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日本の土壌と文化へのルーツ㉘ 韓国の食材

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

東洋医学の盛んな韓国

 韓国では、東洋医学が日本以上に盛んである。ソウル市内の生薬市場(ソウル薬令市場)に行くと、漢方の生薬の専門店が立ち並んでいる。朝鮮半島の特産の朝鮮人参を代表として、中国各地の質のよい生薬も集まってくる。一般の方も自宅で料理をする際に使用するために購入に来る。これは中国でも普通に見られる風景である。中国、韓国とも漢方薬を日常の食生活で、取り入れる文化が浸透しているのである。薬令市場は、観光化もされていて、韓国の伝統医学(韓医学)の韓医薬博物館もある。中国、韓国の両国とも自国の伝統医療を、自国の強みとして対外的にアピールしようとする動きが活発である。
韓国には、東洋医学専門の大学医学部があり、西洋医学の医師免許と別に韓医学の医師免許がある。鍼灸治療が保険適応で、漢方治療は保険外となっている。鍼灸治療は、韓国の伝統医療の中で非常に盛んである。
 東アジアの中国、韓国、台湾、日本では、『黄帝内経』(こうていだいけい)や『傷寒論』(しょうかんろん)という医学書を基盤としているために、ある程度共通の基盤を有していて、医学的な議論が可能である。一方で、それぞれの国の独自の発展は見られる。例えば、日本の漢方医学には、腹診という独特の腹部診察法、韓医学には四象医学という体質分類法がある。
 隣国の中国の書店には、日本の江戸時代の漢方医学書のコーナーもある。中には、日本の漢方医学に腹診についての翻訳本や論説も見られる。東洋医学を有する国々の専門家間には、学術的に積極的にお互いを学ぶという姿勢があるのである。
 東洋医学の盛んな韓国では、料理にもその考えが非常に浸透している。
生薬市場風景 生薬の切片を販売 
生薬市場風景 生薬の切片を販売 
生薬市場風景 生薬を粉にして販売
生薬市場風景 生薬を粉にして販売

キムチ

 韓国の代表的食材と言えば、キムチである。キムチに使用している唐辛子は、 “新大陸”、中南米原産である。韓国における唐辛子の使用は、中国四川省におけるとともに1800年代の事で、歴史はさほど古くはない。従来のキムチは、唐辛子の代わりに山椒を用いていた。山椒もまた、漢方薬である。
 キムチの製法には、アジアの知恵が多く含まれている。唐辛子(Capsicum annuum)は、東洋医学では蕃椒(ばんしょう)と呼ばれ、身体を強力に温める作用がある。朝鮮の唐辛子は、日本の鷹爪のような品種に比べて、辛味成分であるカプサイシン濃度が低く、辛さが控えめで、独特の風味がある。そのため、キムチに、韓国産の唐辛子が向くのである。
 キムチには、唐辛子以外にも多く薬味が付け込まれる。塩辛、または塩辛の汁もまた、隠し味として不可欠な薬味である。その塩辛の風味を維持するために、唐辛子は一役買っている。唐辛子は「塩辛の生臭さを抑えるだけではなく、その辛み成分には脂肪の酸敗を防ぐ効果がある」ので、塩辛が腐敗して悪臭を放つことを防止しているのである。1)
 発酵食品は、食物の消化を促進すると、東洋医学では考えられている。
 東洋医学では、天然塩は腎(東洋医学では水分代謝、生殖器に関係した機能体系)を強化する。東洋医学的には適度に用いることで、衰弱した身体への強壮作用を有する。過剰摂取は血圧上昇を引き起こすので注意が必要である。
 塩辛は、「中国の古代文献にもあらわれ、明代あたりまでは、よく食べられていたようであるが、中国人の食習慣がしだいに生ものを食べなくなるにつれて衰退し、現在では地方的に限定された食品になってしまった。」1)日本、韓国では今でも塩辛は食卓にも上る食品である。ただ、日本の塩辛との違いは、韓国の使用頻度の方が高いことと、塩辛を「粉トウガラシ、ニンニクをすったもの、ネギ、ゴマ油、グルタミン酸などの薬念(ヤンニョム)とあえて食卓に出すということである。なかには最初から粉トウガラシなどの薬味類を漬け込んでつくる塩辛もある。」1)というように、加工法が異なる。
 ニンニクは、東洋医学では大蒜(たいさん)と呼ばれ、消化管の駆虫、殺虫作用を主体に用いられている。性質は辛く、身体を温める強壮作用がある。ニンニクは冷え込む朝鮮半島の寒冷地対応食でもあるのである。
 「トウガラシにはビタミンCが豊富であり、またトウガラシとニンニクはキムチの中のビタミンCの酸化を防ぎ、整腸作用をもつ乳酸菌の繁殖を活発にする作用をもっている。」1)
 唐辛子、ニンニク、塩辛は風味をよくするだけでなく、抗酸化、抗菌作用といった現代医学的な薬理作用以外に、身体を温めるといった寒冷地に適した東洋医学的な作用も有している非常に合理的な食品である。
 キムチの中でも、日本でもよく見かけ、キムチと言えばこれというものが、ペーチュキムチである。これは、白菜に大根の千切り、粉トウガラシ、ニンニク、ショウガ、塩辛などを漬け込んだものである。キムチの種類は他にも、キュウリ、ニラ、細ネギ、切干大根、カラシナ、エゴマの葉などよく見かけるものから、キャベツ、トマト、タマネギなども用いられる。また、ツルニンジン、キキョウの根なども用いられる。2)ツルニンジンは類縁のヒカゲノツルニンジンは、党参(トウジン)と呼ばれ、朝鮮人参の代用として重要な漢方生薬である。キキョウの根もまた漢方生薬であり、止咳、去痰作用があり、特に咽の炎症によく配合されている。

ナムル

 韓国料理では、メインの料理を注文すると、キムチはもちろんナムルも出され、おかずの品数が充実している。これは韓国料理の当たり前のことで、キムチやナムルを敢えて注文する必要はない。ナムルとは、野菜、山菜などをさっとゆがき、ごま油、塩、ニンニクなどで味をつけたものをいう。2)頻用食材には、大豆もやし、緑豆もやし、ゼンマイ、ワラビ、ホウレンソウ、セリ、エゴマの葉、春菊、ニラ、セリ、茎ワカメ、昆布、ゴボウ、ナス、キュウリ、未熟なカボチャ、キキョウの根、ツルニンジン、タケノコなどがある。多様な野菜が巧みに料理に加えられているのが、韓国料理の特徴である。
 この中で、大豆もやし、緑豆もやしのような芽の出た食材は、東洋医学では消化活動を助けると考えらえていて、肉食など脂質の多い食事には、非常によい組み合わせである。
 ナムルに使われるゴマは、東洋医学では、“補腎”といって、生殖器や加齢に伴う諸症状に用いられている。白ゴマは肺に、黒ゴマは腎に効くために、“補腎”では黒を用いる。伝統的に髪を黒くし、加齢による視力低下によいとされていて、40代以降は是非とも毎日の食材の中に加えたい食材である。

ビビンバ

 日本では、韓国料理の中でも最もよく知られている一つである。
 歴史は比較的新しく、李里雨によれば、「飯をそのまま食べずに各種のナムル、炒めた牛肉、錦糸卵(註:薄焼き卵を細く切ったもの)、ワカメ、揚げ物などをのせ混ぜて食べるビビムパブは、こんにち全州(註:韓国南西部)、晋州(註:韓国南西部)、海州(註:北朝鮮の南西部)などの郷土名物料理となっているが、これらは李朝時代の料理書には出てこず、1800年代末の『是議全書』に初めて出てくる。」3)
 しかし、当時のビビムパブ(汨董飯:コルトンパブと呼ばれていた。)は、今日代表的な全州ビビムパブとは、様式が異なるようである。
 当時のものは、「飯をていねいに炊き、肉を切って炒め、肝納(肉や魚に小麦粉と卵の衣をつけて焼いたもの)を焼いて切る。各種の野菜は炒めておき、良い昆布をから揚げにして砕いておく。飯にすべての材料を混ぜ、すりゴマ、油を多めにかけてかき混ぜて器に盛る。上にはスープの具のように、薄く焼いた卵を短冊切りにしてのせる。団子は肉をみじん切りにしてよく切り、真珠くらいの大きさにまとめた後、小麦粉を少々まぶし卵をくぐらせて焼いてのせる。」3)と記されている。
 「全州ビビムパブは、飯を蒸らす際、大豆もやしを入れて飯の蒸気でさっと熱を通し、釜の中でよく混ぜる。ここに三年ものの醤油、コチュジャン(唐辛子味噌)、ユッケ(生の牛赤身肉を千切りにして薬味醤油で和えたもの)、ゴマ油などをかけ、一番上に生卵をのせる。冬にはとれたての海苔、早春にはチョンポム(緑豆の澱粉を煮固めたもの)、初夏には春菊、晩秋には葉唐辛子やエゴマの葉などを添えて季節の味を楽しむ。」3)とある。
 地域により具材に特色がある。全州ビビムパブでは、クチナシで色付けしたファンポム(緑豆の澱粉を煮固めたもの)を欠かさずいれる。2)クチナシは料理の色付けとしても用いられるが、山梔子(さんしし)と呼ばれる漢方生薬でもある。不安、焦燥感など精神的な興奮状態の鎮静から、ほてり、のぼせといった上半身の熱感を冷まし、眼の充血、湿疹などに対しての抗炎症作用を有する。女性の月経、更年期などの諸症状に頻用される加味逍遙散(かみしょうようさん)に配合されている。
 晋州のビビムパブは、ユッケをのせるのが特徴である。2)
 現在では海州は北朝鮮に位置しているが、朝鮮時代には全州、晋州、海州は朝鮮三大ビビンバとされていたようである。海州のビビムパブは、「異色のビビムパブで。いろいろな食品と米と混ぜてから炊いた飯である。これは中国式の汨董飯(ビビムパブの古称)であって、決してわが国の伝統的なビビムパブではない。」2)とあり、朝鮮半島も北方にいくと中国料理の影響が色濃くなるのかもしれない。
 現在の韓国では、海州に代えて全州、晋州に安東(ホッチェサパプ:祭祀料理風ビビムパブ)を加えている。
 ビビムパブの起源に、祭祀から発展したものという説がある。「祖先を奉る祭祀の場合、供物をひとつ残らず飲福(ウムボツ)すなわち神を分かち合って食べるために、飯にいろいろなおかずを残さず混ぜて食べたのであろう。これがビビムパブになった。すなわり、祭祀の飯がビビムパブに発展したと見てよかろう。」2)
 祭祀のビビムパブの特徴は、「あらゆる海のもの、すなわち干したナマコ、赤貝、エゾガイ、昆布に大根を小さな角切りにしてつくった醤油味のスープ」が必ず付くこと、「葱、ニンニクを使わずに白く和える。もちろんコチュジャン(唐辛子味噌)も入れない。こうして和えたナムルに飯を混ぜ、塩味をきかせて蒸したイシモチ、鯛、アワビを添えて食べる味は、これまた格別だ。」という特徴がある。2)アワビの貝殻は、漢方では石決明と呼ばれ、精神の安定や、ストレス性の眼の症状(充血、疼痛、腫脹、羞明)などに用いられている。日本では、三重県では妊婦に食べさせる習慣がある。
 私にとっての最初の海外は韓国であった。ハングルがまだ話せず、読めず、空腹の中、比較的目につきやすいビビムパブのハングルを頼りに店の中に入ったものである。空腹に沁みる韓国の思い出である。

結語

 東洋医学の盛んな韓国料理から、日本でも身近なキムチ、ナムル、ビビンバについて紹介してみた。これらは、どの料理の際にも食卓に上る品々であり、肉食文化の中で野菜をバランスよく摂取する工夫に長けている。キムチに用いる唐辛子、塩辛、ナムルにおけるごま油は味付けとして有効な以外に薬効もある。
 このように食材、調理法にも東洋医学の知恵が非常に浸透しているのが、韓国料理の優れた点であると考えられる。

参考文献

1)石毛直道:世界の食べもの,講談社,2013
2)八田靖史:魅力探求,韓国料理,小学館,2006
3)李里雨、鄭大聲、佐々木直子:韓国料理文化史,平凡社,1999

Abstract

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol;27

Clinical & Functional Nutriology 2017; ()

Koreans incorporate many ideas of oriental medicine in their cuisine. Here are a few examples using some of its most popular dishes in Japan; Kimchi, Namul, and Bibimbap. These are staples that provide essential vegetables in a meat-oriented food culture. Chili peppers used in Kimchi are spice vegetable that originates from Central South America – New world, and its use in Korea, like in Sichuan Province, China, dates back in the 1800s. Prior to the introduction of chilis, spice used in this pickle dish was Japanese peppers (or prickly ash, zanthoxylum fruit). Japanese peppers, chili peppers, salted fish guts in Kimchi, or sesame oil used in Namul, are not only favored for their flavor but also for their medicinal properties. The ingredients of these staple foods will vary by season, choosing what is most nutritious and medicinally efficacious, particularly in Bibimbap. This is a great example of how deeply and widespread the knowledge of oriental medicine is in the Korean cuisine.