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東邦大学医療センター
佐倉病院 腎臓内科

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千葉県佐倉市下志津564-1
TEL:043-462-8811(代表)

医学部ニュース №153(2018.10.1発行)

となりの研究室

論文

<雑誌>
The journal of nutrition, health & aging vol 19,No10, 2015

タイトル:
THE ASSOCIATIONS OF MALNUTRITION AND AGING WITH FLUID VOLUME IMBALANCE BETWEEN INTRA- AND EXTRACELLULAR WATER IN PATIENTS WITH CHRONIC KIDNEY DISEASE

○Y. OHASHI, R. TAI, T. AOKI, S. MIZUIRI, T. OGURA, Y. TANAKA, T. OKADAA. AIKAWA, K. SAKAI
2017/2018JIF:IF:2.868

となりの研究室

腎臓学講座(佐倉)
准教授 大橋 靖 先生

インタビュアー

藤本悠太(3年)
今回、細胞の内外における水分量比の変化が及ぼす影響に関する論文を拝見し、ご執筆された大橋靖先生(佐倉病院 内科)にお話を伺いました。
Q1.細胞内外液の均衡についての研究に着目したきっかけを教えてください。

 私は腎臓内科医なので仕事柄、水のバランスが崩れてしまう患者さんをたくさん診てきました。腎臓の働きが低下すると腎臓からの塩分排泄能が低下して体内にナトリウムが貯留してしまいます。その患者さんたちを診て、「ちょうどいい水の量って何だろう?」とずっと疑問に思っていました。

 医師4年目に体組成を測定できる機械が借りられたので患者さんのデータを取って栄養状態を評価してみないかとある先生から声をかけられました。当時、その機械は体全体の水分量しか測定できず、細胞内外の比率までは分かりませんでしたが、私はそれが面白そうだと興味を持ちました。しかし、体水分が貯留すると計算上体脂肪率が下がるためこの評価は使い物にならないとすぐに気が付きました。これを学会で報告した帰りの飛行機で、先生に「細胞内液量と細胞外液量が2:1であるなら、余剰の細胞府外液量は算出できるのではないか」と話しました。先生は「あなたは面白いことを考えるね」と笑いながら答えました。その後、臨床に追われる毎日であまり研究に着手できる時間が取れなかったのですが、ずっと頭に引っかかっていました。結局そのアイデアは間違っていて細胞内外液の比率は必ずしも2:1ではなかったのです。それに気が付いたことがこの研究に着目したきっかけです。
Q2.この研究の結果で意外なものはありましたか。

 そもそも、年齢によって細胞内外水分量が変わることが驚きでした。年を取れば体内の水分量が減ることは想像に難くないですが、それでも細胞内外液の比が2:1のままであると思っていました。しかし、実際はナトリウムの貯留によって相対的に細胞外液量が増えていることが分かりました。これには細胞膜の虚脱や細胞数の減少などが原因として挙げられますが、これらによって細胞内外液のバランスが崩れている人は死亡を含む有害転帰を起こしやすいことが分かりました。この結果は、筋肉量の減少が生命予後を悪化させる要因になることの裏付けにもなり、得ようとした結果とは違った事実を見出すこともできました。
Q3.この研究で苦労したことはありましたか。

 今ではだいぶ状況が変わってきましたが、相談できる相手がいなかったことですね。最初は、この人は何を言っているのだろうという感じで受け止められていました。今でも、この研究を面白いと言ってくれる人とそんなことがあり得るのかと懐疑的な人がいます。未知なことにチャレンジするということはそういうことなのでしょうね。今ではこのテーマに取り組んでよかったと思います。誰も取り組んでいないテーマだからこそ、簡単に結果も出ないですが意義もあります。
Q4.今後この研究がどのように生かされるとお考えですか。

 腎臓病の患者さんの体組成のバランスを整えていくために、減塩を指導し、厳しい食事制限を課すことが多いわけですが、一方で栄養障害も問題になっています。筋肉量が減少すれば細胞内水分量が減少します。この研究結果は、細胞内水分量を増やしていくような医療を考えるべきであるということを示していると思います。つまり、筋肉量を増やして浮腫みにくい体を作っていこうというものです。これは昨今の健康寿命につながる取り組みと合致していると思います。
Q5.今後研究してみたいテーマはありますか。

 腎臓病患者さんが腎機能を失ってしまったとき、透析療法を受ける必要があります。透析を受けている方は体液バランスを整えるためにドライウェイトという透析後目標体重を設定する必要があります。しかし、このドライウェイトを定量的に評価する方法がなく、今でも多角的に評価を必要とし、臨床の現場ではこのドライウェイトの設定にいつも苦しめられています。私はこのドライウェイトを定量的に評価できるようにしたいと思っています。もしそうなったら、多くの方の悩みを解決できると思います。
Q6.将来的に論文を書くことになる医学生に向けてアドバイスをお願いします。

 東邦大学に天才はいません。論文を書いた人と書いていない人のもともとの能力に差はないと思います。しかし、書いた人しか見たことのない景色はあると思います。是非それを経験して欲しいと思います。

 まず、「なぜだろう、よくわからないな」と疑問に思うことです。その疑問(question)は患者さんを診ていて生まれるものです。だから、まずは臨床の現場でたくさん困った経験をして欲しいのです。自分が無学なだけかもしれないのでまず調べるわけです。既知ではない疑問(question)はあなたの財産です。学習(learning)と勉強(study)は違います。前者は既知から学ぶことです。後者は未知を学ぶことです。高校でやってきたことは学習(learning)です。本来大学は勉強(study)する場所です。うまくいかないことはたくさんあります。情報処理能力が長けた人間が良き研究者になるとは限りません。「おりこうさん」なだけでは片手落ちで、疑問(question)を持つ好奇心とそれに向かう胆力(courage)を身につけることです。最初は分からないかもしれませんが、学習(learning)しているより勉強(study)しているほうが楽しいです。
 
1時間という限られた時間ではありましたが、様々なお話を伺うことができ、大変貴重な経験となりました。大橋先生並びにこのような機会を提供してくださった皆様、本当にありがとうございました。