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東邦大学理学部
生物分子科学科
永田研究室

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研究背景

『死細胞について』

 多くの細胞は、その役割や寿命を終えると、死に至ります。その死は、遺伝子によってプログラムされており、そのプログラムが発動されると、細胞は活動を停止し、細胞自体が萎縮します。また、このとき情報源である遺伝子が断片化されます。このような細胞死を「アポトーシス」といいます。
 一方、このアポトーシス細胞を実験的にさらに放置(培養)すると、細胞が膨張し始め、最終的に細胞膜が崩壊し、細胞内容物が放出されます。このような細胞死を「ネクローシス」といいます。ネクローシスは、アポトーシスを経由しなくても外的要因(熱や化学物質など)によっても直接的に起こることもあります。

『死細胞の運命』

 私たちの体は、およそ60兆個の細胞から構成されており、そのおよそ0.5%の細胞は毎日新しい細胞に入れ替わっています。言い換えると、3000億個もの細胞が、その役割や寿命を終え、毎日死んでいることになります。しかし健康な状態では、死細胞を体の中に見いだすことは出来ません。なぜなら、生じた死細胞は、物を食べる細胞(貪食細胞)であるマクロファージや樹状細胞などによりすぐに発見され食べられていて、生体内に蓄積されないように除去されているからです。つまり、細胞がアポトーシスに陥ると、速やかに貪食細胞によって食べられるので、体に何も悪影響を及ぼすことなく除去されます。この仕組みは、何事もなかったかのように死細胞を体から掃除するので「silent clearance (cleanup)」と呼ばれます。
 ところが、この仕組みに破綻が生じると、アポトーシス細胞が掃除されずにそのまま放置されて、ネクローシスに陥ってしまいます。ネクローシス細胞から放出された細胞内容物には、強く炎症を誘導する分子群が含まれています。体内で慢性的に炎症が起こると、多くの病気の治癒を妨げたり、病気を悪化させてしまうこともあり、さらに自己免疫疾患の原因になるとも考えられています。つまり、「silent clearance (cleanup)」という仕組みは生体の恒常性の維持に欠かせない重要な自然免疫システムの一つなのです。

私たちの研究室では、体内で生じたアポトーシス細胞がどのようなメカニズムで処理されているのか?そのメカニズムが破綻したときに二次的に生じるネクローシス細胞がどのような悪影響を及ぼすのか?を調べています。また最近、この死細胞に対する応答が年を取るとどのように影響を受けるのかについても調べています。