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東洋医学研究の3本柱

現在、以下の3本の柱を基に研究を進めています。

1)東洋医学(漢方、鍼灸)そのものを徹底的に深堀する。

①漢方の古典の研究

日本の江戸時代の漢方の水準は、中国と比較しても非常に高い臨床水準を有していました。漢方の最高水準を求める方法論の一つは、日本の江戸時代の最高水準の医学者の論文を読み、理解し、解釈して、現代の臨床(漢方、鍼灸)に生かしていくことです。そのため、講師をお招きしながら、漢文を素読でき、中国語をそのまま理解する語学力を育成し、研究を進めています。

中国の古典では、今まで、宋代の小児科医師である銭乙の『小児薬証直訣』、感染症の治療法を一元化した清代の『通俗傷寒論』、出血性疾患をまとめた唐容川の『血証論』などを研究テーマとしてきました。

②生薬の伝統的な作用に関しての研究

「生薬は如何に発見され、用いられるようになったのか?」という問いかけを、私たちは持っています。古代の人類は決して未開ではなく、文字を使わない一方で現代人が失ってしまったような観察力を発達させ、身近な動植物などの資源について、途方もなく正確な知識を有していたと文化人類学の分野では考えられています。東洋医学の書物はすでに文字を使用し始めた文明からの遺産ですが、植物の形態、味覚、芳香によって微妙な薬効を見分けていたことが記載されています。つまり薬草を観察する中で、大凡の薬効を予想することができたと考えられます。日本でも江戸時代には、ある生薬が不足した際には別の植物を代用生薬として用いていました。江戸時代には、まだ日本でも古来からの知恵が残されていたのです。東西を問わず、今までの資料を手掛かりに、「生薬は如何に発見され、用いられるようになったのか?」という問いから、植物の形態、味覚、芳香の特徴から薬効を見分け、現代における代用生薬を模索する事を考えています。

2)他の伝統医学のフィルターを通す

日本の民俗学を打ち立てた柳田国男は、「他者としての世界の諸民族の文化を視野に入れ、この国の民俗文化を手掛かりにして「日本とは何か」という問いに対する答えを求めようとした。」(伊藤幹治:柳田国男と梅棹忠夫 自前の学問を求めて,岩波書店(2011)とあります。

東洋医学においても同様に、他者としての世界の諸民族の伝統医療を視野に入れ、この国の伝統医療を手掛かりにして「日本の伝統医療とは何か」と問いかけることが出来ます。

①洗練された生命観の創造

世界的にはインドのアーユルベーダや中東のユナニーなど伝統的な医学体系が有名ですが、アジアにはチベット医学、モンゴル医学、タイ医学など民族によって培われた多くの伝統医学があります。数ある伝統医学の中での共通の基盤は、人体、生命、生命現象の全体像を観る深い洞察と言えます。それぞれの医学体系の理論を各々学ぶことで、伝統医学が培ってきた生命とは何かという部分について、洗練された生命観を創造するのが一つの目標です。

②生薬の薬効の多面性への理解

東洋医学で用いられている生薬は、アジアを問わず、西洋でも用いられているものがあります。逆に西洋で用いられていたものが、東洋医学で利用されるようになった生薬もあります。また、類縁の生薬が西洋と東洋で異なって使われているものがあります。

生薬とはある地域の伝統医学だけのものではなく、非常に全世界的なものです。一つの生薬に見られる各伝統医学での使用法の共通点、また相違点を見て行くことで、生薬の薬効の多面性を理解することが出来ます。共通点はその生薬の主要な薬効に関連し、薬効の多面性は、その生薬自体の薬効の多面性を現しています。その中のいずれの特性が、それぞれの伝統医学の体系にどのように組み込まれたのかを見て行きます。ここで、伝統医学的な生理、病理、薬理に熟知する必要があります。

3)科学的検証を行う

現代の科学的研究は、生薬の抽出成分の薬理から、科学的な薬効を説明しています。

しかし、その結果を東洋医学の理論をどう説明することが可能なのかといったフィードバックがなく、

「漢方薬で使われている生薬Aの成分を抽出したところ、こんな薬効が示された」で終わってしまうのではなく、

その結果を例えば、

今まで東洋医学でBのように使用されてきた病態生理、体質などの使用目標は、経験的であったが、

現代の研究から、Cのような病態、体質として説明することが出来る。

このようなフィードバックが必要だと考えています。

これによって、科学的研究の「このような結果により、古来からの経験が現代医学的にはこのように説明できる」というようになれば、東洋医学の叡智を生かしながら、現代的医学によりにそれを深化することが出来、これがお互いの発展と統合になると考えられます。

現在まで、消化管運動と糖脂質代謝六君子湯と防已黄耆湯の性差による薬効の違いについての研究を行ってきました。現在、アレルギー、免疫の機序と漢方薬、土壌微生物との研究を開始しています。

今後を進めていく中でも、国内外の志ある研究者との共同研究を行っていきたいと考えています。

現代において、深い伝統医学への理解と科学的検証の両者が、洗練された東西の境界を越え、現代医学の新しい地平をつくっていくと考えております。

東邦大学の建学の精神にあるように、自然への畏敬の念、生命への尊厳がなければ、特に東洋医学は、磨いていくことができない分野です。東洋医学の自然観とは、人間は自然の一部であり、自然により生かされている存在と考えているからです。

志ある皆様と、共に学問を育てていきたいと考えています。皆様のお力添えが何よりも必要です。ご連絡の程、お待ち申し上げております。

【連絡先】

東邦大学医療センター 大森病院 東洋医学科 田中耕一郎
TEL : 03-3762-4151(代表)
内線 : 6515(総合診療科医局内)
Email:toyoigaku の後ろに @med.toho-u.ac.jp

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 東洋医学科

〒143-8541
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TEL:03-3762-4151(代表)