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日本の土壌と文化へのルーツ㉝ 豆腐とかまぼこ中の生薬

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

伝統的な加工食品の中の生薬

 伝統的な加工食品として、生薬を含んでいるものにかまぼこ、豆腐がある。かまぼこは魚の肉を食塩やその他の副原料と一緒にすりつぶして作るねり製品である。多くは、スケソウダラなど白身魚が用いられるが、コウイカなどイカも用いられている。コウイカは烏賊骨と呼ばれ、止血、収斂、制酸作用を有する漢方生薬である。豆腐は大豆加工品であるが、凝固剤に石膏(硫酸カルシウム)を用いたものがある。石膏は身体の熱産生を抑え、熱感、炎症取るための生薬である。

海産物と東洋医学

 魚の肉の中では、東洋医学の生薬として用いるものは少ない。しかし、その中でも代表的なものは、淡水魚である鯉である。伝統的に淡水魚は浮腫を取り、海水魚は浮腫を生じると考えられている。そのため、鯉は浮腫、特に妊娠中の浮腫の治療によく用いられてきた。妊娠後は、鯉は母乳の出を良くし、産後の体力回復するためににも用いられてきた。特に鯉の胆嚢は鯉魚(りぎょ)胆(たん)と呼ばれ、補(ほ)腎(じん)というアンチエイジングの概念である、生殖機能の低下、加齢に伴う耳鳴り、視力低下などに使用されてきた。

魚を捕る季節も重要

 ものには旬がある。これは食材に対してだけではなく、生薬に対しても同様である。魚の例をとってみてみよう。
「旬の魚は脂がのって最高のコンディションにある。魚の脂質含量は魚のコンディション、肉質の良い指標である。魚のコンディションは季節によって大きく変動し、産卵する1~3か月前が最高で、産卵直後が最低になる、季節によって魚のコンディション、脂質含量が変動するのは、餌の摂取量が季節的に変動することと産卵の影響が重なるからである。水温が高くて餌が豊富な時期には、餌からとった余分なエネルギーが豊富な時期には、餌からとった余分なエネルギーを脂質に変えて体内に貯蓄するので魚は肥満する。逆に餌の少ない時期は、餌からのエネルギー補給が不足するので体内に蓄積した脂質を使って生命を保持する。このため脂肪含量が低下して魚はやせてしまう。」1)
 「7月以降になると、北洋スケソウダラは肝臓重量も脂質含量も高くなり、肉質が改善されてかまぼこの形成力が強くなる。」1)
 このように、食材、生薬は“生き物”なのである。後述するコウイカの旬は冬から春であり、豆腐の原料である大豆の旬は実りの秋である。

蒲鉾に使うイカ

 蒲鉾の原料にはイカを使う場合もある。その例を挙げてみよう。「(註:大阪の焼き通しかまぼこを)京阪神地方では、あぶり焼きだけで加熱する焼き抜きかまぼこで加熱する焼き抜きかまぼこを「焼き通し」と呼ぶ。足は極端に強くなく、濃厚な旨味がある。原料はとくに新鮮なグチ、エソ、ハモ、コウイカなどを配合して使う。」2)、「兵庫県明石が焼きかまぼこの発祥地とされ、瀬戸内のエソ、ハモ、グチ、ニベ、イカなどを原料としていた。大正末期から以西底引き網獲物が主原料となり、弾力の強いキグチ、シログチなどに旨味のあるハモ、ニベ、エソ、ホシサメ、コウイカなどを配合した。今でもグチとハモは必ず使う。」2)、「博多かまぼこは表面にきれいなちりめんじわのある蒸し板かまぼこである。北九州一帯は近くの漁場の新鮮な魚を原料にでき、エソ、ハモ、イカなどの旨味のある魚を数種類配合する。魚の旨味を生かすため、油分をとるのに軽く晒すことがあっても強い水晒しはしない。」2)、豆ちくわの「岡山、福山など瀬戸内海中部では重量7-9g位の小指ほどの小さなちくわが名産である。原料に瀬戸内海のエソ、ハモ、イカを用い、水晒しした魚肉を肉挽機にかけ、塩、みりん、でん粉を加えてらい潰、串に巻き、普通のちくわ同様にあぶり焼きする。」2)のように、イカ、コウイカを使用している。
 蒲鉾の製造過程に水晒しというものがある。新鮮な魚はよいが、時間がたつと原料の魚に臭みが出てくるために、水晒しを行う。このことによって、魚の旨味も失われてしまう欠点がある。コウイカは独特の風味があり、蒲鉾の美味しさを引き立てるために、水晒しはしない。「ハモ、ニベ、イカなど旨味のある魚肉は水晒しを行わず、他の魚は軽く水晒しする。」2)

コウイカ 烏賊(うぞく)骨(こつ)の原料

 イカは軟体動物の中でも貝類が有する殻を退化させたグループで、頭足類と呼ばれる。中でもコウイカは、無脊椎動物の中で最も知能が高い部類に属するとされる。
もともとは、イカの先祖も「浅い傘形の一枚の殻を背負ったものであった。この傘の丈がどんどん高くなってとんがり帽子形になり、さらに丈がのびて、象牙状の細長い円錐形となった。3)つまり、上下がのびた分、前後が圧縮されて、内臓は頭の上に格納され、足は頭の下に移動した。イカの頭に見える部分には内臓が詰まっているのである。そのため、「頭のところに足があるということで、頭足類とよばれるようになった。」3)
コウイカの血液は青緑色で、銅を含んだ蛋白質であるヘモシアニンを酸素の運搬に用いている。
 日本では刺身、天ぷら、焼き物、煮物と多くに利用されている。イタリアでイカ墨のリゾットに用いられるのもコウイカである。
 漢方薬で使用するものは烏賊(うぞく)骨(こつ)と呼ばれ、コウイカなどの甲骨(貝殻の痕跡器官)を用いる。甲骨とはコウイカの持つ甲やスルメイカなどの軟甲は貝殻の名残とされている。貝殻の名残というだけあって硬い石灰質、炭酸カルシウムで出来ている。外側を盾で覆うような貝殻の外骨格に比べ、コウイカのもつ甲は内骨格である。もともとの貝殻が包み込まれて体内に隠れる方向に進化した。コウイカの甲は、多数の小部屋があり、そこにガスをためることで浮力調節機構として働いている。
 烏賊骨は、止血作用、胃酸を抑え、痛みを取るために消化器症状、傷の修復の促進、婦人科での帯下の治療に用いられている。イカは食材としても血(けつ)を養うとされていて、月経過多や貧血様症状に用いてもよい。4)

豆腐と石膏

 烏賊(うぞく)骨(こつ)は炭酸カルシウムを主成分とした海水中の産物だが、石膏は陸上に析出した硫酸カルシウムを主成分とした鉱物薬である。石膏は烏賊骨以上に、現在の日常の漢方診療によく用いられている。その代表は、白(びゃっ)虎(こ)湯(とう)と呼ばれる漢方薬であり、その構成生薬で最も重要なものが石膏である。石膏は清熱作用といって身体の熱感を取り、熱産生を弱める。最も伝統的な使い方は、熱中症の治療である。
 豆腐の製造過程には、凝固剤を用いる。塩類の凝固剤には主成分を塩化マグネシウムとする海水にがりと、硫酸カルシウムを主成分とする石膏の澄まし粉の二つがある。これらには天然のものと人工のものがある。カルシウムやマグネシウムのような二価イオンになるものではないと豆腐タンパクを凝固させることはできない。

豆腐と石膏の起源

 澄まし粉の普及については、中国から豆腐の技術として積極的に持ち帰ったというもの、戦中の物資の事情、豆腐の加工に簡便である点など諸説がある。まず、積極的に中国から持ち帰ったという説を挙げてみよう。
 豆腐の産地で有名な中国の淮南地方では、豆腐の凝固剤として石膏を使用している。
「石膏の主成分は硫酸カルシウム。海に囲まれた日本では、豆腐の凝固剤に塩化マグネシウムが主成分の海水にがりを用いる。だが、海から遠い中国内陸部では地下から掘り出した石膏、もしくは岩塩にがりが凝固剤をつとめるようで、淮南は石膏が豊富だったのか石膏豆腐の道をたどってきたのである。」2)
 このように淮南など中国南部にみられる豆腐つくりに用いられていた石膏を参考に、京都での豆腐作りに生かしたというものである。

京都嵯峨野の京豆腐と石膏

 京都の老舗豆腐屋の森嘉の話について、向笠千恵子2)は以下のように記載している。
「うちの豆腐は石膏で固めるんや。親父が戦争中に中国で覚えてきてね」
「うちは親父が戦争から帰ってきて石膏に切り換えた。戦前はにがりでした。」
「親父は中国ではにがりの代わりに石膏を用いていて、その豆腐がとてもなめらかなのを知っていた。だから戦後、石膏と同じ硫酸カルシウムを主成分とした澄まし粉をいち早くとりいれたんです。」
「でも中国のやり方では石膏臭くて京都人の口に合わない。そこで豆乳を濃くしたり、澄まし粉を減らしたりして、うまくなめらかな豆腐を作り上げたんです。」
「京豆腐のやわやわなめらかという常識もすっかり浸透したのである」
 石膏を用いる利点は、塩水にがりよりも保水力による滑らかさと、白色さが際立つ点である。「特筆すべきは色白な肌と触感。ぷるるんとして弾力がある。」2)この利点のため、京都では寺や料亭でも重宝されているという。
 ただ、塩水にがりの方が風味がよいとされているため、豆乳の量やえぐみがでないように石膏量を減らす工夫が必要であった。東洋医学の観点からみれば、石膏を用いた豆腐は、身体の熱感をとるために、夏の冷奴には非常によいということになる。 

戦中の物資の事情、豆腐の加工に簡便

 古来、日本で豆腐の凝固剤として用いられてきたのはにがりである。しかし、第二次世界大戦中に「にがり」が軍需産業に向けられたために、そのた代用品として石膏を精製した「硫酸カルシウム」の使用が開始された。5)
 また、澄まし粉で作られた豆腐は、保水性がよく滑らかさがある。硫酸カルシウムは難溶性であるため徐々に豆乳に溶け込み、カルシウムイオンがゆっくりタンパク質と結合し凝固する。凝固速度がにがりよりも遅いために失敗が少なく、加工が楽とされている。この簡便さが普及の理由とするものである。
 これらの三つの説があるが、東洋医学的には生薬として考えられている石膏が食材である豆腐に使用されている事実こそが非常に興味深い。

結語

 日本の伝統的な加工食品である。蒲鉾などに用いられるコウイカ、そしてその貝殻の名残である甲が烏賊骨という漢方薬であることと、今でも現役の漢方生薬である石膏を用いた豆腐について紹介した。コウイカは烏賊骨と呼ばれ、止血、収斂、制酸作用を有する漢方生薬である。豆腐は大豆加工品であるが、凝固剤に石膏(硫酸カルシウム)を用いたものがある。石膏は身体の熱産生を抑え、熱感、炎症取るための生薬である。このように、身近な伝統的な食品にも漢方生薬が薬効以外の意図で配合されている場合があるのである。

Abstract

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol;

Koichiro Tanaka, Toho University School of Medicine, department of Traditional Medicine, 2018
Clinical & Functional Nutriology 2018; ()

伝統的な加工食品として、生薬を含んでいるものにかまぼこ、豆腐がある。かまぼこは魚の肉を食塩やその他の副原料と一緒にすりつぶして作るねり製品である。多くは、スケソウダラなど白身魚が用いられるが、コウイカなどイカも用いられている。コウイカは烏賊骨と呼ばれ、止血、収斂、制酸作用を有する漢方生薬である。豆腐は大豆加工品であるが、凝固剤に石膏(硫酸カルシウム)を用いたものがある。石膏は身体の熱産生を抑え、熱感、炎症取るための生薬である。

Among traditional processed foods, those which contain crude drugs include kamaboko and tofu. Kamaboko is a product made by grinding fish meat with salt and other ingredients into paste and steamed to be molded into various shapes. White fish such as Alaska pollack are often used for Kamaboko, but squid such as Cuttlefish is also used. Cuttlefish bone is called Cuttlebone which is a traditional Chinese medicine to treat bleeding and wounds, and it has antacid effect. Tofu is a soybean processed product, but gypsum (calcium sulfate) is used in some as coagulating agent. Gypsum is an herbal medicine for suppressing the heat production of the body, removing heat sensation and inflammation. In traditional food processing also, kampo principles are integrated in varying degrees.

参考文献

  1. 岡田稔:新訂かまぼこの科学,成山堂書店,2008
  2. 向笠千恵子:食の街道を行く,平凡社,2010
  3. 本川達雄:ウニはすごい、バッタもすごい デザインの生物学,中央公論新社,2017
  4. 喩静、植木もも子:増補新版 薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帖,西東社,2018
  5. 青山隆:豆腐入門,日本食糧新聞社,2016