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日本の土壌と文化へのルーツ㊶ 医食同源としての沖縄

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

日本の亜熱帯

 ある地域の植物の種類の目録をフロラと呼び、関連しているフロラを地理的に統合したものを植物区系と呼んでおり、日本は東アジア植物区に属している。
 日本の植物区系は、水平分布では、亜熱帯(南西諸島:八重山諸島、宮古島諸島、沖縄諸島、奄美大島、および小笠原諸島)、暖帯(九州、四国、本州西部、南部)、温帯(本州中部、東北部、北海道の西南部)、亜寒帯(北海道の大部分、南千島)と南北に広がっている。
 八重山諸島は、一番高い山でも526m(石垣島、於茂登岳)であり、垂直分布においても、亜熱帯の植生に属する地域である。また、この地域は、インド~マレーシア系の熱帯植物の北限であり、黒潮が大きく湾曲して流れていることから、オーストラリア~ポリネシア系の影響も強く、この方面からの植物の進出も見られる。3)マングローブ林などはその例である。
 一言に沖縄とは言っても非常に多彩である。今回の舞台は八重山諸島であり、その中でも沖縄本島から南西へ四数十㎞のところにある石垣島、西表島である。
 西表島には、河口の塩水、淡水が入り混じる汽水域には、マングローブ林(オヒルギ、メヒルギ、オオバヒルギ、シロバナヒルギ)が広がっている。

八重山の食材 見た目はパイナップルのアダン

 日本の亜熱帯である南西諸島と小笠原諸島に自生するタコノキ科のアダンという植物(Pandanus odoratissimus)がある。パイナップルのような実をつけるが、これも八重山諸島では食用になる。海枝をまばらに横に広げて、刺々しく、ぶあつい葉を広げ、気根(支柱根)を下垂し、泥水の中での良質な水分を吸収、且つ輩出する力、塩水にも、強風にもよく耐える植物である。
 海岸の浜辺の後ろにある灌木や低木の茂みに生える常緑高木で、2-6mもの高さになる。海浜に限らず、西表島のマングローブ林が続く汽水域にも見ることができる。
 パイナップルのように見える大きな果実が樹幹に接して、橙赤色に熟れるがこちらは繊維質で硬く食用にならない。葉芯の白っぽく柔らかいところを8-10㎝切り取って食用とする。アダンの炒めもの(チャンプル)があるが、見た目も味もタケノコのようである。
アダンチャンプル
アダンチャンプル

八重山の食材 シダ植物のオオタニワタリを食用 

 薬用としてもシダ植物は多くはないが、本州では食用にされるシダ植物は少ない。シダ植物のソテツ(Cycas revoluta)には、でん粉が多く含むが、有毒成分のサイカシンも含まれている。そのため、南西諸島では水に晒し、発酵、乾燥などの過程でサイカシンを取り除くことで、近代まで食用にされてきた。
 大きな斜面、土壌は排水がよく、乾燥するところ、冬暖かく夏涼しく、しばしば海霧が発生するような、空中湿度の高いところに、群生地が見られる。3)若芽を食用とするクサソテツ(Matteuccia struthiopteris)は、ソテツ類とは別の種である。
 八重山諸島で今でも食べられるシダ植物に山地の渓谷、谷沿いの樹幹や岩上に着生するオオタニワタリがある。オオタニワタリのなかでも、種子島、屋久島から南西諸島にかけて生育するヤエヤマオオタニワタリ(Asplenium setoi)で、フィラムシルーと呼ばれる。他にシマオオタニワタリ(Asplenium nidus)があり、台湾で栽培される種で山蘇と言われ、新芽が食用とされており、台湾との食文化の接点が認められる。一方で、沖縄本島では手に入りにくい貴重な食材である。
 八重山諸島では食用に栽培されており、野菜として食べられている。精進料理にはつきもので、食堂や居酒屋のメニューにあり、食べることができる。うぶ毛が生えているので、ブラシなどでよく洗う必要がある。
「ポキポキとした歯ざわりで、ほんの少しぬめりがある。」「株の中心に出てくるやわらかい新芽の、指でポキッと折れるところから先を食べます。大きく育った葉は食べられません。」1)と言われている。実際に天ぷらにして塩で食べると、肉厚の葉のようでアロエのような食感もある。チャンプルの具材としても使われている。
オオタニワタリの若芽
オオタニワタリの若芽
オオタニワタリの天ぷら
オオタニワタリの天ぷら

沖縄の食材の地産地消 ウリ科

 沖縄の食材の特徴は、その土地の食材、「島野菜」と呼ばれる伝統的農産物を使用していること、またその中の野菜が“個性”を有しているものが多いことである。
 ゴーヤチャンプルは、沖縄料理の中でもよく知られている料理の一つだが、ゴーヤ(苦瓜:Momordica charantia var. pavel)特有の苦みは、東洋医学的にみれば非常に重要な意味を含んでいる。同じウリ科のキュウリはかつて完熟後の苦味が非常に強かったが、幕末に品種改良されて、現在の味となったとされている。
 苦味は清熱といって、身体の熱感を取り、抗炎症作用を有しているものが多い。キュウリは苦い状態であれば、夏場の“薬”としてはより有用であったかもしれない。一方のゴーヤの苦味は沖縄では受け入れられて、そのままの素材の味を生かして今も使われている。ゴーヤはインド原産で、沖縄に渡ってきたのが、15世紀前半頃とされ、夏場に欠かせない野菜である。苦味はモモルデンという食欲増進作用が言われている成分、ビタミンCはレモンの4倍ともされている。
 人の味覚に合う美味しさと、薬としての有用性は一致しない場合があるのである。
 同じような例として陳皮がある。陳皮はウンシュウミカンであり、冬の貴重な果実の果皮を生薬として用いている。通常は種苗管理され、栽培されている。中国の地方の市場で売られている陳皮を用いたところ、ノビレチン含有量も多く効果も良かったとされている。栽培環境にもよるが、人の味覚に合わせて品種改良されていないものには、古来の薬効が残されているのかもしれない。ノビレチンのみに注目すれば、青切りで収穫されるシークワーサーの方が、桁違いに成分が多い。柑橘類の中では酸味の強いものの方が効果も強いとされてきた。
 沖縄ではゴーヤ以外に、ヘチマ(ナーベーラ)、トウガン(ジブイ)を食材としてよく用いている。これはいずれもウリ科の植物の果実である。いずれも良質な水分を含んでおり、口渇を取り、かつ適度に利尿して、体液量を調整する作用がある。年間を通して、気温が高く、湿度の高い地域には大切な食材であることが分かる。
 ヘチマ(ナーベーラ)は、ゴーヤに次いで食用されるウリ科である。もともと東南アジア原産で中国南部から台湾経由で伝来し、台湾でも食用にされている。開花から2週間頃の若い実を炒め物や煮物にして使用されており、なめらかな食感、ほんのりとした甘みでナスに似る。
 トウガン(ジブイ)は、「夏場の野菜の少なくなる時期に出回り、長期保存がきく」1)利点がある。沖縄には5世紀ごろ、中国より伝来した。利尿促進、便秘改善また、冬瓜の種子(冬瓜子)には排膿作用もあり、大黄牡丹皮湯、腸癰湯など虫垂江など消化管の化膿性炎症の初期に用いられてきた。

苦味の効用 沖縄のニガナ

 ニガナ(ンジャナ、ホソバワダン Crepidiastrum lanceolatum)も名前の通り、苦味を有しており、薬用、食用の両方で用いられてきた。「沖縄では王朝時代から薬草のひとつとして大切にされてきました。風邪の諸症状に効く、胃腸によいと言われています。」1)とされ、薬用としては、すり鉢ですりつぶした青汁を飲む。他に、解熱や産後の体力回復に用いられてき、フナの煎じ汁やイカの墨汁などに刻んでいれたりされてきた。
 苦味が強く生食するときには水にさらしアクを抜く必要がある。和え物、炒め物、天ぷらも。肉汁の具、雑炊などの料理に使われている。
 沖縄の海岸沿いの岩場や砂地に行くと良く自生しているキク科の植物で、ニガナ属のニガナとは異なるので注意が必要である。
 野菜独特の苦味、果実の酸味をそのまま尊重して使い続けているのが、沖縄料理の良さである。

パパイヤ(パパイヤ) ウリ科ではないが蕃木瓜との名

 ウリ科ではないが、果実の形がウリに似るために、蕃木瓜と呼ばれている。普段の食事に果実ではなく、熟れていない緑の実が野菜として用いられている。パパイヤをパパイヤシリシリー(千切り)として炒めものとしてチャンプルに用いられる。沖縄では、産後の母乳の出がよくなるとされている。中国の南方の少数民族(タイ族、チュワン族など)は医薬として主に手足の痛み、しびれなど用いていたが、母乳の出を良くする作用も記載されている。もともとはメキシコ、西インド諸島原産であるが、伝来の経路と中国の南方とは関係があるのかもしれない。

生薬との関わり 多様なヨモギ

 また、医薬同源という言葉があるが、沖縄では東洋医学の生薬が食材としても浸透しているものは多い。
 沖縄で用いられているヨモギは、フ—チバ—と呼ばれ、フ—チ(病気)を治すバー(葉)が語源である。ニシヨモギ(A. indica Willd. var. orientalis)である。生薬で使われるヨモギ(Artemisia princeps)は、艾葉(がいよう)と呼ばれ、月経の出血過多に対する止血剤として用いられている。ヨモギよりも苦味の比較的少ない品種で、山羊汁、雑炊、沖縄そばなどに用いられている。
 また、ヌーパン(Artemisia capillaris)と呼ばれるカワラヨモギは、海岸、または河原の砂地に生える。生薬では茵蔯蒿(いんちんこう)と呼ばれ、花を用いる。もともとは黄疸、肝障害などに、今では蕁麻疹、湿疹にも使用されている。茵蔯蒿湯、茵蔯五苓散という漢方処方に含まれている。沖縄では、カワラヨモギの根葉、花茎の葉は、食用として天ぷら、フライとして用いる。若葉はヨモギ、ニシヨモギのように切れ込みのある菊の葉のようだが、糸状の葉になる。
 よく似た植物にハママーチと呼ばれ、リュウキュウヨモギ(Artemisia campestris)はお茶として、薬用としては茵蔯蒿に準じて用いられている。
ヨモギシューシーなど
ヨモギシューシーなど

長命草

 セリ科のボタンボウフウ(Peucedanum japonicum)は、沖縄ではサクナのことである。風邪、咳止めに、八重山地方では長命草と呼ばれ、特に重宝されている。八重山諸島の西端の与那国島で栽培が盛んである。類縁の前胡(ぜんこ:Peucedanum praeruptorumの根)は生薬で、化痰止咳作用を有しており、沖縄の伝統的な使用法と似ている。若葉を食用にし、天ぷらなどにする。
 沖縄に限らず千葉県、石川県などにも分布し、海岸の岩場や砂地に生えている。

ウイキョウ(イーチョーバー)

 フェンネル(茴香)として知られる植物であるが、果実は生薬や香辛料として使用されている。生薬としては、消化器を温めることで消化吸収を促進したり、胃痛、腹痛を軽減したりするために配合されている。
 沖縄での特徴的な使い方は頻用する香味野菜として定着していることである。葉を用いて、天ぷらや薬用種、魚料理の臭い消しにも用いられている。イーチョーバーの語源は胃腸葉であり、整腸作用のある野菜として認識されてきた。
 地中海原産の植物で、日本には平安時代に渡来したとされ、今でも長野などで多く栽培されている。
[左]石垣地ビール  [右]島ラッキョウ天ぷら

結語

 日本の亜熱帯に属す沖縄、特に八重山諸島の食材についてみて来た。八重山諸島に特有な食材としてアダン、オオタニワタリがある。シダ植物のオオタニワタリは台湾でも食され、地理的に隣接する台湾との食文化の接点を見ることができる。沖縄全体としてはゴーヤなどウリ科の植物を多用していることである。身体の熱感を取り、体液を補い、かつ利尿作用もあることで、高温多湿の気候下での体調には欠かせない食材である。ゴーヤ、そしてニガナの名前になるように沖縄では苦味のある野菜が食生活に受け入れられている。また、野菜が食用としてでなく、薬用としても認識されている点である。ニシヨモギ、カワラヨモギ、ボタンボウフウ、ウイキョウはその例である。その中でもカワラヨモギ、ウイキョウは東洋医学の茵蔯蒿、茴香という生薬として現代でも用いられている。地場野菜の多く残る沖縄では、医食同源の考え方も色濃く残っているのである。

Abstact

I have looked at the ingredients of Okinawa, especially the Yaeyama Islands, which belong to the subtropics of Japan. Foods unique to the Yaeyama Islands include Pandanus odoratissimus and Asplenium setoi. The fern Asplenium setoi is also eaten in Taiwan, and you can see the intersect of food culture with the geographically adjacent Taiwan. Okinawa uses a lot of Cucurbitaceae plants such as bitter gourd. It is a food that is indispensable for physical condition in a hot and humid climate because it removes the heat of the body, supplements body fluids, and has a diuretic effect. Bitter vegetables are accepted in the diet in Okinawa, as Momordica charantia var. pavel and Crepidiastrum lanceolatum. Another point is that vegetables are recognized not only for food but also for medicinal purposes. A. indica Willd. var. orientalis, Artemisia capillaris, Peucedanum japonicum, Fennel are examples. Among them, Artemisia capillaris and fennel are used in modern times as crude drugs called Inchinko and Uikyo of Oriental medicine. In Okinawa, where many local vegetables remain, the idea of medicine and food being of the same source remains strong.

参考文献

  1. 渡慶次富子、吉本ナナ子:沖縄家庭料理入門、農文協,2000
  2. 片野田逸郎:琉球弧・植物図鑑,南方新社,2019
  3. 橋本郁三:野生植物食用図鑑 南九州—琉球の草木,南方新社,2006
  4. 田崎聡:沖縄食材図鑑,楽園計画,2016
  5. 蒿西洋子:沖縄八重山発南の島のハーブ,南山舎,2018