対象疾患
閉塞性無精子症
閉塞性無精子症とは、精巣における造精機能に関して問題はありませんが、精路(精巣上体、精管、射精管)の部位の閉塞が原因である精路通過障害または精管形成不全にて、射出精液中に精子が認められない病態です。治療法は、精巣を切開して直接精子を採取する精巣内精子採取術 (conventional testicular sperm extraction: cTESE)を行い生殖補助医療 (assisted reproductive technology: ART)を遂行することで挙児を得ることが可能です。また、原因が精路通過障害である場合は精路再建術を考慮します。精巣内精子採取術(cTESE)と精路再建術のどちらかを選択するかは、それぞれの特徴や治療成績によって判断されます。
閉塞性無精子症の原因
平成27年度の全国調査の報告によると、男性不妊症全体に占める精路通過障害の割合は3.9%であり、原因不明が1.2%と最多でした。次いで精巣上体炎後(0.7%)、精管結紮後(0.7%)と報告されています。無精子症の全体で、閉塞性無精子症が占める割合は約20%と言われています。
精路閉塞部位とその原因について
- 精管閉塞
精管結紮術:避妊目的に行われ、閉塞性無精子症の中では最も頻度が高いです。
小児期鼠径ヘルニア術後:手術の際に精管が損傷することで起こります。
先天性精管形成不全:完全欠損から骨盤部の部分欠損まで様々です。全国調査では男性不妊症全体の0.5%と報告されています。 - 精巣上体の閉塞
精巣上体炎:両側の炎症により起こります。
oung症候群:両側精巣上体頭部の閉塞に慢性気道疾患を合併する先天性疾患です。 - 射精管閉塞
先天性:ミュラー管嚢胞やウオルフ管嚢胞が原因で起こります。
後天性:尿道炎や結核などの感染症、慢性前立腺炎、膀胱頸部切除など外科的処置で起こります。
診断
- 問診:
精管結紮術、精巣上体炎、小児期鼠径ヘルニア手術などの精路通過障害の原因となる疾患の有無を問診にて確認します。 - 診察:
触診で精管が触知可能か、精巣に弾力があるか、鼠径ヘルニアの手術痕、陰嚢上部での精管の拡張がないかどうか確認します。 - 精液検査:
少なくとも2回行います。精液量が少ない場合は射精管閉塞を疑います。 - ホルモン検査:
血清ゴナドトロピン値(LH, FSH)、血清テストステロン値がいずれも基準値内である場合に、閉塞性無精子症を疑います。 - 精巣超音波検査:
精巣腫瘍の除外や、精索静脈瘤の補助診断、精巣内微小石灰化の有無の診断に有用です。 - 染色体検査:
原因不明な閉塞性無精子症の場合にGバンド法や、Y染色体微小欠失検査(AZF検査)を行います。 - 他検査:
経直腸超音波検査で精嚢および射精管の拡張がないかどうか確認します。
治療
- 精巣内精子採取術 (cTESE) 麻酔は局所麻酔で、陰嚢皮膚を切開し、精巣白膜を露出させ、5mmほど切開し精巣内の精細管を採取します。採取した精細管を培養液中で細切して精子の有無を確認します。精子が確認されれば、専用の凍結液を用いて凍結します。
- 精路再建術
(1) 精管精管吻合術
精管結紮術や小児期鼠径ヘルニア手術後の精管閉塞が対象となります。陰嚢皮膚切開を行い、精管を露出させます。尿道・精巣両側の精管断端を切断し、尿道側は生理食塩水を注入し通過性を確認します。精巣側は流出液内の精子の有無を確認します。精子が認められない場合は、精巣上体精管吻合を考慮します。精管精管吻合は、手術用顕微鏡下に粘膜と筋層の二層吻合で行われることが多いです。全国調査での精子出現率は、精管切断術後で73.6%、鼠径ヘルニア術後で38.9%でした。
(2) 精巣上体精管吻合術
精巣上体炎、長期の精管閉塞による二次的精巣上体閉塞、先天性や原因不明の精巣上体閉塞などが適応となります。手術用顕微鏡下に精巣上体管と精管粘膜の端側吻合を行います。全国調査での精子出現率は、精巣上体精管吻合術全体で41.5%でした。
(3) 射精管閉塞に対する経尿道的切除術 (transurethral resection of ejaculatory duct: TURED)
経尿道的に精阜の横の前立腺組織を切除します。切開後に尿が射精管内に逆流することで精子の質の低下や尿路感染が起こりやすくなるので、メリット及びデメリットを説明し個別に対応する必要があります。