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日本の土壌と文化へのルーツ③ 葛・朝鮮人参など

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

抗加齢学会誌 医と食:5.5.264-266,2013 に掲載されたものです。

~栽培植物と雑草~

栽培植物は、種々の植物から意図的に選ばれて、人々の食糧を支えている。野菜もまた野生植物から生まれたもので、折々の季節に合わせて生える身近な植物を採取して食用とした中で、食味、健康維持、調理や栽培のしやすさなどで優れた植物を選んで栽培するようになったと考えられている。江戸時代には、農産物を「穀類」「菜類」「菓類」に分けて、一般的には「菜類」を野菜と呼んでいたようであるが、今日知られている「春の七草」にみられるように、現在の山野草と野菜が混合した状態で野菜と呼ばれていたものと近い。1)「春の七草」は“人里の山野草”の名残りなのである。
栽培食物が、干ばつ、冷害、水害などのため、凶作となった際に飢えを凌ぐのに役立った野生植物や雑草を救荒植物という。ヒエ、ソバ、サツマイモ、ジャガイモは気候の変化に強く、五穀が不作であったときにも収穫しうる救荒作物で、人々の命を救うのに役立ってきた。春の七草の、せり、なづな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろの最初の5つは雑草である。雑草は少ない光、温度、湿度の変化などの条件に強く、大雨、乾燥にも耐えうる。1)雑草は人類の農耕開始よりも前に、厳しい氷河期を乗り越えてきた植物群とも考えられている。2)
一方、薬用となる植物は、米、麦、とうもろこしといった栽培食物、救荒植物、雑草といったあらゆるものに含まれる。このため、薬用と食用は部位、用途による区別はあるが、食用であり、かつ薬用であるという植物は非常に多くみられる。
救荒植物、雑草に含まれる薬用植物は生命力が強い。栽培植物の傍らの畦、休耕田、水辺に生えるものは、耕地の雑草(耕地雑草)であるが、薬草としての効能がある種や食用にできる種が多く含まれ、人間が利用するために、身近なところに生育させてきた歴史的経緯があるとされている。1)人里の山々にも、土地の人々が、薬用植物を乱獲することなく、必要に応じて採取してきたために、現在でも、薬用植物が多く残されている山々がある。これらは非農耕地の雑草である。3)
薬用植物は非常に貴重な資源であるが、希少で栽培が難しいものから、繁殖しすぎて駆除困難なものまである。後者の代表例が葛(クズ)、虎杖(コジョウ:イタドリ)、艾(ヨモギ)、白茅根(ハクボウコン:チガヤ)、香附子(コウブシ:ハマスゲ)である。白茅根は、ススキと同様に開墾直後の未熟畑によく見られる。香附子は海岸の強い日差し、風、塩水、水を貯えられず、根を張りにくい土壌にもよく適応する。香附子はアスファルトを突き抜けるほど、固められた土壌にもよく生育するため、都市部の路肩、公園の路傍に何気なく生えていて雑草の扱いを受けている。逆に強い日差しがないと生きていけないために他の植物が嫌う過酷な環境を選んでいるのである。強大な地下部をもち、これらの切断片からの繁殖力と再生力が著しい。薬用となる根茎は弱いが甘い香りを有し、東洋医学で非常に重要な植物で、特に現代人のストレスに関する疾患には、まず最初に選ばれる薬草である。

強力な繁殖力を有する食用兼薬用植物 ~葛~

繁殖力の強い雑草性の最たるものは、秋の七草の一つである葛である。葛の根は日本では、貴重な炭水化物源、かつ葛根湯など薬用にも、蔓は生活にも用いられてきた。葛根(葛の根)には男性の二の腕よりも太いものがあり、直径30cm、長さ3mにもなるものがある。葛と云えば、吉野や宇多といった和歌山、奈良県産が有名である。葛根は、山伏や修験道者の自給自足の糧、山間に住む人々の保存食として用いられてきた。根にデンプンが蓄積される冬季に葛根を掘り取り、外皮を去って、砕いて桶に入れ、水を張って十分にかきまぜて線維を取り除き、澱粉を沈殿させる。水を替えてかきまぜ、沈殿させる作業を何度も繰り返した後に乾燥させたものが葛粉である。これを用いて、葛餅、葛湯、などにして食するのである。また、春先の若芽を茹でたり、天ぷらにして食べることもできる。
傷寒論
傷寒論
葛根は2000年前中国漢代の『傷寒論』に処方の記載があり、当時は寒冷な気候に併せて発生した感染症に用いられてきた。東洋医学では、発汗は風邪を治療する最も基本的な方法である。葛根には発汗作用があり、葛根湯はその代表であり、今なお耐性菌の問題もなく、使用され、効果を有する。葛の花は、開花前に採取して、粉にすると二日酔い防止の妙薬となる。4)
葛の蔓の繊維は葛布と呼ばれる織物として、ふすま紙、着物に用いられている。
葛
このように葛は用途が広く、日本では有用植物であるが、強力な繁殖力を持つため、安易に栽培して放置すると、繁茂して収拾がつかなくなる。広大な斜面、荒地を覆い尽くす蔓性の植物であり、あらゆる部分に到達する力がある。地上部の発達がことに激しく、最速では1日1mもののペースで、10mにも伸びる。上へ上へと成長する様子から、東洋医学では身体の気を上昇させ、肩、頸部によく作用すると考えられてきた。このような葛の強大な成長力は、マメ科植物が大気中の窒素を固定して、蛋白質へと変換できる能力に由来する。正確には、マメ科の植物とその根に寄生する根瘤菌との共同作業である。根瘤菌はマメ科の植物の根に寄生して根粒をつくり、空気中の窒素を固定し、タンパク質を植物に供給する。一方、植物は、見返りに光合成で得た炭水化物、酸素(レグヘモグロビンで運搬)を根粒菌に提供する。蛋白質は、植物では、茎、葉、根などの成長している成長点、成長の潜在力を秘めている種子に集中している。このように栄養面での潜在能力を有し、自分自身ばかりか、周囲の土壌も豊かなものにしてしまう力がある。大豆、インゲンマメ、小豆などは輪作に用いられているのはこのためである。
北米大陸に持ち込まれた葛は、強力な繁殖力から、今では悪魔の草と呼ばれ、世界の侵略的外来種ワースト100という扱いを受けている。至る所で育つが、品質には違いがあると考えられ、寒暖の差が強い地域、日本では奈良のものが古来より良品とされてきた。
葛の葉は自然の変化を感受する“手”となっており、日の当たり具合によって葉の向きを変化させる。陽光が強く暑くなれば仮眠するように葉を折りたたみ、曇り空では葉を大きく広げる。これは葉の根元にある“関節”が周囲の気候、“気”を感じる感覚器となっているためである。“関節”の動きは、光の量、温度によって調節されている。蛋白質の合成力、光に合わせた葉の運動能など、動物の有する特徴をも併せ持っているのである。

強力な繁殖力を有する食用兼薬用植物 ~虎杖・艾~

虎杖(イタドリ)は春先の若芽を塩漬けして保存し、冬に塩出しした後に煮付けて食べることが多い。日本海側では冬の保存食の定番であったが、太平洋側では四国南部、紀伊半島の一部では今でも使用されている。薬用としては虎杖の根が用いられ、身体の水分、血液の循環をよくするものとして、月経困難症、関節痛、黄疸、火傷などに用いられてきた。中国の婦人科では頻用されるが、逆に食用で虎杖を用いてきた日本ではあまり用いられていない。薬用資源が不足する中で、今後、薬用としての使用がより検討されてよいと考える。
艾(ヨモギ)は、春先の若芽を用いて艾餅、草団子など食用にもなるが、東洋医学では切っても切れない関係にある。漢方薬では艾葉(ヨモギの葉)が、主に止血薬として用いられ、婦人の不正出血、痔核出血などに用いられる芎帰膠艾湯の重要生薬の一つとして、用いられてきた。また鍼灸に用いるもぐさは、艾の葉を乾燥させ、細かくつき砕いた後に滓を除き、綿のように残った柔毛を晒したものである。近縁種のオウシュウヨモギはマグワートと呼ばれ、月経の遅れ、無月経、月経困難症、分娩促進、後産の痛みなどに用いられている。4)東西とも艾を産婦人科の重要薬として用いていた。

デリケートでごく希少な薬用植物 ~朝鮮人参~

朝鮮人参
朝鮮人参
薬用植物の中でも非常にデリケートで栽培に苦労する代表が朝鮮人参である。中国東北部、朝鮮半島において、樹林の下の直射日光の当らない場所で、ゆっくりと分解される土壌の栄養を蓄えて、根を少しずつ太らせる。それは、古来より虚弱になった人の生命力を蘇らせるための起死回生の薬として、朝鮮人参の根が用いられてきた。現在でも人参湯を始め、多くの漢方薬に含まれている。野生の朝鮮人参は50年から150年もの間、中国東北部の極寒の地で根に滋養成分を蓄えてきたものを使用する。樹木はともかく、草木類の中では、人の一生の2倍を超えんとする極めて長い年月を要する長老で、貴重な薬用資源である。天然物は栽培品に比べて、1.5から2倍の薬効を有するとされている。しかし、現在では野生のものはほとんど見られず、栽培されたものが用いられている。栽培方法は江戸時代に本邦で試行錯誤の上、生み出された。朝鮮人参の生態上、輸入物に頼らざるを得ないのだが、鎖国当時にあってはそれでも、国産の朝鮮人参を栽培することは急務であったのである。島根県大根島、福島県の会津、長野県が当時からの代表的な栽培地である。4年から6年栽培されたものが市場に出まわっているが、もともとの生育年数から見て、かなりの促成栽培であり、栽培物でも50gまでに成長するには少なくとも7年は必要である。米、麦などの栽培穀物が1年生植物であることからも、非常に手のかかる植物である事がわかる。朝鮮人参は強い日光や、夏の暑気を嫌うため、清涼な地域で、遮蔽して木漏れ日で育てなくてはいけない。しかも、朝鮮人参は栽培の過程で土地の栄養を吸い尽くしてしまうので、他の土地への植え替えが必要となる。
韓国では土産、薬用酒としても売られ容易に手に入るが、同時に非常に貴重な薬用資源であることを忘れてはならない。

結語

薬用になる植物には、栽培食物はもちろんのこと、飢饉時に人々を飢えから救った救荒植物、農耕地の雑草や、里山植物(非農耕地の雑草)といったあらゆるものに含まれる。これらは人々が自然と関わってきた知恵の中で集積されてきたものである。これらには希少で栽培が難しいものから、繁殖しすぎて駆除困難なものまである。後者の代表例が葛(クズ)、虎杖(コジョウ:イタドリ)、艾(ヨモギ)、白茅根(ハクボウコン:チガヤ)、香附子(コウブシ:ハマスゲ)である。これらは、日本中に“雑草”として繁茂しており、あまりにも容易に手に入る。食用にもなるため、薬用資源の不足する中、薬用として、より利用されてよいものである。前者の代表は、朝鮮人参である。栽培に最低4-6年を要し、土壌や日照の条件が難しい。江戸時代に日本でも栽培が可能となったが、当時より薬用資源の中でも、非常に希少なものであり、必要時に必要なだけ使用するにとどめていくべきであろう。

参考文献

1)佐合隆一:救荒雑草,全国農村教育協会(2012)
2)日本雑草学会編:ちょっと知りたい雑草学,全国農村教育協会(2011)
3)奥田重俊 編著:日本野生植物館,小学館(1997)
4)鈴木洋:漢方くすりの事典、第二版、医歯薬出版社(2013)

Abstract

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol.3;
Koichiro Tanaka, Toho University School of Medicine, department of Traditional

Medicine[Draft]

Eastern medicine (Kampo) utilizes both wild plants and cultivated plants. During famine caused by climate change to which cultivated plants including rice and wheat are susceptible, wild hardy plants were used to stave off hunger. Abundant wild plants are readily available, but some scarce herbs should be used in moderation.
Wild plants including Pueraria lobata, Fallopia japonica, Artemisia princeps, Imperata cylindrical, and Cyperus rotundus easily grow even to the extent of overgrowth. Although classified as weeds, they spread across Japanese land and into traditional culture. For example, Pueraria lobata is used in food, kimono, furniture, and also Kampo as cold medicine. Their rampant force renders them recommended medical resources.
Panax ginseng, on the other hand, has been a rare remedial resource since 2000 years ago when Kampo medicine was founded. National seclusion policy implemented by Tokugawa shogunate made ginseng a more scarce and valuable medical resource in Edo Japan. Ginseng, popular ingredient of Kampo medicines, is naturally so scarce that it is used for necessary cases.
Plants supporting and cultivating our health have been selected based on experience and knowledge from ancient time. Today, the right kinds and amount of plants should be chosen based on their availability.
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