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still life (sif): 動かない変異体ショウジョウバエ(1) 

ペリアクティブゾーンでシナプスの発生をコントロールする分子

じっとしていて動かない変異体

still life (sif)変異体ショウジョウバエの行動
still life変異体(ホモ接合体)
のハエはじっとしていてほとんど
動かない。下は上の30秒後の写真。
still lifesif)変異体は、1990年代に浜千尋先生(現:京都産業大学)の研究グループで発見されました。エサの上にじっとしていてほとんど動かないという不思議な表現型を示します。麻酔をかけないで観察すると、稀に飛ぶことがあるため、筋肉・運動系などに大きな異常はなく、動こうとする動機付け(神経系のはたらき)に異常があるのではないかと思われます。非常に強い光、非常に強いにおいなどの非常に強い感覚刺激を与えると、元気に動き出しますが、数秒後から数十秒後に痙攣を起こしてひっくり返ってしまいます。 still lifeとは英語で静物画を意味し、じっとしていて動かないことから命名しました。

sif遺伝子はRhoファミリー低分子量Gタンパク質の活性化因子をコードする

sif変異体ではあるひとつの遺伝子が壊れており、変異がホモ接合になると症状を発症します。曽根が博士論文のテーマとして、浜千尋先生の指導の下で、壊れている遺伝子(sif遺伝子)を同定して調べたところ、Rhoファミリー低分子量Gタンパク質を活性化するタンパク質をコードしていました。


低分子量Gタンパク質は細胞内シグナル伝達系の中でスイッチとしての役割を果たす分子です。Gタンパク質はGTPを結合しているときにはスイッチがONになり、他の特定のタンパク質に対してはたらきかけることで細胞の状態を変化させます。Gタンパク質がGDPを結合しているときには、スイッチがOFFになり、作用が停止します。sif遺伝子がコードするタンパク質(SIFタンパク質)は、Gタンパク質からGDPを外してGTPを結合させることによって、スイッチをONにする役割を持っています。SIFタンパク質自身もいつでもフルにはたらいているわけではなく、細胞のおかれている環境などを感知して、必要に応じてGタンパク質をONにする役割を果たしています。


Gタンパク質にはいくつかの種類がありますが、SIFが活性化するのはRhoファミリーという分類に属するRacというGタンパク質です。Racは細胞形態や細胞骨格を調節する重要な分子です。脳の神経回路(神経細胞の配線)は記憶などの機能発現に伴って絶えず変化・再編成されていきますが、新しいシナプスができたり既存のシナプスが消滅したりすることが重要な役割を果たしています。われわれのsifについての研究から、Racタンパク質およびRacを活性化するタンパク質がシナプスの形態調節を介して神経回路の機能をコントロールしていることがはじめて明らかになりました。


参考文献:
Still life, a protein in synaptic terminals of Drosophila homologous to GDP-GTP exchangers.
Masaki Sone, Mikio Hoshino, Emiko Suzuki, Shinya Kuroda, Kozo Kaibuchi, Hideki Nakagoshi, Kaoru Saigo, Yo-ichi Nabeshima, Chihiro Hama
Science, 275, 543-547 (1997).

Pubmed

ペリアクティブゾーン: シナプスの発生調節領域の発見

ペリアクティブゾーン
(上左)免疫電顕法で調べたSIFの局在。シナプスの一部の場所に
局在している。(上右、下)SIF(緑)はアクティブゾーン(赤)を
ドーナツ状に取り囲む場所(ペリアクティブゾーン)に局在している。
sif遺伝子が神経系のみで発現していたことからも、神経系に生じた異常がsif変異体の行動異常の原因であることが推測されました。神経細胞は、軸索という長い突起を持っていますが、SIFタンパク質は軸索末端のシナプスにのみ局在(存在)していました。そこで、曽根と共同研究者は、SIFおよび他のいくつかのタンパク質がシナプスのどこに局在しているのかを、電子顕微鏡(免疫電顕法)および共焦点レーザー顕微鏡を使って詳しく調べました。シナプスに活動電位が到着すると、神経伝達物質を中に含むシナプス小胞がシナプス前膜に融合して、神経伝達物質をシナプス間隙に放出します。この神経伝達物質放出は、シナプス前膜上のどこででも起きるわけではなく、アクティブゾーンと呼ばれる特定の場所で起きることが知られています。SIFはアクティブゾーンをリング状(ドーナツ状)に取り囲む場所に局在しており、この場所が、シナプスの形態調節に関与するタンパク質が集積する特殊な場所であることを発見し、「ペリアクティブゾーン」と名付けました。ペリアクティブゾーンのコンセプトは、Neuron誌のミニレビューでも取り上げられました。その後、国外の研究グループによってペリアクティブゾーンに局在するタンパク質が多数同定されるなど、ペリアクティブゾーンのシナプスの形態およびシナプス小胞の回収・リサイクルにおける重要性が明らかにされてきています。
参考文献:
Synaptic development is controlled in the periactive zones of Drosophila synapses.
Masaki Sone, Emiko Suzuki, Mikio Hoshino, Dongmei Hou, Hiroshi Kuromi, Masaki Fukata, Shinya Kuroda, Kozo Kaibuchi, Yo-ichi Nabeshima, Chihiro Hama
Development, 127, 4157-4168 (2000).

Pubmed

highwire, rpm-1, and futsch: balancing synaptic growth and stability.
Qiang Chang, Rita J. Balice-Gordon
Neuron, 26, 287–290 (2000).
Minireview

Journal link

Systematic analysis of genes required for synapse structure and function.
Derek Sieburth, Queelim Ch'ng, Michael Dybbs, Masoud Tavazoie, Scott Kennedy, Duo Wang, Denis Dupuy, Jean-François Rual, David E. Hill, Mark Vidal, Gary Ruvkun, Joshua M. Kaplan
Nature, 436, 510-517 (2005).

Pubmed

なぜ動かないのか?

それでは、sif遺伝子がはたらかなくなると、なぜハエが動かなくなるのでしょうか?現在私たちはいくつかの手段を用いて、この疑問に取り組んでいます。