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選択講義「臨床医学に役立つ複雑系科学入門」の講義を終了しました。

9月8日に選択講義「臨床医学に役立つ複雑系科学入門」最終回を終えました。最後の講義に参加してくれた27名の学生の皆さん。ありがとうございました!

東邦大学でなければ聴けない講義を実施したいと、青森から大学に帰ってきた2005年から、ずっと考えていました。しかし、古典的な系統講義は臓器別の設定になっており、一方教養講義は大きく縮小されていました。2019年に医学部1−3年生を対象とする選択講義枠の担当が埋まらないと教授会でアナウンスがあり、憤然として手あげしました。

今年は15コマの予定でした。当初40名の学生さんが選択してくれました。
第1回はなぜ複雑系科学が臨床に必要なのかを考えて見ました。
第2回はネットワーク論です。スモールワールドネットワークの意義について、みんなで考え、実際の治療への応用例を見ていただきました。
第3回はグラフ理論です。頂点次数によって、ネットワークに入れない頂点があること、一筆書きできるオイラー回路は密な連携をもつクラスター。ネットワークの脆弱性はベッチ数、最短距離と最適ルートは必ずしも一致しないことを確認しました。
第4回はグラフ理論の応用です。ニューロンネットワークの特性について考え、
リンパ節郭清しても再発する理由をグラフ理論から説明して見ました。
第5回はネットワークを流れる血流と血管分岐形態について考えて見ました。Hagen-Poiseuilleの法則から、なぜ心筋梗塞が多いのか、ネットワークを流れる最大流量についても考えてみました。
第6回はゲーム理論です。感染症拡大への対策、集団が安定する相互作用、少数派にも役割があること、生体には周期的変化が多いことを確認しました。また、集団を変えるには5%の人間が変わればよいことも計算してみました。
第7回はロジスティック写像です。漸化式で次の状態を予測し、フーリエの定理、オイラーの公式を用いて周期的変化を示す疾患の症候を指数関数で表現できることを示しました。その固有値によって全ての疾患の重症度を比較してみました。
第8回はフラクタル解析です。複雑系科学で医学博士を取得した助教の小松先生が担当してくれました。
第9回はカオス、局所安定性の時間です。ロジスティック写像を3時関数へ発展させて考え、密度効果を考えてみました。初期濃度の違いは指数関数的に増幅されますが,非線形効果が現れてくるとアトラクターに収束する場合、不規則な時間変化を示すカオスになる場合があることを確認しました。
第10回はセルオートマトンです。初期値から将来を予想する微分方程式が求められない変換では、セルオートマトンを用いると将来をシミュレーションできることを示しました。そして、逆流性食道炎、網膜剥離、MRSA感染拡大などについて、モデルを動かしてみました。
第11回は拡散律速凝集モデルです。拡散速度が個体や病変の形を決定する。ランダムウオークが再現性のある複雑な形態を作る。単純な局所作用だけで形態は決定していることなど、確かめてみました。シマウマの縞模様のできる機序、ポリープの形態を決定する一因となることを示しました。
第12回は自己組織化です。臓器形成における細胞の量的効果、誘導物質アクチビン濃度による誘導臓器の変化、細胞間相互作用について学習しました。経過観察で治る場合と後遺症が残る場合について、アトラクターの概念を用いて考えて見ました。
第13回はイオン化傾向です。イオンチャネルの大きさと分子の大きさのギャップが生じる理由を考え、イオンが周囲の水運動エネルギーに及ぼす影響から、電解質異常で見られる症状を考えてみました。
第14回は第117回日本内科学会総会「医学生・研修医による日本内科学会ことはじめ」において、優秀演題賞を受賞した医学部6年生の林優作君が「セルオートマトンを用いた数理解析による院内感染伝搬様式の検討」について、講義してくれました。当初はMRSA感染伝搬様式を解析するモデルでしたが、今回はCOVID-19感染モデルも作成しました。また、大きく制限された環境での臨床実習においても、思考回路を柔軟に作動させると、通常の実習以上に得るものがあることを結論に入れてくれました。
第15回は複雑系科学と倫理についてお話しました。高等教育の大衆化と高度化の矛盾、非線形な反応の多い生体では固有解ではなく、周期解が多いことから、リベラルアーツ教育の重要性が高いことを強調しました。医学教育も専門学校化しており、教育産業の産生物としての医師を量産している現状を考えてみました。
日本では産業革命の果実は軍需産業として速やかに受け入れられ、「明日役立つ学問」が推奨され、国立大学では教養学部が廃止され、現在の産学連携、イノベーションに繋がります。元来,医療人には道徳的信念や期待に反するような行為を強いられる状況への対応,診療の不確実性や告知など、医療者固有の葛藤や苦悩があり,これらがコロナ禍において増大し,修復困難な局面に何度も遭遇することが少なくありません。医療はケア労働、感情労働とも言われ、機械化できない労働集約型産業に分類されていました。対象を増やして生産性向上できず、また対象者が効率化を希望していないからです。生産性を高めるために無理な効率化が断行されると、医療者のmoral injuryは増悪してしまいます。医療の問題点を学生さんと共有させていただき、有意義な時間を過ごすことができました。

誠にありがとうございました。

参加してくれた学生さん、今度は臨床実習で待ってます。ともに最適解を探しましょう!
文責: 瓜田 純久

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 総合診療・急病センター

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