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日本の土壌と文化へのルーツ㉙ 寿司の元祖 熟鮓(なれずし)

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

“寿司”の元祖 鮓

 昨年のベルリンでの学会の際、昼食に日本食への渇望感があり、ふと寿司屋へと立ち寄った。寿司屋の店内は、10数個のテーブル席があり、それらは日本人観光客ではなく、現地のビジネスマン、家族連れ、カップルで非常ににぎわっていた。そして、寿司自体も日本で出店しても十分美味しいと感じられるものであった。異国の地の日常生活に溶け込んでいる寿司を見て勇気づけられた思い出がある。
 最初の海外での寿司屋は、1906年のサンフランシスコのリトル東京とされている。
今日、寿司は、多くの海外の方々に好まれる“sushi”となり、100年を経ての盛況ぶりである。
寿司とは、米飯と主に魚介類を組み合わせた日本料理を指すが、現在、すしに用いられている寿司という漢字は、京都で朝廷へ献上することを考慮して、良い縁起のための、実は当て字である。寿司を分類すると、酢飯と生鮮魚介を用いた早鮨(はやずし)と、魚介類と飯と塩を乳酸発酵させた熟鮓(なれずし)の二つに代表される。現在の寿司とは、前者の早鮨を指している。一方、寿司の元祖は、後者の熟鮓である。
 「その(註:寿司の)原型は中国や東南アジアに古くから伝承されたもので、日本には非常に古い時代に流入してきたと考えられている。紀元前四~三世紀に成立したとされる中国最古の辞書『爾雅』(じが)(周代から漢代にかけての、さまざまな経典や諸経書を採録、解説した書)には、すでに「すし」についての記述があるが、それによると「鮓(さ)」というのが魚の貯蔵品、「鮨」というのが魚の塩辛、「魚に右に皿」(かい)が肉の塩辛で、その素材には鯉、草魚、鯰などの川魚、鹿、兎、山鳥などの肉が使われていた。このようにすしの元祖は魚や肉の漬け物とみてよく、今日の私たちがすしに持つイメージとは多いに異なるものだった。」1)
 今回は寿司の元祖である熟鮓についてみていきたい。

熟鮓(なれずし)

 現在の寿司が、酢飯を使用するのに対して、熟鮓では、乳酸発酵により酸味を生じさせため、同じ寿司でも全く異なる味覚である。
 魚介類を細菌や酵母で発酵させた発酵食品は多種にわたるが、その代表は何といっても「熟鮓」である。熟鮓は魚介を飯と共に重石で圧し、長い日数をかけ、乳酸菌(自己消化酵素によりタンパク質の分解を進める)を主体とした微生物で発酵させたもので、近江(滋賀県)の鮒鮓や紀州(和歌山県)の秋刀魚の熟鮓に代表される。」1))熟鮓の種類については、後で触れたい。
 熟鮓は、大陸から伝わったものだが、重石で圧すると製法は、日本の独自の特徴である。
起源については、諸説ある。
「中国南部の雲南省シーサンパンナやタイ、カンボジアなどのメコン川流域民族やヒマラヤ山麓文化にも熟鮓文化があり、この辺りが最も古い地域ともいわれている。」1)中尾佐助氏2)は、ラオスの山地民やボルネオの焼畑民族、石毛直道氏らは3)、東北タイやミャンマーあたりの平野部としており、海岸から離れた地域での保存食の保存食として発達を遂げたと考えられている。日本では、日本海側を主体に、紀伊半島にも見られる食事である。

日本海側の熟鮓

 熟鮓は、日本海側に豊富であるが、一説には黒潮に乗って伝わったとされる紀伊半島にも伝わっている。まず、日本海側から見てみよう。日本海側の熟鮓はいずしが多い。
 いずしは「飯寿司」と書き、魚、肉に野菜も加えて漬け込み、麹を加えることが特徴であり、熟鮓の一種である。いずしは北陸から東北、北海道に広がっている。鮭(サケ)、鰰(ハタハタ)、鰊(ニシン)がよく利用されている。4)
「古代文化は大陸から海を渡って日本に入ってきたものだから、日本海の食文化と熟鮓は、切っても切り離せないほど古くて深い関係にある。だから魚介を発酵させて造る食べ物といえば日本海沿岸はその伝統に満ちており、圧倒的に種類も多い。たとえば日本海沿岸には鯖、鱒、鮭などを原料とした熟鮓が至るところにあって、昔から庶民とともに育ってきた。」
「日本海沿岸には、他に秋田県の鰰鮓(はたはたずし)や石川県の蕪鮓(かぶらずし)といったすしの他に魚塩汁(しょっつる)やいしる、石川県や富山県のイカの塩辛の発酵品、鰯や(いわし)鯖の糠漬け(へしこ)など魚介類の発酵嗜好食品が実に豊富である。」1)
 魚塩汁は鰰(はたはた)や鰯などを塩漬け、発酵させたものの液相を煮沸、ろ過したものである。
日本海側の熟鮓
 へしこは福井県の若狭地方から京都の丹後半島の郷土料理で、越冬の保存食で、鯖、鰯に塩を振って塩漬けにし、糠漬けにしたものである。糠とは、穀物を精白した際に出る果皮、種皮、胚芽などで、糠床として糠漬けに使われる。同類の糠秋刀魚が北海道の釧路、根室にも存在しており、北前船によって伝わったとされている。江戸から明治にかけては、日本海沿岸諸地域が海路によって密につながっていたことがわかる。
 海岸に接していない滋賀県は、これらの日本海側の熟鮓が伝わったものとされる。「近江の鮒鮓(ふなずし)も、もとを手繰れば日本海から鯖の道を通ってやってきた日本海文化の一つである。」1)琵琶湖を有する滋賀県では、熟鮓技術を淡水魚に用いるようになった。

鯖の熟鮓と鯖の薬効

 鯖(さば)の熟鮓として、富山県の西側に位置すると砺波がある。
「富山県砺波平野の南端にある浄土真宗の城端別院善徳寺(城端町)の虫干法会と、井波別院瑞泉寺(井波町)の太子伝会では、今でも毎年七月二十二日から二十八日まで参詣者に鯖の熟鮓を斎として供する習慣がある。」
 次に鯖の熟鮓の作り方を見てみよう。
「井波別院の漬け込み方は、鯖千五百匹に塩四十㎏、飯米九十㎏、米麹三十㎏、山椒の葉及び唐辛子、日本酒少々を原料として四斗樽の鮓桶を十三樽用いて仕込みを行い、約六十㎏の重石をして六十日間発酵を行う。仕込みの日はだいたい五月二十五日前後で、土蔵の中でじっくりと発酵を行うが、漬け上がった鯖鮓はまことに見事なもので、その味は濃厚であり、そして匂いは生臭みの全くない、熟れた発酵臭である。」
 この調理法は東洋医学的には一種の薬膳といってよいであろう。
 東洋医学では、鯖は気血を補うとされ、身体、精神の働きを強め、安定させ、米は消化機能を高め、米麹は未消化物の消化を助ける。さらに、山椒は辛味が強く、身体の熱代謝を高める作用がある。鯖の熟鮓は、胃腸虚弱の方に向いた滋養食である。

蕪鮓(かぶらずし)

 石川県の蕪鮓、大根鮓もよく知られている。これらはいずしであり、蕪鮓は野菜に蕪を、大根鮓は大根を用いる。蕪鮓は、旧加賀藩で広く作られていたため、富山西部でも作られている。
「蕪鮓は一見、蕪の漬け物のようにも見えるが、れっきとした熟鮓の一つで、寒ブリを蕪に挟んで麹とともに仕込んだものである。これを厳しい寒さの中で四十日間ほどじっくりと発酵・熟成させるが、鯖や鮒などの熟鮓特有のにおいがなく、麹と蕪の甘味とブリの塩味とうま味、そして発酵での酸味とか上品に調和しあっていて発酵のすばらしさが全体に滲み込んでいる一品である。」1)
 蕪鮓は、塩漬けした蕪の輪切りに鰤(ぶり)の切り身を挟んで麹に漬け込んで発酵させた熟鮓である。昔は蕪鮓は高級品として武士が、庶民は大根に鰊(ニシン)を挟んだ大根鮓を食べていた。

鮒鮓(ふなずし)

 日本海側から内陸である滋賀県の琵琶湖周辺では、淡水魚を用いた鮒鮓が発達した。
「熟鮓の代表格である近江の鮒鮓の場合、四、五月ごろの産卵前の鮒(ニゴロブナ)に塩を振って漬け込み、それを七月土用に、鮓桶に飯と鮒を交互につめ込んで本漬けとし、強く重石をして発酵させ、正月頃から食卓に供す。鮒のほか(魚+完:アマゴ)、モロコ、ハヤ、オイカワ、ドジョウ、ウナギなどの鮓も昔は多かった。漬け込んでいる間、まず乳酸菌が飯に作用し乳酸を作り、飯と魚全体を酸っぱくしてpH(水素イオン指数)を下げ、防腐効果を保たせる。この時、魚のタンパク質の一部がアミノ酸に変わって、うま味を増すが、肝腎なあの強烈な臭みは発酵の初期から中期にかけて出てくる。
 この鮒鮓がじっくり漬け上がったところで、包丁を入れて適宜の厚さにし、やや紅がかった黄金色の卵巣を肉身とともに少し口にほおばるとき、その奥行きの深い味と匂いは、しみじみと日本人であることの喜びを感じさせてくれる。」1)
 発酵させた飯の部分は食さず、鮒だけを食する。鮒は、ウロコとエラ、卵巣以外の内臓を除く。そして、フナの腹腔内に塩を詰め、これを塩を敷いた桶に並べて、その上に塩を重ね、さらに塩詰めしたフナを並べるということを繰り返す。そして、最後に塩を敷き詰め蓋をし、その上に重石を置いて冷暗所に保管する。これは「塩切り」と呼ばれる。
 滋賀県の長浜市にいくと鮒鮓を食することができる。インターネットで注文できる時代であるが、現地の風情を感じながら、その場所で味わうのも一段と味を引き立たせてくれる。
鮒はコイ科に属し、鯉と同様に母乳の出を良くするとされてきた。また、淡水魚は滋養作用が強く、浮腫を取るとされており、妊娠中の浮腫に食されてきた。

太平洋岸の熟鮓

 富山県や滋賀県以外も、和歌山県、奈良県吉野町の鮎の熟鮓もあり、一説では黒潮によってもたらされたとされている。4)北陸から近畿をまたいで紀伊半島にかけて熟鮓の分布が特に多く、都へ献上する習慣があったためではないかという説もある。鰤(ブリ)、鮎(アユ)、鮒(フナ)、秋刀魚(サンマ)、鮗(コノシロ)など多種類の熟鮓がある。4)
「太平洋岸の熟酢で特に有名なのは和歌山県新宮市や有田郡、海草郡一体である。ここの熟鮓は、日本海文化系の熟鮓とは異なって黒潮海流に乗ってもたらされたものとされ、やはり大変に古い歴史を持ったものである。」1)
 紀州の熟鮓でも、和歌山など紀北地方では鯖、串本を越えた熊野、新宮地方では秋刀魚が用いられる。
「サンマ、鯖、鮠(はや)などを背開きにして塩をたっぷり加え、短いもので一ヶ月、長いものでは一年も漬け込む。これを水に晒して塩抜きをした後、軟らかめに炊いた飯を棒状にまるめて魚の腹に抱かせ、これを隙間なく鮓樽に詰めて夏場でおよそ二週間、冬なら一ヶ月ほど重石で圧して発酵させる。出来上がった熟鮓は独特の癖のある臭みを持つので「くされずし」とも呼ばれ、酢を一切使わない自然発酵で酸味を醸した、昔ながらの保存食である。」1)有田市周辺では、秋祭りにこのなれずしを食べることが伝統となっていることが伝統として受け継がれている。4)
 具となる鯖は、一か月以上塩漬けにする。さらにこれを一昼夜塩抜きしてから、酢飯でなく塩飯の上に乗せる。あせ(だんちく)の葉で包んだ、隙間なく木桶に敷き詰めて上から重しを乗せ、1週間から10日ほど漬け込んで自然発酵させる。
「新宮市に東宝茶屋という料亭があるが、ここには「食の化石」とでも表現したいほどの珍味中の珍味がある。サンマの熟鮓を三十年も寝かせた「本熟」がそれで、粥状に溶けたサンマや飯があたかもヨーグルトのような様相と風味を呈している。」1)

熟鮓と日本での独自性の発展

「最初は魚介類の保存食品として入ってきた熟鮓も、長い時間の中で日本人の知恵によって、重石で圧するという日本古来の漬け物スタイルとなり発展してきたのである。」1)
 漬け物文化もまた豊富なのが、日本の食文化の特色である。

結語

 寿司には早鮨、熟鮓に二分され、元祖は熟鮓である。早鮨が普及している今、北陸、日本海側、紀州の太平洋側には伝統的な熟鮓が残っている。熟鮓は滋養作用が非常に高く、東洋医学的にも、気血を補い、消化機能を高める。鮒は母乳の出を良くすると伝統的に言われて重宝されてきた。食べ慣れると、また食したくなる個性があり、見直されてもよいかと思われる。

参考文献

  1. 小泉武夫:発酵食品礼賛,文芸春秋,1999
  2. 中尾佐助:栽培植物と農耕の起源,岩波書店,1966
  3. 石毛直道,ケネス・ラドル:魚醤とナレズシの研究 モンスーン・アジアの食事文化,岩波書店,1990
  4. 北本勝ひこ他 編著:食と微生物の辞典,朝倉書店,2017

Abstract

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol;28

Clinical & Functional Nutriology 2017; ()

Sushi has long been the word and the food which symbolized Japan and its culture overseas. This food has been integrated and assimilated into western culture, especially since the new millennial, and today we see reverse-import of different styles of Sushi like the California-maki with avocados and salmon roe. Sushi is categorized into two broad types; Haya-zushi with fresh sea food and marinated rice, and Nare-zushi with salt, rice and seafood processed through lactic acid fermentation. The latter category is the origin of this food. While Haya-zushi – the Sushi as we know – is more popular today, this original type of sushi can still be found, and is still very popular, in Hokuriku region, Japan Sea coastal region, and Kishu region on the Pacific coastal region in Japan. Narezushi is high in nutrient and from the oriental medicine perspective, acts as a supplement for pnuemohemia (the vital energy of the blood) and activates digestion. Crucian carp is the most popular and cherished fish used in this lactic fermentation, and traditionally believed to promote lactation in mothers. While it is of an acquired taste, Nare-zushi is one food that should be revisited today.