脳神経内科

自律神経

自律神経(autonomic)とは何でしょうか? ここでは健康と病気からみた自律神経についてご説明いたします。

自律神経は、運動神経(motor)、感覚神経(sensory)などと同列の、神経の働き(神経系・神経機能ともいいます)の一つです。運動は本人の意思で行うもの、感覚は本人が起きているときに行われるものとしますと、自律神経は本人が寝ているときにも行われるもので、紀元2世紀にローマの医師ガレンにより名付けられたとされます。しかし、その機能が明らかにされたのは、20世紀に入ってからのことです。

神経を大きく脳・脊髄・末梢・筋肉に分ける場合があります。この分け方と、運動・感覚・自律神経の分け方は、デニムの経糸(たていと)と横糸(よこいと)のような関係があるといえます。運動・感覚・自律神経の機能の研究は、大きく、末梢神経から始まったといえます。

このうち、自律神経系の末梢神経は、副交感神経(アセチルコリン系、1920年台ドイツのレヴィー他が記載、アセチルコリンは運動・認知にも関わります)、交感神経(ノルアドレナリン系、1940年台スウェーデンのフォンオイラー他が記載、ノルアドレナリンは脳と脊髄の中にもみられます)に2大別され、さらに第3の非アドレナリン非コリン系の、最初の物質として、ATP(エーティーピー、アデノシン3リン酸)が1970年台イギリスのバーンストックにより発見され、現在同系統の物質が多数知られています。同時に、自律神経系の脊髄と脳(中枢ともいいます)内の回路・物質の研究が、今まさに花盛りといえます。副交感神経と交感神経の比重は、臓器によってことなります。例えば、心筋・血管の収縮はノルアドレナリンが、膀胱・腸管の収縮はアセチルコリンが主体で、どちらも重要といえます。第3の非アドレナリン非コリン系物質の一つ、一酸化窒素(nitric oxide, NO)は、性機能・循環器機能に大きな役割を持ち、お薬として広く使われています。
自律神経の症状は、疾患からみると理解されやすいように思われます。
自律神経症状をきたす疾患は、内科・脳神経内科・整形外科・脳神経外科の病気が有名で、頻度が高いものです。

★末梢神経の病気: 糖尿病(diabetes)による末梢神経障害(diabetic neuropathy)による自律神経障害が典型的です。糖尿病が進むと、足先手先のお感じが無くなりびりびりとしたしびれ痛みが出て(感覚)、同時につま先が垂れたり手の親指・人差し指の間の筋肉がやせたりし(運動)、同時に、臥位>座位>立位と立ち上がった時に、血圧が50-100mmHg下降したり(起立性低血圧)、尿が膀胱まで来ているのに外に出せなくなったりします(神経因性膀胱、尿閉)。

★脊髄の病気: 外傷性脊髄損傷(spinal cord injury)による自律神経障害が典型的です。頚部で脊髄損傷をきたしますと、病気の部位から下に麻痺(車椅子)、感覚低下(お感じが無い)しびれ痛みと同時に、尿閉、起立性低血圧を来します。

★脳と脊髄の病気: 厚生労働省特定疾患/神経難病である多系統萎縮症(multiple system atrophy, MSA, エムエスエー)による自律神経障害が典型的です。起立性低血圧、頻尿/不全尿閉と同時に、睡眠時無呼吸を来します。 すなわち、自律神経症状として、
  1. 起立性低血圧(orthostatic hypotension, postural hypotension)
  2. 神経因性膀胱(neurogenic bladder dysfunction, しばしば神経因性排便障害/便秘[neurogenic gastrointestinal dysfunction]、性機能障害[sexual dysfunction]を伴い、合わせて骨盤臓器障害[pelvic organ dysfunction]といいます)、
  3. 睡眠時無呼吸(sleep apnea syndrome)、
の3つが代表的といえます。一般に、末梢臓器の収縮が低下することが多いですが、脳病変による膀胱は例外的で、検査を行うと、収縮が亢進していることが観察されます(過活動膀胱、高齢者でしばしばみられます)。
このうち循環器を例にとりますと、心電図・心エコー検査で異常がないにも関わらず、強い症状(起立時の失神)が出て救急受診がありえます。同様に、骨盤臓器を例にとりますと、膀胱鏡・大腸カメラで異常がないにも関わらず、強い症状(尿閉やイレウス[腸閉塞])が出て救急受診がありえます。このため、循環器科・泌尿器科・消化器科から脳神経内科に、自律神経検査を依頼紹介されることが少なくありません。このように、各臓器科と脳神経内科が紹介し合いながら、協力して症状の改善を目指すことが行われています。

付1)
脳神経を扱う診療科を神経3科という場合があります。神経3科とは、脳神経外科(neurosurgery、外科治療)、脳神経内科(neurology、内科治療)、精神科(psychiatry, こころの治療、本邦では神経科、メンタルヘルス科、身心医学科[psychosomatic medicine]/心療内科も標榜されています)のことで、神経3科は協力し合って患者さんの診療にあたっています。
神経3科の病気の頻度は、脳神経内科、精神科の病気が非常に多いものです。
神経3科の病気の症状の出方は、脳神経内科・脳神経外科の病気は、程度の差はありますがほぼ同じ出方をいたします。一方、精神科の病気は、異なる症状の出方をいたします。
神経3科の病気の脳MRI陽性率をみますと、脳神経外科は100%、脳神経内科は60%(厚労省特定疾患パーキンソン病は、脳幹に病気があるものの一般のMRIでまだ捉えることができず、別の検査を行います)、精神科は0%、とも言われます。すなわち、脳神経内科と精神科の病気は、脳MRIだけで鑑別することが出来ず、他の所見を含めて総合的に判断致します。さらに、神経3科の病気が同時にみられる場合もあり、その場合は神経3科で紹介し合いながら、協力して症状の改善を目指します。

付2)
精神科の病気が各臓器科・脳神経外科・脳神経内科の病気を真似る(mimic)ようにみえる場合があり、身体症状症(somatic symptom disorder)(身心症[psychosomatic disorder]/ヒステリー[hystery]型神経症[hysteriac neurosis]とも称されます)といいます。診察・機能検査を行いますと、程度は軽度から正常のことが多く、感覚過敏・痛みをしばしば伴います。精神科の病気を大きく、神経症(neurosis, 18世紀スコットランドのカレンの記載の旨)、そううつ病(bipolar disorder 双極性障害, このうちdepressionうつが良く知れられます)、統合失調症(schizophrenia)の3つに分ける場合があり、このうち身体症状症(ヒステリー)は神経症領域の患者さんでしばしばみられます。運動(人前で動作がきこちなくなるなど)・感覚(人前で顔・全身がしびれる、頭が締め付けられるなど)・自律神経(大事な用があるとおなかが緩く痛くなる)などの多彩な症状がみられますが、神経3科の仲間の精神科先生の治療により、軽快されることが多いものです。

別項の「自律神経症状」もご覧くださいませ。

自律神経症状