自家組織(真皮)を用いた骨盤臓器脱手術(真皮移植法:永尾法)
骨盤臓器脱とは、なんですか?
骨盤底の筋肉や組織が骨盤臓器を支えられなくなり、骨盤臓器の正常な位置からの脱落(脱出)が生じることを骨盤臓器脱(POP)と呼びます。骨盤臓器には、膣、子宮頸部、子宮、膀胱、尿道、直腸などがあり、膀胱が最も骨盤臓器脱になりやすい臓器です。この問題は現在、女性の健康の最も重要な領域となっていて、成人女性の3人に1人が罹患すると言われています。80歳までに、10人の女性に1人以上が骨盤臓器脱手術を受けています。
骨盤臓器脱の原因は何ですか?
骨盤臓器の支えは、骨盤底の筋肉、靱帯、筋膜の厚い部分ですが、骨盤底の筋肉が弱くなると、筋膜と靭帯ですべての重さを支えなければならなくなり、緩んで骨盤臓器を下垂させ膣壁を押し出します。
要因には、重労働、多くの出産、加齢(特に閉経後)、肥満、便秘、喫煙、骨盤底手術、膠原病、遺伝などがあります。
要因には、重労働、多くの出産、加齢(特に閉経後)、肥満、便秘、喫煙、骨盤底手術、膠原病、遺伝などがあります。
骨盤臓器脱には、どんな種類がありますか?
さまざまな骨盤臓器が膣のさまざまな部分に脱出します。
- 膀胱瘤および尿道瘤
膀胱瘤は、膀胱が膣の前壁に脱出し排尿障害を伴うこともあります。尿道瘤は、尿道が膣の前壁に脱出します。 - 直腸瘤
直腸の一部が膣の後壁に脱出し、排便困難になることがあります。 - 子宮脱
子宮が膣に脱出します。 - 小腸瘤(膣断端脱)
子宮摘出術を受けた女性で、子宮があった場所の膣が脱出する。膀胱、直腸、小腸を巻き込む。小腸を巻きこむことが多く、小腸瘤と呼ばれます。
骨盤臓器脱の症状は?
健診で発見された軽度の骨盤臓器脱では、全く症状がないことがありますが、それ以外の方は、以下のような症状があります。
- 圧迫感・痛み・出血・悪臭
最も一般的な苦痛は、圧迫感、下垂感、痛み、出血、悪臭、下肢疲労感、腰痛です。 - 排尿障害
膀胱瘤、尿道瘤、子宮脱で腹圧性尿失禁や排尿困難になることがあります。 - 排便障害
肛門括約筋の真上の直腸にポケットができ排便障害を起こすことがあります。排便時痛、圧迫感、便秘の原因となることがあります。 - 性交障害
骨盤臓器脱では、膣粘膜が易刺激性(過敏に)になり性交中の痛みや心理的ストレスを引き起こします。
骨盤臓器脱の診察や検査は?
骨盤臓器脱があると思われたら、骨盤臓器脱を専門としている泌尿器科または婦人科を受診してください。
骨盤臓器脱と下部尿路症状の両方は、骨盤底筋群の緩みにより起こるので、診断には骨盤臓器の診察や検査、下部尿路症状の診察検査が必要です。
骨盤臓器脱と下部尿路症状の両方は、骨盤底筋群の緩みにより起こるので、診断には骨盤臓器の診察や検査、下部尿路症状の診察検査が必要です。
- 骨盤臓器脱の診察・検査
問診時に骨盤臓器脱を疑った場合、排尿障害、排便障害、性交障害の有無を聞きます。
内診では、腹圧をかけた時に脱出部位と程度の確認のため、計測と記録を行います。 - 下部尿路症状の診察・検査
骨盤臓器脱患者にしばしば認められる排尿障害は、尿失禁、頻尿、尿意切迫感、排尿困難などがあります。
問診票を使用した問診、尿失禁の検査、画像診断などを行います。
骨盤臓器脱の手術以外の治療は?
体重を減らし、重いものを持ち上げないようにし、禁煙をすることで骨盤臓器脱の進行を予防できます。症状が重い場合は手術をお勧めしますが、症状が軽度な場合は体の負担が少ない以下の治療法があります。
- 骨盤底筋体操
骨盤臓器脱が軽度であまり症状が強くない女性は、ケーゲル体操を練習して、進行を遅らせることができます。ケーゲル体操は、骨盤底を強化する一連の筋肉収縮運動で、同時に2種類の骨盤底筋を収縮させます:ガスの通過を防ぐために使用するもの(肛門括約筋)と、排尿を止めるために締め付けるもの(尿道括約筋)です。肛門と尿道を締め、腹筋は収縮させないでください。
肛門括約筋と尿道括約筋を同時に、はじめは3~5秒間の収縮を保持し、同じ時間休んでください。さらに最大10秒間の収縮と10秒間の休みに進んでください。この動作を、10回1クールとして、1日3-4クール(合計30-40回)行います。 - フェミクッション装着(体外式骨盤臓器脱治療用具)
手術適応ではない、または今後挙児希望のある場合に使用される体外式骨盤臓器脱治療用具(サポート下着):柔軟性のある半球状クッションを膣口に接することで脱出部位を膣内に押しとどめ、違和感を改善します。クッションを適切な位置に保持するためのサポート機能を持った専用の下着を用います。
フェミクッションについての問合せ・注文は以下に連絡してください
[女性医療研究所]
http://www.urogyne.jp
TEL:03-5319-2676 / FAX:03-5319-2677 - ペッサリー装着(体内式骨盤臓器脱治療用具)
手術適応ではない、または今後挙児希望のある場合に使用される体内式骨盤臓器脱治療用具: 膣内に留置することで臓器の下垂を抑える器具でポリ塩化ビニール、シリコンなどでできています。合併症で膣壁びらんや帯下増加を防止するため自己脱着も有用です。高度の臓器脱には2つ使うこともあります(ダブルペッサリー)。膣びらん、出血、膣壁癒着、帯下の増加、尿路感染が一般的に高い合併症です。 - エストロゲン軟膏
骨盤臓器脱は閉経後に多く見られます。更年期は、エストロゲンレベルが低下し、膣の乾燥を招く可能性があります。膣の乾燥が問題である場合は、エストロゲン療法について検討します。外科手術の前にエストロゲンで治療する場合があります。
骨盤臓器脱の手術方法は?
骨盤臓器脱のある女性で、不快感や痛みを伴い生活の質を損なう場合には、外科手術が推奨されます。手術を推奨する場合は、以下の考慮すべき項目があります。
1.どの臓器が脱出したか 2.脱出の重症度 3.将来の子供を産む予定があるか 4.年齢 5.性的活動 5.自覚症状の重症度
骨盤臓器脱の手術は、膣からと腹部からのアプローチがあり、人工メッシュを使わない従来手術(膣壁形成術、子宮摘出)と人工メッシュ手術(TVM、LSC)があります。
また、骨盤臓器脱に尿漏れ(失禁)も経験することがあり、手術中に、人工メッシュスリングを用い、予防または減少させるための処置を行うことがあります。
我々は、人工メッシュを使わない従来手術の再発の問題と人工メッシュ手術の合併症の問題を解決するため、骨盤臓器脱の最新の手術法(真皮移植法:永尾法)を開発しました。つまり、自家組織(脇腹の余った真皮)を用いた骨盤臓器脱手術を開発し、合併症もなく良好な成績を得ています。
1.どの臓器が脱出したか 2.脱出の重症度 3.将来の子供を産む予定があるか 4.年齢 5.性的活動 5.自覚症状の重症度
骨盤臓器脱の手術は、膣からと腹部からのアプローチがあり、人工メッシュを使わない従来手術(膣壁形成術、子宮摘出)と人工メッシュ手術(TVM、LSC)があります。
また、骨盤臓器脱に尿漏れ(失禁)も経験することがあり、手術中に、人工メッシュスリングを用い、予防または減少させるための処置を行うことがあります。
我々は、人工メッシュを使わない従来手術の再発の問題と人工メッシュ手術の合併症の問題を解決するため、骨盤臓器脱の最新の手術法(真皮移植法:永尾法)を開発しました。つまり、自家組織(脇腹の余った真皮)を用いた骨盤臓器脱手術を開発し、合併症もなく良好な成績を得ています。
骨盤臓器脱用人工メッシュの合併症は?
骨盤底障害を治療するため人工メッシュには、3種類あります。1.骨盤臓器脱のための経膣人工メッシュ(TVM)、2.骨盤臓器脱のための経腹人工メッシュ(LSC)、3.腹圧性尿失禁のための人工メッシュスリング(TOT,TVT)です。経膣人工メッシュ(TVM)の術中合併症として、膀胱損傷、尿管損傷、直腸損傷、出血が挙げられ、術後合併症としては、感染、人工メッシュびらん・露出・周辺臓器への露出、慢性的な疼痛、排尿障害などが挙げられます。
- 米国FDA(Food and Drug Administration:食品医薬品局)の注意喚起
2011年7月13日にFDAが、最新の科学文献に記載された有害事象や合併症の分析に基づくFDAの安全性評価結果を医療機関と患者に知らせるために、人工メッシュに関する2回目の注意喚起を行いました。
「骨盤臓器のための経膣人工メッシュ手術(TVM)に関連する重大な合併症」
1.骨盤臓器脱の経膣修復のための人工メッシュ(TVM)手術に関連する重大な合併症はまれではない。
2.人工メッシュを用いた経膣的骨盤臓器脱修復(TVM)が従来の人工メッシュを使わない修復よりも効果的であることは明らかではない
(UPDATE on Serious Complications Associated with Transvaginal Placement of Surgical Mesh for Pelvic Organ Prolapse: FDA Safety Communication
http://www.fda.gov/medicaldevices/safety/alertsandnotices/ucm262435.htm) - 腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱への人工メッシュ手術の安全性
2016年12月20日の医学雑誌Lancetに「腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱への人工メッシュ手術の安全性」という論文掲載されました。スコットランドで尿失禁手術約1万7,000例、骨盤臓器脱手術約1万9,000例のコホート研究を実施され、主要評価項目は、手術直後の合併症、術後の合併症による入院(5年以内)、さらなる尿失禁手術または骨盤臓器脱手術で、以下の結果が示されました。
腹圧性尿失禁に対しては、人工メッシュ手術が支持された。
一方、前膣壁脱および後膣壁脱に対しては、単独で最初の手術として行う場合、人工メッシュ手術は推奨されないことが示された。
さらに骨盤臓器脱手術に関しては、経膣および経腹(腹腔鏡)人工メッシュ手術はいずれも、経膣非メッシュ手術との比較において有効性および合併症は同程度であった。
以上より、人工メッシュ手術は、腹圧性尿失禁には推奨されるが、骨盤臓器脱には推奨されないと結論している。
(Adverse events after first, single, mesh and non-mesh surgical procedures for stress urinary incontinence and pelvic organ prolapse in Scotland, 1997-2016: a population-based cohort study. Morling JR, et al. Lancet 2016 Dec 20) - 膣部膀胱脱修復への人工メッシュはリスク
米国泌尿器科学会雑誌Journal of Urologyの報告では、膣膀胱瘤修復における人工メッシュの使用は減少している。米国外科学会の手術の質改善プロジェクトデータベースから膣部膀胱脱修復術を受けた患者6849例を抽出し、修復術におけるメッシュ使用が術後転帰に及ぼす影響を調査。死亡率はメッシュ使用群が0.3%で、非使用群の0%に比べて有意に高かった(P=0.04)。手術合併症発生率もメッシュ使用群で3.9%と、非使用群の1.8%に比べて有意に高かった(P<0.001)。手術時間および入院期間は両群同等だった。(Theofanides MC et al. Safety of Mesh Use in Vaginal Cystocele Repair: Analysis of National Patient Characteristics and Complications. J Urol. 2017 Apr 7. pii: S0022-5347(17)45431-0. doi: 10.1016/j.juro.2017.04.015.)
FDAは、経腟メッシュの販売中止命令を発表
2019年4月16日、FDAは骨盤臓器脱に対する経腟メッシュ手術に使用する外科用メッシュのすべての製造業者に、自社製品の販売と流通を直ちに中止するよう命じました。
経腟メッシュ手術に使われるポリプロピレンの糸を編んでつくったメッシュの安全性は、ソケイヘルニア、腹壁ヘルニアや腹腔鏡手術など、体の深い部分での使用では確認されていますが、膣粘膜直下など体の浅い部分に挿入すると合併症が起こるため、米国、イギリス、オーストラリアなどの先進国では中止されています。
欧米先進国での経腟手術は、経腟メッシュ手術が行えなくなったため、従来から行われてきた組織の摘出や縫合法(子宮全摘術、腟壁形成術、仙棘靭帯固定術など)に戻っています。再発率は、経腟メッシュ手術より高いという見解や同程度との見解があります。
当科で開発した、自家組織(真皮)による骨盤臓器脱修復手術法は、身体への安全性が確立された自家組織を腟壁から挿入し、臓器をハンモック状に支えて治療する手術方法です。この方法の開発によって、より安全な経膣手術と再発率の改善を達成しています。
経腟メッシュ手術に使われるポリプロピレンの糸を編んでつくったメッシュの安全性は、ソケイヘルニア、腹壁ヘルニアや腹腔鏡手術など、体の深い部分での使用では確認されていますが、膣粘膜直下など体の浅い部分に挿入すると合併症が起こるため、米国、イギリス、オーストラリアなどの先進国では中止されています。
欧米先進国での経腟手術は、経腟メッシュ手術が行えなくなったため、従来から行われてきた組織の摘出や縫合法(子宮全摘術、腟壁形成術、仙棘靭帯固定術など)に戻っています。再発率は、経腟メッシュ手術より高いという見解や同程度との見解があります。
当科で開発した、自家組織(真皮)による骨盤臓器脱修復手術法は、身体への安全性が確立された自家組織を腟壁から挿入し、臓器をハンモック状に支えて治療する手術方法です。この方法の開発によって、より安全な経膣手術と再発率の改善を達成しています。
自家組織(真皮)を用いた骨盤臓器脱手術とは?(真皮移植法:永尾法)
骨盤臓器脱手術には、人工メッシュを用いたTVM(経腟)やLSC(腹腔鏡)などの手術法があります。一方、患者の中には異物挿入や腹腔鏡手術を怖がる方も多いと思われます。そこでわれわれは人工メッシュを使わない骨盤臓器脱手術方法に新たに自家組織(真皮)移植法を追加して、安全性と有効性を高める方法を開発しました。真皮移植は、形成外科領域、陰茎形成手術でも頻繁に使用されており、骨盤臓器脱手術での真皮移植法では、真皮が裏面(膀胱側)と表面(膣粘膜側)の両側から血流が供給されるので真皮の生着率も高く、安全性と有効性の高い手術です。
また、真皮移植片・膀胱・子宮を非吸収糸で骨盤筋膜腱弓や仙棘靭帯などの硬い組織に確実に釣り上げるので有効性がさらに高まります。
また、真皮移植片・膀胱・子宮を非吸収糸で骨盤筋膜腱弓や仙棘靭帯などの硬い組織に確実に釣り上げるので有効性がさらに高まります。
真皮移植法(永尾法)と伝統的な骨盤臓器脱手術方法との違いは?
人工メッシュを使わない骨盤臓器脱手術を行った上で、自家組織(真皮)移植を行っています。つまり、骨盤臓器脱手術+真皮移植術(永尾法)となり、有効性がより高くなると考えられます。
真皮移植法(永尾法)の副作用はありますか?
真皮移植は、形成外科領域や生殖手術領域で確立した手術法です。わき腹の余った皮膚から表皮が残存することのないよう、丁寧に表皮を剥がします。表皮が残存した場合考えられることは、アテローム(粉瘤)ができる可能性がありますが、われわれの施設では今までその様なことは一切ありません。もう一つは皮膚採取部の傷跡ですが、脇腹の余った皮膚を使用するので、変形は起こりません。傷跡は形成外科的に丁寧に縫合しますので、細い線が残る程度でほとんど目立ちません。
真皮移植法(永尾法)は、どんな種類の臓器脱に有効?
真皮移植法(永尾法)は、頻度と再発リスクが高い膀胱瘤手術に最も適していますが、子宮脱、直腸瘤や小腸瘤にも有用と考えています。
真皮移植法(永尾法)は、入院が必要ですか?
手術は全身麻酔で、6泊7日くらいです。真皮移植片・膀胱・子宮を非吸収糸で骨盤筋膜腱弓や仙棘靭帯などの硬い組織に釣り上げるので、全身麻酔で行います
釣り上げを行わず真皮移植のみ行う簡便法もあります。
釣り上げを行わず真皮移植のみ行う簡便法もあります。
真皮移植法(永尾法)の手術前後の注意点は?
手術前は膣粘膜の状態を良い状態にするため、手術後は真皮移植法の生着がしっかりするまでフェミクッションをつけてもらいます。
フェミクッションの問合せ・注文は以下に連絡してください。
女性医療研究所
http://www.urogyne.jp
TEL:03-5319-2676 / FAX:03-5319-2677
フェミクッションの問合せ・注文は以下に連絡してください。
女性医療研究所
http://www.urogyne.jp
TEL:03-5319-2676 / FAX:03-5319-2677
真皮移植法(永尾法)は保険適用ですか?
保険で可能です。膀胱瘤手術+植皮術で、3割負担です。高額療養費適用なら返金があります。
真皮移植法(永尾法)について相談するには?
以下の無料メール相談で必要事項を記入して相談するか、泌尿器科外来、月曜または水曜午後の骨盤外来(永尾教授)を受診してください。