脳神経内科

熱(ねつ)があるとどうして歩けなくなるの?

「年配の方は熱(ねつ)に弱い」と良くいわれます。具体的には、かぜを引いたり、軽い誤嚥性肺炎(しばしばむせに続いておこります)、腎盂腎炎、胆嚢炎などに続いて、今まで歩けていた方が急に歩けなくなる場合があります(歩行障害)。そのメカニズムは、足(あし)が腫れたり痛んだりすることはごく稀で、足や歩行をつかさどる神経、とくに脳の関与が知られています。歩行障害の特徴として、左右差が無く両足にみられます。歩行障害と同時に、元気が無くなってぼーっとし目が半開きとなったり(意識障害)、目ははっきり開いているものの、物事の判断力が低下し話の内容がまとまらなくなったり大きな声を出したり(認知症)する場合があります。

これらの状態を「全身炎症脳症(のうしょう)」または「譫妄(せんもう)」といいます。そのメカニズムとして以下のことが知られています。全身の感染症(ばい菌やウィルスが体内に入り込むこと)をきたしますと、からだが反応して白血球が増加し、各種の炎症物質(CRP, TNFalphaなどのサイトカイン)が産生され、これらが、からだからばい菌やウィルスを除去する方向に働きます。ところが、産生されたTNFalphaなどの一部が、血液脳関門(全身と脳とを隔てる膜。全身の物質の99%はこの膜を通過しないことから、脳は聖域とも呼ばれ、病気にかかりにくい機構があるといわれます)を通過してしまった場合、脳神経に影響を与え、脳症(せんもう)を来たすと考えられています(全身炎症脳症(せんもう)の方の脳脊髄液検査でTNFalphaなどが増加することが知られています。ただし髄膜炎と異なり、細胞増多はみられません)。

脳症のその他の原因として、脱水脳症, 全身炎症脳症(誤嚥性気管支肺炎/腎盂腎炎/手術後), 担癌患者さんの脳症, 薬剤性脳症(薬剤[の過量],全身麻酔後), 代謝性脳症(O2,CO2,Na,糖,ビタミンB1,アンモニア,尿毒症など), ストレス(環境変化,痛み,カテーテル,抑制,ICU入室)などが知られています。

高齢者の方での、脳症(せんもう)と脳固有の病気(脳卒中・髄膜炎・脳転移など)との比率は十分に分かっておりませんが、最近の研究では7:1ともいわれ、非常に頻度が高いことが知られるようになってきました。

脳症(せんもう)は、もともと軽い歩行障害・物忘れがある方に、全身炎症などが重なることで発症すると考えられており、逆に脳症(せんもう)がきっかけとなって、かくれ脳梗塞・アルツハイマー病・レヴィー小体型認知症などが判明することも少なくありません。

治療は、各科での原疾患の治療が重要であり、脳神経内科・精神科が協力して多職種での脳症(せんもう)のハイリスクケア(認知症サポートチーム)が行われています。
 (文責: 榊原隆次)