2月5日にJPCA佐賀支部第6回学術大会で「症例検討から学ぶ診断推論戦略 by JUGLER」を開催致しました。
JUGLERとは「既存の枠に囚われず、理想の病院総合医の姿を明確にして大学病院総合診療科の必要性を発信する」ことを目的に佐賀大学多胡准教授(発起人)、獨協医科大学志水教授、順天堂大学高橋先生、千葉大学鋪野先生、島根大学和足先生、私がメンバーとして活動しているJapan University General medicine Leadership and Education Roundtable日本大学総合診療リーダーシップ・教育円卓会議の略称のことです。
JUGLERホームページ: https://jugler-gm.com
これまでも鋪野先生、多胡先生のご尽力により日本病院総合診療学会で「症例検討から学ぶ診断推論戦略 by JUGLER」を開催させていただき、好評をいただいております。
内容は日経メディカルにも掲載されております。:
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/dxbias/202104/569723.html
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202110/572254.html
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/202201/573233.html
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/202201/573234.html
今回は日本プライマリ・ケア連合学会佐賀支部第6回学術大会で開催の機会をいただきました。総合診療の古豪である佐賀大学総合診療部から2症例をご提示いただきました。
1例目は佐賀大学総合診療部の平田理紗先生からご提示いただいた半年前からの血圧低下と1ヶ月前からの盗汗、発熱、体重減少で受診された症例でした。
半年前からの血圧低下と1ヶ月前からの発熱から副腎不全や甲状腺機能低下症等の内分泌疾患といわゆる不明熱を一元的に説明できる病態として、副腎に生じた血管内リンパ腫等の悪性リンパ腫ではないかと考えましたが、診断は下垂体-視床下部に生じた血管内リンパ腫でした。副腎皮質機能低下の原因は下垂体-視床下部性だったということで、私の推測を超えておりました。
高橋先生のADLの的確な把握がReview of systemsにも繋がるというご指摘、詳細な病歴で複数の病態が重複(Add on)したか鑑別するという話は、なぜ詳細な病歴聴取が必要なのかについて改めて実感させられるものであり、特に若手医師にとって非常に勉強になったのではないかと思います。
志水先生から若手の聴衆に対する「不明熱では①血管内感染症、②深部感染症(膿瘍・骨髄炎)、③細胞内寄生菌(結核等)を考えよ」「血液培養陰性の血管内感染症として人畜共通感染症を想起すべし」、「相対的頻脈の存在からToxicな病態として内分泌疾患を想起すべし」、「膀胱癌ではBCG療法によるMycobacterium bovis感染症を想起すべし」等、クリニカル・パールに溢れた解説は本当に勉強になりました。
この症例は既に症例報告として掲載されているとのことですのでぜひご参照下さい:
Hirata R et al. Intravascular large B-cell lymphoma with endocrine disorder of the hypothalamus–pituitary axis required repeat random skin biopsy for diagnosis. J Hosp Gen Med, 3(4): 129-135, 2021
2例目は織田病院牧尾成二郎先生から亜急性経過の認知機能低下、意識障害、構音障害と急激な全身浮腫、血小板減少、腎機能障害を呈したTAFRO症候群の症例をご提示いただきました。
私は以前に類似した症状で受診したビタミンB12+ビタミンB1欠乏症の症例(https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/advpub/0/advpub_6660-20/_article)に気を取られて錨バイアスに陥ってしまいましたが、高橋先生、志水先生は素早く患者の病態の全体像を把握し、著明な浮腫と血小板減少からTAFRO症候群を最初から想起されました!加えてTAFRO症候群を想起した際に同時に鑑別すべき病態についても解説してくださいました。TAFRO症候群を想起するだけでもすごいと思うのですが、さらにIgG4関連疾患を含めて鑑別すべき周辺の病態についても解説していただき、本当に勉強になりました。
直観的に軸(Pivot)となる疾患を想起し、その軸を手がかりに、軸の周りにある類似した鑑別すべき疾患群(Cluster)を想起して鑑別してゆくという、志水先生が提唱されたPivot & cluster strategyの真骨頂をお二人の思考過程に見た思いでした。
1例目は佐賀大学総合診療部の平田理紗先生からご提示いただいた半年前からの血圧低下と1ヶ月前からの盗汗、発熱、体重減少で受診された症例でした。
半年前からの血圧低下と1ヶ月前からの発熱から副腎不全や甲状腺機能低下症等の内分泌疾患といわゆる不明熱を一元的に説明できる病態として、副腎に生じた血管内リンパ腫等の悪性リンパ腫ではないかと考えましたが、診断は下垂体-視床下部に生じた血管内リンパ腫でした。副腎皮質機能低下の原因は下垂体-視床下部性だったということで、私の推測を超えておりました。
高橋先生のADLの的確な把握がReview of systemsにも繋がるというご指摘、詳細な病歴で複数の病態が重複(Add on)したか鑑別するという話は、なぜ詳細な病歴聴取が必要なのかについて改めて実感させられるものであり、特に若手医師にとって非常に勉強になったのではないかと思います。
志水先生から若手の聴衆に対する「不明熱では①血管内感染症、②深部感染症(膿瘍・骨髄炎)、③細胞内寄生菌(結核等)を考えよ」「血液培養陰性の血管内感染症として人畜共通感染症を想起すべし」、「相対的頻脈の存在からToxicな病態として内分泌疾患を想起すべし」、「膀胱癌ではBCG療法によるMycobacterium bovis感染症を想起すべし」等、クリニカル・パールに溢れた解説は本当に勉強になりました。
この症例は既に症例報告として掲載されているとのことですのでぜひご参照下さい:
Hirata R et al. Intravascular large B-cell lymphoma with endocrine disorder of the hypothalamus–pituitary axis required repeat random skin biopsy for diagnosis. J Hosp Gen Med, 3(4): 129-135, 2021
2例目は織田病院牧尾成二郎先生から亜急性経過の認知機能低下、意識障害、構音障害と急激な全身浮腫、血小板減少、腎機能障害を呈したTAFRO症候群の症例をご提示いただきました。
私は以前に類似した症状で受診したビタミンB12+ビタミンB1欠乏症の症例(https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/advpub/0/advpub_6660-20/_article)に気を取られて錨バイアスに陥ってしまいましたが、高橋先生、志水先生は素早く患者の病態の全体像を把握し、著明な浮腫と血小板減少からTAFRO症候群を最初から想起されました!加えてTAFRO症候群を想起した際に同時に鑑別すべき病態についても解説してくださいました。TAFRO症候群を想起するだけでもすごいと思うのですが、さらにIgG4関連疾患を含めて鑑別すべき周辺の病態についても解説していただき、本当に勉強になりました。
直観的に軸(Pivot)となる疾患を想起し、その軸を手がかりに、軸の周りにある類似した鑑別すべき疾患群(Cluster)を想起して鑑別してゆくという、志水先生が提唱されたPivot & cluster strategyの真骨頂をお二人の思考過程に見た思いでした。
志水先生のPivot & cluster strategyに関する論文:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23204855/
どちらの症例も非常に診断が難しく、担当医の執念が診断に繋がった症例であり、佐賀大学総合診療部では最初のカンファレンスでどちらの症例もすでに診断の道筋がついていたという多胡先生のコメントから、佐賀大学総合診療部の高い実力に加え、「自分たちが診断できなければ次はない」という矜持と覚悟を感じ、身が引き締まる思いが致しました。
司会の鋪野先生は巧みにディスカッサントの考えを引出し、聴衆のために解説を加えつつ、時間ぴったりにセッションを進めてくださりました。鋪野先生の名司会と多胡先生のマネジメントに甘えて私たちディスカッサントはいつものびのびとやらせていただいており、本当に頭が上がりません。
ご発表・ご登壇いただいた皆様と大会関係者各位に感謝申し上げます。
2月26日に開催される第24回日本病院総合診療医学会でも「症例検討から学ぶ診断推論戦略 by JUGLER」を開催させていただく予定ですので、ぜひご参加ください!
https://hgm24.net

文責:佐々木 陽典