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日本の土壌と文化へのルーツ⑭ 盛夏の養生食

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

梅雨明けと夏の気象

日本を取り巻く、4つの気団、つまり乾燥した大陸性気団(南からの温暖な揚子江気団と北からの寒涼性のシベリア気団)、湿潤した海洋性気団(南からの温暖な小笠原気団、北からの寒涼性のシベリア気団)のせめぎ合いによって出来た梅雨前線は、夏の長い日照時間により北半球は太陽からより多く熱を受け取るようになる。熱を増すことによって、力を有してくるのは、海洋性の温暖な小笠原気団である。4つの気団の均衡はくずれ、小笠原気団が日本列島に張り出し、梅雨明けとなる。

天からの強い日照による熱により、地からは梅雨に豊富に含んだ水分(湿)が薫蒸されて、人体は、熱と湿の強い大気により包まれる。これを暑気といい、それが人体に疾患を引き起こすとき“暑邪”と呼んでいる。

東洋医学は“伝統的”だが時代による進歩もある

2000年程前に出来た医学書とされる『黄帝内経』(こうていだいけい)、『傷寒論』(しょうかんろん)をもとに東洋医学は出来上がってきている。その古典は今でも有効な医学体系を有しており、東洋医学における“聖典”といえる。

しかし、個々の疾患に対して新しい治療法は時代を追って生み出されている。その一つが温病(うんびょう)学といわれる分野で、主に長江以南から広州にかけての南方での疾患、特に感染症に対して開拓された分野である。

ウィルス、細菌、寄生虫などの感染症はそれぞれ症状の違いがあり、季節、地域性も異なるためである。東洋医学には、因地・因時という大切な考え方がある。

因地・因時 ~季節と地域性を考慮する~

大気の状態は寒暖という気温と、乾燥と湿潤という湿度の状態によって決まってくる。これらの組み合わせによって、熱(乾燥)、寒(乾燥)、寒湿、湿熱のように分けられる。人体はその大気の状態によっても体調不良を引き起こし、また微生物も地域性や季節性があるように、好む大気の状態があって増殖するために、地域、季節の違いによる大気の状態の差異は、感染症の種類にも違いが出てくる。

熱帯の熱気と湿気の中で罹患する蚊を媒介にしたマラリア、デング熱が、寒冷な地域での感染症としてダニを媒介とするライム病は、媒介する昆虫の生息に適した寒暖、乾燥と湿潤の程度と関係している。

冬のインフルエンザ、ロタ、ノロ、RSウィルス、マイコプラズマ、百日咳、夏の手足口病、咽頭結膜熱(“プール熱”)、ヘルパンギーナ、流行性結膜炎、伝染性軟属腫(“水イボ”)、伝染性膿痂疹(“とびひ”)などがある。

夏の感染症の症状を見てみますと、咽頭や扁桃腺炎、結膜炎、発疹(水疱様)、発赤、びらん、膿疱といったものが見られます。東洋医学の目で見れば体表部、咽頭部、眼の発赤、充血は“熱邪”、腫脹は水を含んでいるために“湿邪”と考えます。夏の暑気の性質である熱と湿は、夏の感染症の症状にも表現されているのである。

このように季節と地域性を考慮することを因地因時という。また因人、つまり“人に因る”とは個々の体質を考慮することで、因地・因時・因人は東洋医学での人と自然界との関係性の基本的な考え方である。

盛夏の時期の疾患 ~暑気あたり~

暑気あたりにあたる東洋医学用語は、中暍(ちゅうえつ)、または中暑という。

“暑邪”によっておこるものには熱中症がある。2000年程前のものではないかと考えられている内科、婦人科などの医学書である『金匱要略』には中暍に関する症状と治療法が記載されている。症状からは意識障害はなく、身体の熱感と疼痛、手足冷え、発汗の症状があり、熱中症でいればⅠ度(熱痙攣)~Ⅱ度(熱疲労)の重症度と考えられる。

代表的漢方薬 ~白虎加人参湯~

最初に記載されているのは白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)という漢方薬である。熱疲労の治療目標は、暑邪による熱感を冷やすことと、発汗などによって失われた脱水の補正である。白虎加人参湯の中の最も重要な薬物は、鉱物の石膏(セッコウ)、CaSO4・2H2Oである。身体の熱感、口渇を取る作用があり、石膏は人体の冷却装置のように作用する。また人参は、身体の“気”(この場合は活力)を補うだけではなく、良質な体液を生み出し、脱水を補正する働きがある。

この処方中には、精白していない(うるち米)が入っている。現代では何気なく毎日食べている米であるが、東洋医学は生薬として頻用されている。

粳米は他の生薬と煎じると粥状になり、その重湯を用いるのである。東洋医学では、重湯は、胃腸の消化力低下を補い、滋養するために用いられてきた。点滴のない時代、消化管の水分吸収力を高めることは脱水に補正の不可欠であった。特に熱中症に使用する生薬群は身体を冷やすものが多い。東洋医学では、消化管は冷やすことで消化吸収力が低下すると考えており、胃腸を守るために様々な工夫がなされている。

脱水状態にはただ冷水を飲むのではなく、常温から暖かい水分で、ミネラルや炭水化物も含んだ“天然の補液薬”が重湯であったわけである。

暑気あたりの治療 瓜蒂(かてい)

もう一つ、『金匱要略』に記載されている中暍の生薬に瓜蒂がある。これは、ウリ科マクワウリ(cucumis Melo.L)の果実の“ヘタ”である。瓜蒂の苦味質のメロトキシンは、嘔吐中枢を興奮させ、嘔吐を催す作用があり、瓜蒂は暑気あたりの治療として嘔吐を誘発することで治療する。脱水傾向の熱中症で、何故わざわざ吐かせるであろうか。これには東洋医学の独特の考え方がある。暑気払いとして水に浸かったり、冷水、冷食の過剰摂取により、水分は身体に吸収されるものの、循環血漿量にならず、反って皮膚に浮腫を生じる場合があると書かれてある。つまり循環血漿量は不足しているものの、利用されない水分は逆に溜まっている状態である。その際には瓜蒂の吐かせ、皮膚の水分を除去する作用によって、この状態が改善されると考えられている。これには異論もあるが、熱中症でも軽い状態のものとされている。

西瓜・西瓜皮 ~天然の白虎湯~

ウリ科の瓜蒂を用いる積極的な治療とは別に、吐かせずに安全でよく知られている食材がある。この食物は前述の熱中症の治療薬の白虎加人参湯にちなんで、“天然の白虎湯”と呼ばれている。

その食材は、西瓜(スイカ)である。もともと熱帯アフリカ南部のカラハリ砂漠が原産地で、高温、多日照、乾燥を好み、“砂漠の水甕”と呼ばれている。カラハリ砂漠は夏季の気温は20度から40度で、年間250mm以上の降水量(400mm以下では樹木は育たない)を記録し、草原が広がっている。

特に成熟期に高温、多日照、乾燥の条件下で果実は糖度が高く、良質のものが得られるとされる。熱邪が襲う乾燥した環境の中での西瓜の強力な水分吸引力を利用して、身体に良質な水液を補給するのである。

西瓜は、人々が盛夏を乗り切るために、自然界から与えられた恵みであり、果実そのものにも清暑の作用があるが、生薬としては皮(西瓜皮)がよく用いられる。

中国清代の温病(うんびょう)学の『温熱経緯』という書物の中には、暑気あたりで白虎加人参湯証よりも脱水が進んだ場合には、王氏清暑益気湯(おうしせいしょえっきとう)を処方する。その方剤中には西瓜翠皮(西瓜の皮の内側の柔らかい部分と外側の皮を削った中間部分)が用いられている。

他のウリ科植物で夏に収穫される苦瓜、冬瓜、西瓜、絲瓜絡(ヘチマ)、苦瓜(ゴーヤ)の果実には、いずれも清暑の作用がある。そして、ヘチマの果実の線維を乾燥させたもの(は絲瓜絡(しからく)は清暑の生薬として用いられる。たわしとして用いた経験がある方もおられるでしょう。

胃腸が弱いと暑気あたりしやすい

日本の保険で使える漢方エキス製剤に清暑益気湯(せいしょえっきとう)がある。これは前述の西瓜皮をつかう王氏清暑益気湯とは生薬の内容が異なっていて、西瓜の皮は入っていない。しかし、別の形で非常に貴重な漢方薬となっている。それは、胃腸虚弱、疲労しやすい体質の暑気あたりに非常によい組み合わせなのである。

白虎加人参湯、西瓜も全体としては身体を冷やす作用を有している。そのため、日頃さほど暑がりではなく、胃腸虚弱のものには向かない。身体を冷やしすぎてしまい、消化機能をさらに低下させてしまうために、反って倦怠感を増大させてしまうのである。

この処方の目的は熱中症というよりは、胃腸虚弱者の“夏ばて”である。確かに暑気に身体がやられているのであるが、胃腸が弱く、暑さ、湿度で体力を消耗し、夏季を乗り切る体力が失われている病態である。1)夏季に発症する症状であり、白虎加人参湯、西瓜なのか、清暑益気湯が適するのかを鑑別しなくてはいけない。これは前述の“因人”である。

結語

夏の気象の特徴とその症状の関連、そして夏季に多い熱中症についての漢方薬と食材について紹介した。東洋医学では、因時、因地、因人というように季節、地域性、体質のそれぞれを考慮する必要がある。このことから日々の気象の観察は、東洋医学では診療に入る前にも大切な事柄であり。それは、その日の気象は、その日に受診される患者様の症状に非常に密接に関連しているからである。

そして夏の熱中症の予防の食材にはまさにその時期に収穫される西瓜を始め、ウリ科の植物の果実が用いられる。西瓜の原産地はアフリカであるが、世界の生薬、食材は広く交流し合って、品種改良も行いながら日本に定着し、夏にはなくてはならない食材であり、生薬となっているのである。人類は単なる自然まかせでなく、因地、因時、因人を考慮して、環境をより健康に生きるために工夫を重ねていっているのである。

参考文献

1)丁光迪 編著、小金井信宏:中薬の配合,東洋学術出版社, 2005

Abstract

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol; 14

Koichiro Tanaka, Toho University School of Medicine, department of Traditional Medicine, 2015

Clinical & Functional Nutriology 2015,9(4)

The wet, hot air created by accelerated evaporation from the long rain-bellied ground towards the beginning of summer is called “summer heat,” and the illnesses it bring, the “summer heat devil” in Oriental Medicine
This month, we will explore the discipline of “summer-heat disease” which theorizes that symptoms of the same infectious virus, bacteria and parasites will present differently due to seasonal and regional differences. In Oriental Medicine, the notion of “from place to place, time to time” is considered very important.
Disease discussed in this article will include vector-borne disease, skin rashes, and heat stroke. We will discuss “Byakko-ka-ninjin-toh,” which is the first documented herbal medication made from ginseng as heat stroke medication. It’s primary pharmaceutical ingredient is gypsum, or CaS04・2H20, which acts as a coolant in the body. Ginseng, known for its Chi regenerating (or in this case, re-energizing) properties, will also activate the body’s fluid restoration mechanism and help create quality fluids to alleviate dehydration. Other medication uses the hull of the cucumis Melo L. This hull contains melotoxin, which gives its bitter taste, and is used to induce vomiting. The unique Oriental theory behind this forced vomiting will also be discussed in this article. (200 words)