生物分子科学科:インタビュー

ショウジョウバエから発見された遺伝子で、
アルツハイマー病に迫る!

研究情報

研究期間 2020年~2025年

研究種目 基盤研究(C)

研究課題/領域番号  20K06881

研究課題 神経変性疾患関連分子の細胞内局在調節機構と神経変性・脂質代謝異常

研究代表者 曽根雅紀

Introduction

曽根雅紀准教授の顔写真
社会の高齢化とともに大きな問題となっているアルツハイマー病は、発症機構や治療法が解明されていません。

生物分子科学科の曽根雅紀准教授は、ショウジョウバエを使った研究で重要な遺伝子を発見し、それを使って原因究明と治療法確立を目指しています。

遺伝子を見つけたら自由に名前を付けられるって知っていましたか?

自ら見つけた遺伝子で、独自にアルツハイマーに挑む!

——科研費を利用して行った研究について教えてください。

一言で言うと、社会の中で大きな問題となっているアルツハイマー病の発症機構と治療法の解決に取り組んでいます。

アルツハイマー病は脳の中にアミロイドベータという物質が溜まってしまって起きるという仮説が支持されていますが、薬を使ってアミロイドベータを取り除いても効果が出なかったという報告も多く、まだまだ全容解明には至っていません。
私は分子生物学者であり医学者ではありませんが、別の角度から医学に貢献する役割があると思っています。アルツハイマー病は遺伝子の異常、変異によって起きる病気ですから、医学の問題であると同時に生物学の問題でもあるからです。

私たちはショウジョウバエを使った生物学の専門家として、病気の治療に結び付くような研究をしていきたいと思っています。

——今回の研究では、新たに発見した遺伝子を研究しているそうですね。

はい。ちょっと難しい話ですが、アルツハイマー病の原因タンパク質と考えられるAPPタンパク質をはじめ、ニューロンの中にある細胞体という場所ではタンパク質が作られます。

これらは遠く離れたシナプスという場所で仕事をしますので、そこまでの輸送役が必要となるわけです。私たちが見つけたのは、ショウジョウバエの細胞内でこの役割を持つ遺伝子で、神武天皇の道案内をしたと伝えられる八咫烏(やたがらす)にちなんで、yata遺伝子と名前を付けました。

私たちが見つけた手掛かりですから、ほかで研究している人はおらず、まったく独自の研究になっています。目の前にあるyata遺伝子を操作したショウジョウバエを片っ端から調べていくことになるわけで、これは研究者としてはとても幸せなことです。

ショウジョウバエは自由自在。遺伝子の名前も自由自在!?

——ショウジョウバエという小さな生き物を使うのはなぜですか?

ショウジョウバエは遺伝子を組み換えて変化させ、どんな結果が起きるかを調べられるのです。
その結果を「表現型」と呼ぶのですが、遺伝子をどう変化させたらどういう表現型が生じるかを自由自在に調べることができます。
また、2週間ほどで代替わりしますので、何世代にもわたる掛け合わせも簡単に行えます。

スクリーニングといって、例えば10万匹のショウジョウバエにさまざまな変異を入れていきます。
例えば目がどうやって作られるかを知りたければ、10万匹の中から目がないものを探して研究に取り掛かっていくわけです。
同じような方法で、ヒトの病気の治療法開発に役立つような新しい遺伝子を見つけ出していくことができます。
ただし、あくまでショウジョウバエですから、その結果がそのままヒトに当てはまるわけではありません。

今回の研究でも、yata遺伝子の働きを少し弱めてアルツハイマー病の原因物質を運ぶ量を減らしたところ、効果を出すことができ論文にもなりましたが、ヒトを含む哺乳類にも応用できるかどうかは次の段階で研究しないと何とも言えないのです。

どうしてもそういった限界はあるのですが、それでも遺伝子の研究をする上では圧倒的なメリットがあるのでショウジョウバエを使って研究をしているということです。

——遺伝子を見つけると名前を付けることもできるのですね。

ショウジョウバエの遺伝子は約1万5000個で、現在ではすべてに名前が付けられています。
ただし、存在は知られていても誰も調べていないものは番号しか付けられていません。

yata遺伝子の場合も、われわれが役割を確認するまではCG1973と呼ばれていました。
まだ多くの遺伝子は番号が付けられているだけなので、これらを研究して役割を明らかにし、論文にすることで名前を付けられるようになるんです。

名前を付けられるのは楽しいですよ。
名付け方は自由で、神様の名前や、神話に由来するものも多くあります。
 私は大学院生時代にもう一つ名付けたことがあって、それはじっとして動かないショウジョウバエ変異体だったので「静物画」という意味の「still life(スティルライフ)」としました。

そのときにもう一つ動かない変異体があって、私の先輩が研究していました。
それは普段はじっとしているんですが、強い光を当てると動き出すというものでした。光で元気になるということで、先輩は「hikaru genki(ヒカルゲンキ)」という名前を付けて、もちろん今でもその名前が使われています。

そんな遊び心のある名前もあったりするんです。

病気を治したければ、まずは細胞から!

——アルツハイマー病の治療ができるようになるかもしれないというのはワクワクしますね。

確かにアルツハイマー病の発症機構や治療法を解明することは大きな目標ですし、分かりやすいモチベーションにもなります。

ただ、科学者としては病気を治したいというよりも、脳の謎を明らかにしたいという方が大事です。病気の薬を作る研究だからほかのものより大事という考え方はあまり好きではありません。
当学科を受験する学生も病気に興味があるとか、iPS細胞や再生医療に興味があるという人が多くいます。もちろんそれは悪いことではありませんが、まずは基礎科学を大切にしてほしいと思います。

病気のことを研究したければ、生き物のベースである細胞のことからきちんと勉強してほしいのです。病気というのは細胞の仕組みがおかしくなることで起きるわけですから、細胞のことをしっかり勉強することが、将来的に病気のことを理解する上でも役に立つはずです。

——ほかにも高校生に伝えたいメッセージはありますか?

私が大学院生として研究を始めた30年前、脳は完全にブラックボックスでした。
現在では少しずつ分かることも増えてきましたが、まだ謎は多く残されています。つまり、これからこの分野に入ってくる人にはチャンスがたくさん残されているということにもなります。

サイエンスとは新しいクエスチョンを見つけて、その答えを探すための方法論です。
それは必ずしも研究者になる人だけに必要な考え方ではなく、どんな仕事であれ世の中に出たときに役に立つ重要なスキルになると思います。

大量の情報があふれる現代にあって、自分なりに問題を見つけて、情報を集め、それが本当かウソかを見抜いて、自分の頭でロジックを考えてソリューションを導き出す。それは研究の方法論と同じなんです。

うちの学科、あるいは理学部に来る高校生にはそういったサイエンスの方法論を学んでほしいですし、そういう志を持って進学を考えてもらえるとうれしいと思っています。

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