や東洋医学的に“瘀血”(末梢循環不全などを含む“血のめぐりが悪い”状態を指す。)の体質の方は、酸味はあまり摂る必要がない。

苦味 気を降ろす

 食材として苦味のものはあまり好まれなくなっているかもしれない。しかし、苦みは非常に大切な効能を有している。
「苦い味で、気を降ろす(漢方は降と言う)働きがあり、体の余分な水分を排泄する(「燥湿」と言う)作用があります。」3)
 東洋医学では、気というエネルギーを想定し、その動きを上昇、降下、発散(外へ向かう力)、収斂(内へ向かう力)のように分類している。苦味はその降下、つまり気を下向きへと移動させる働きがある。
「苦味の食物は、よく瀉出し、水滞を乾かし、堅ためる効用を持つ。従って熱証状態や体内に湿気がこもっておきる病気や、気逆症状の時に有益である。」2)
 体内に不要な水分、熱を排泄する働きがある。また、気逆とは気が逆上しているという意味で、心身とも興奮状態にあるために、気を降ろしてあげることが治療の要となる。
 具体的な食材としては、苦瓜、ゴボウが代表的である。
「例えば、苦瓜を炒めた家庭料理があるが、苦瓜は性質が寒で苦いから、よく瀉出し清熱する。だから、熱のため、口が渇き、煩悶状態にあったり、目の充血、暑気あたりなどの有益である。」2)
 中国では広東料理、台湾料理によく使われている。いずれも熱帯、亜熱帯の地域である。体内の熱感や余分な水の排出に適しているために、日頃より炎症を生じやすい体質や真夏の高温多湿の環境下では、より摂取されてもよいであろう。ウリ科の植物は他にも、冬瓜、キュウリが挙げられる。冬瓜の種子は薬物としての価値が高く、漢方薬の中に桂枝茯苓丸加ヨクイニン、腸癰(ちょうよう)湯(とう)、大黄(だいおう)牡丹皮(ぼたんぴ)湯(とう)などいずれも局所の消炎作用を有する処方に含まれている。
 沖縄で大切にされてきた地場野菜、ゴーヤ(註:苦瓜と同義とされる)はこの苦味こそが大切にされてきた理由かもしれない。なぜならば、沖縄の気候風土、暑さ、湿気に必要な効能を有しているからである。九州の薩摩、奄美料理の中にもゴーヤが使用されている。もともとはインド、ボルネオなど熱帯原産の植物である。熱帯の酷暑では苦味は意外に好まれる味なのである。
 一方のキュウリは、、、

 苦味の食材の幅を広げてみると、
「苦味の食物は、牛・豚・鶏・魚などの内臓、海藻類、チシャ・蕗・クワイ・セロリ・ピーマン・苦瓜・パセリ・ウド・紫蘇・ツクシ・ワラビなどの苦味の野菜類。およびグレープフルーツなどの苦味の強い果実類、コーヒー、茶などである。」2)などへと広がる。
 フルーツとなると酸味との混合となり、山野草の多くは苦味を有している。
そして、苦みもまた過食すると身体を痛める。
「過食すると陽気が少なくなり、胃腸を冷やしやすいので注意を要する。」2)
 つまり、苦みは身体の熱感を摂る分、過食すると冷えやすくなってしまう。
「苦味は体の「陰」を傷つけやすく、「陰虚」などの体質の方に合わないとされています。」3)」
 こちらも身体の余分な水分を排泄する働きがあるために、もともと陰虚いう乾燥傾向の強い方が過食するとより乾燥しやすくなってしまう。

塩味 堅いものを柔らかくする

 塩につける食材が柔らかくなる。このような経験からだろうか。
「塩味で、堅いものを柔らかくする作用があります。」3)このような働きが塩にはあると考えられてきた。精製された塩というよりはにがりを含んだ本来の塩が鹹味である。
「鹹味の食物は、しこっているものをやわらげ、潤し、下す効果がある。バセドー病、皮膚の下にできるしこり、リンパ腺の腫れ、便秘などの症状に対して有益である。」2)
 腫瘤と考えられるものは良性のものを想定していると考えられるが、東洋医学では塩味がその“しこり”の治療に一定の効果があると考えられていたのである。
食材としては、塩、昆布が代表的である。
「例えば、ハマグリ、アサリ、シジミ、アワビ、カキなどの貝類は味が鹹で寒性なので、腫れやしこりのある場合に用いられて効果的である。」2)
「鹹味の食べ物としては、塩、しょうゆ、味噌などの調味品や、漬け物や塩蔵魚肉類がある。」2)
 いずれも日本では比較的使用頻度の高い食材であり、すでに日常生活に浸透しているといえる。今では塩の過剰摂取が問題となっている。
「過食すると、鹹味の作用の潤す効果が過ぎて、腎から水をとりすぎ、腎精を弱めるので注意が必要である。」2)
 ここでの腎とは生命力の貯蔵庫のような場所である。それを強めるのは本来は塩味である。しかし、過食すると腎と傷める事となる。過少と過多はどちらも極端なので中庸を行く必要があるのだが、それが難しい。

血圧をあげる。一種の強壮剤

味覚障害の原因

 現代医学的なアプローチとしては、味覚伝導路を念頭に障害部位を考える。
(1)伝導性味覚障害
「味物質はまず唾液や食物中の水分に溶解して味蕾に到達する。この過程は唾液分泌量の減少により障害される(伝導性味覚障害)。ガムテストで刺激時の唾液分泌量が10mL/10分以下であることや安静時の唾液分泌量が3mL/10分以下でまいけないかを確認する。」1)
「唾液の分泌量が十分であるかの目安として、飲料なしでパンを食べることができるかの確認や、最近、齲歯が増えていないかどうかの問診も参考になる。唾液分泌は噛むことで促進されるため、義歯を使用している場合は適合が良好であるかを確認し、必要に応じて歯科医と連携を行う。」1)

 現在では、COVID-19罹患による一症状でもあり、漢方外来でも報告例が散見される。

東洋医学と味覚障害

 東洋医学においても、口苦(こうく)、口甜(こうてん:口が甘い)、口鹹(こうかん:口が塩からい)、口酸(こうさん)のように味覚の種類によって分類されてきた。また、その病態生理とそれに対しての処方も報告されている。
 こちらは別の機会に。

Abstact

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol.8;
Koichiro Tanaka, Toho University School of Medicine, department of Traditional Medicine 2014

参考文献

  1. 西田幸平、小林正佳:特集 高齢者の疑問にどう答えるか 味覚を感じないときにはどうしたらよいのでしょうか?,JOHNS,39;1036-1038,2023
  2. 山崎郁子:中医営養学,第一出版社,1988
  3. リョウコウセンンカク:東方栄養新書,メディカルユニコーン,2005

投稿者:田中耕一郎

トップページに戻る

Top