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尿路感染症・間質性膀胱炎

膀胱炎とは

急性膀胱炎はポピュラーな病気であり、多くは抗生物質の服用で治りますが、最近は多剤耐性菌の問題もあり、治療に難渋することもあります。また、生活習慣の改善によって予防することもできます。一方、間質性膀胱炎は細菌性の膀胱炎ではありません。症状が厳しく、治りにくい病気です。どちらも女性が発症しやすいので、理解を深めておきましょう。

急性膀胱炎は女性が一生に一度は経験すると言われているほどポピュラーな病気です。このホームページをみている方にも経験したことのある方が多いのではないでしょうか。実は、膀胱炎にはいくつかの種類があり、一般によく言われている膀胱炎は正式には急性単純性膀胱炎(以下「急性膀胱炎」と表記します)と言います。以前は、20歳代のセクシュアルデビューをする若い女性に多い病気でしたが、高齢社会の到来によって、このところ、年配の女性にも増えてきています。当院および関連施設の統計によると急性膀胱炎の好発年齢のピークは2000年以降は20代、閉経を迎えた50代、そして70歳代の3つあります(図1)。 急性膀胱炎は、細菌が膀胱へ入り、膀胱粘膜に炎症が起こる病気で、三大症状として①トイレが近い(頻尿)、②排尿の終わるころから排尿後の痛み(終末時排尿痛)③尿が白く濁ったり(尿混濁)、血液が混ざったりする(血尿)があげあれます。この症状のなかで、②は必ず認められますが、①③は病院で顕微鏡的に検査し、はじめてわかる場合もあります。

急性膀胱炎が男性よりも女性に圧倒的に多く見られるのは、身体の構造と深い関係があります。男性は肛門と尿道口が離れているのに対して、女性は肛門と膣、尿道口が近くに並んでいます。急性膀胱炎を起こす細菌は、直腸内に棲む細菌(腸内細菌)で、近くにある膣や尿道口に入り込むことがあります。本来、膣にはデーデルライン桿菌という常在菌がいて膣内を強い酸性に保ち、雑菌などが増殖するのを防いでいます(「膣の自浄作用」)。ところがデーデルライン桿菌は、生理や妊娠中、また、閉経後はエストロゲンの低下によって減少します。すると膣内で細菌が増殖し、その細菌が膣から隣の尿道口に入り込むことで発症します。さらに、男性の場合は尿道が約20cmと長いですが、女性は尿道が4~5センチと短く、尿道に入り込んだ細菌が膀胱に到達しやすい構造になっているのです(図2)。膀胱にたまっている尿にはさまざまな栄養素もあり、おまけに温かいので、細菌にとっては格好の住処といえます。その結果、細菌が膀胱内で増殖し、膀胱表面の粘膜に炎症を引き起こすのです。「膀胱炎かな?」と思ったら、まず水分を十分にとって尿をたくさん出すようにしましょう。アルコールや刺激物の摂取は控えます。そして、医師の診察を受けてください。

総合病院の泌尿器科や泌尿器科クリニックがベストですが、近くにない場合は内科や婦人科などでも診断、治療はできます。病院では問診を行い、尿検査で尿中の細菌の有無を調べて診断を下します。急性膀胱炎の治療には、細菌を殺す抗菌薬や抗生物質が使われます。抗生剤内服後すぐに痛みがなくなったとしても、細菌が残っている可能性があるので服用をやめてはいけません。医師の指示に従って必ず最後まで飲みつづけてください。また、決められた時間通りに服用することも大切です。薬を決められたとおりに服用しなかったり、無闇に長期間飲みつづけると、抗生物質が効かない多剤耐性菌を増やす原因になります。急性膀胱炎は、細菌の侵入経路をきちんと理解して対処すれば予防できます。ここに挙げられていることを生活習慣としてぜひ身につけていただきたいと思います。とくに何度も再発を繰り返す人は、この病気を引き起こす行動をしていないか見直してみましょう。

  1. 水分を多めに取る;水分を十分にとると尿量が増え、排尿の回数が増えます。たとえ膀胱内に細菌が入っても、尿と一緒に流し出すことができます。
  2. 尿を我慢しすぎない;膀胱内に尿が長時間たまっていると、細菌が増殖しやすくなります。細菌が増殖しないうちに、早めに排尿をすることが大切です。
  3. 下痢や便秘に気をつける;便秘や下痢により、膀胱に病原性のある腸内細菌が増殖すると感染のリスクが高まります。
  4. 性交渉後は排尿をする;性行為によって細菌が尿道から膀胱へ入りこむケースがあります。性交渉の前後はシャワーを浴びて陰部を清潔にし、性交渉後に排尿する習慣をつけましょう。
  5. 下半身を冷やさない;下半身の冷えが急性膀胱炎につながるというエビデンスはないのですが、冷えて膀胱炎になったと訴える、特に年配の患者さんがいることは確かです。
  6. 排尿後、排便後の拭き方に気をつける;細菌が尿道口入り込まないように、どちらの場合も「前から後ろ」に拭きます。前方の尿道から後方の肛門むかって拭くことが肝心です。
  7. 排尿後排便後の温水便座の使用は控える;温水洗浄便座を使用することにより膣内で繁殖した細菌を尿道に入れてしまうケースがあります。またとくに痔などがなければ、排便後も使用を控えたほうが賢明でしょう。細菌を尿道のある前方へ押し込んでしまう危険性があるからです。
  8. 疲労やストレスはためない;疲労やストレスがたまると、免疫力が低下して細菌に感染しやすくなります。規則正しい生活を送り、リラックスできる環境を整えましょう。
  9. メタボリック、体重の増加も原因となることがあります。過激なダイエットは免疫力を低下させますが、適度な運動、食事のコントロールにより適切な体重を維持させましょう。

次に間質性膀胱炎についてお話をします。女性に多く、細菌感染によるものではない原因不明の膀胱炎です。膀胱や骨盤周囲の強い痛み、尿意切迫感、昼夜間頻尿など、急性膀胱炎と似た症状があるのに、検査をしても尿から細菌が検出されません。細菌感染による疾患ではないため、抗生物質をいくら服用しても症状は改善しません。その結果、抗生物質を長期投与されたり、診断がつかなかったり、心因性の頻尿を疑われて他の科への受診を勧められる患者さんも少なくありませんでした。近年になって、ようやく泌尿器科医師の間でこの病気に対する認識がされはじめ、診断ができるようになってきました。急性膀胱炎の症状との違いは、急性膀胱炎は排尿の終わるころに膀胱が痛むのに対して、間質性膀胱炎は尿がたまってくると痛みが起こり、排尿すると痛みが軽くなることです。患者さんは痛くなる前にトイレに行こうとして頻尿になります。重症のケースでは、15分おきにトイレに行ったという方もいます。また、歩けなくなるほどの膀胱の痛みを訴える患者さんもいます。間質性膀胱炎は、膀胱壁の粘膜から筋層というところに炎症が起こり、組織が繊維化して(硬くなって)膀胱が萎縮する病気です。診断は問診と尿検査、膀胱鏡検査(尿道からカメラを挿入して膀胱内の出血点や潰瘍等を観察します)などの結果をみて下されます。診断はついても有効な治療法が確立していないのが、医師である私たちにとってもつらいところです。治療は症状の緩和、消失を目標とし、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬などを用います。薬物療法で効果がなければ膀胱水圧拡張術という方法もあります。これは、麻酔下で尿道口から膀胱の中に膀胱鏡を挿入し、生理食塩水を入れることで、萎縮した膀胱を広げる方法です。診断と治療を同時に行えるという利点があり、かなりの効果をあげています。そのほか、鎮痛・抗炎症作用のある薬剤を膀胱内に注入する治療などもあります。いずれにしても、すべての患者さんに効果のある治療法は見つかっておらず、再発率も高いのが現状です。この病気はストレス(仕事、睡眠障害、気温の変化など)やある種の食品(表1)が痛みを引き起こしたり、症状を悪化させたりすることもあります。どんな食品が引き金になるかは患者さんによって異なるようです。そこで、当院では生活環境やどんなときに痛みが出たかなどを患者さんにこまめに記録し、その記録を活かしながら、その方にあった治療法を探し、漢方薬も併用して治療効果をあげています。なお、間質性膀胱炎は必ず泌尿器科専門医に診てもらってください 。 

図1 女子急性膀胱炎患者の発症年齢の年次推移

女子急性膀胱炎患者の発症年齢の年次推移

図2 女子急性単純性膀胱炎の細菌の侵入経路

女子急性単純性膀胱炎の細菌の侵入経路

膀胱水圧拡張術について

潜在的に相当数いると考えられている間質性膀胱炎に対して、まずその診断をつけることそのものが広く実施されていないのが現状です。間質性膀胱炎は、恥骨上部の痛みや頻尿、尿意切迫感を伴った症候群と位置づけられています。今もって定義は確定しないので、不定愁訴として、きちんとした診察を受け得ない患者さまが相当数いると推定されています。欧米の報告では人口の0.5%が、この疾患の可能性があると推定されています。現在、間質性膀胱炎に対して診断と治療は 1.問診と 2.膀胱鏡検査です。現在のところ、間質性膀胱炎の治療で最も効果があるのは、膀胱水圧拡張術です。この膀胱水圧拡張術を行うことで、診断と治療を同時に行えるという利点があります。

方法

膀胱鏡を挿入して生理食塩水で膀胱が充満したところで、3-5分放置して生理食塩水を抜く、これを数回繰り返すといった方法です。

表1

間質性膀胱炎の症状を引き起こしやすい食品
 誘因となる食品は人によって異なります。一般に避けたほうがよいとされているのは下記のような食品です。
  • 熟成チーズ(白カビ系・青カビ系のチーズ、チェダーチーズなど)
  • 大豆、枝豆、そら豆
  • 酸味、酸性の強いもの(柑橘類、酸味のあるトマト、炭酸飲料)
  • 刺激物(わさび、トウガラシ、こしょうやカレー粉などの香辛料)
  • カフェインを多く含むもの(コーヒー、紅茶、玉露のお茶)
  • アルコール(ワイン、ビール) 

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 泌尿器科

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)