研究代表者インタビュー

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除草剤の効かない植物がこっそり日本へ。
現地調査の醍醐味と苦労

研究情報

研究期間 2015年~2018年

研究種目 基盤研究(C)

研究課題/領域番号 15K07322

研究課題 ヒユ属の種間交雑を介したグリホサート抵抗性形質の拡散リスク評価

研究代表者 下野綾子

Introduction

国際貿易は外来種の主要な侵入ルートであることが知られています。

近年、ヒアリが日本の港湾で見つかって話題になっていますが、植物でも問題になる可能性のある外来種が、輸入穀物に混入して日本に入ってきています。

生物学科の下野綾子准教授はそんな植物を発見し、研究を行いました。調査の面白さや苦労と合わせて、植物生態学の醍醐味を聞きました。

輸入穀物にこっそり種子が!除草剤も効かない植物

——科研費を利用して行った研究について教えてください。

日本は多くの穀物を外国から輸入しています。輸入穀物には、その国の畑雑草の種子が混入しており、その中には、除草剤に対する抵抗性を持っている個体が含まれていることがあります。

除草剤には多くの種類がありますが、過去20年間、世界で最も使われた除草剤がグリホサート剤です。

日本の主な穀物輸入相手国では、2005年ごろからグリホサート剤に抵抗性を持ったオオホナガアオゲイトウというヒユ科ヒユ属の植物が大きな問題となっていました。日本は食料自給率が低く、穀物輸入大国ですから、海外の問題雑草が移入してくる可能性を考え、日本の穀物輸入港で調査を開始しました。

そうしたところ、案の定、グリホサート抵抗性のオオホナガアオゲイトウが日本の港湾で生育していることを発見したのです。

——つまり、グリホサート剤では枯らすことができないのですか?

はい。グリホサート剤は特定のタンパク質を阻害して植物を枯らすのですが、抵抗性のオオホナガアオゲイトウでは、そのタンパク質を作る遺伝子が数十倍、ときには百倍以上に増加する遺伝子増幅が起きています。そのため、グリホサート剤によって阻害される以上のタンパク質が生産されているのです。

また、その増幅領域は核内ではなく、核外に環状DNAとして存在しており、その数は細胞によって異なるとされています。さらに、増幅しているのは、上述したタンパク質を作る遺伝子だけではないことも報告されており、なぜこのような抵抗性が進化したのか、そのメカニズムは謎に包まれています。

もともとグリホサート剤が多く使われるようになったのは、遺伝子組み換え技術で人為的にグリホサート剤に強い作物を作れるようになったからです。つまり、抵抗性が導入された遺伝子組換え作物が栽培されている畑で、グリホサート剤を使えば、雑草だけを枯らすことができるのです。

生物の面白いところでもあるのですが、何かを抑えようとすると多くの場合、抵抗性が進化します。薬の効きにくい新型インフルエンザが出現するのと同じようなことです。

従って、グリホサート剤を多用したことで、オオホナガアオゲイトウも薬の効きにくい個体が進化したのです。

——防除しにくいと、外来種が定着することにつながってしまいますね。

とは言え、今回は港周辺にだけ見られる早い段階で発見できたので、それは意味のあることだと思います。いったん外来種が拡散してしまうと、その対策はコストも時間もかかります。

輸入穀物を介した外来雑草の移入自体を規制することが難しい現状では、侵入初期での発見が不可欠だと考えています。
鹿島港にて オオホナガアオゲイトウ

現地調査は大変! だけど楽しい! 生態学の醍醐味と苦労

——植物生態学の研究で最も魅力的なことは何ですか?

自然のフィールドに出ることは暑かったり寒かったり、雨風に耐えたりと身体的にはつらいことも多く、エアコンが効いた研究室で作業している方がよっぽど楽ではあります。

でも、現地調査は自分に手足がある理由を感じられるというか、自分の体を使っている感覚があって、心地よい疲れや充実感が得られます。

さらに、自然界では人間の想像に及ばない不思議で面白い現象がありますし、精巧で美しい野生生物を見ているだけでも心が躍ります。

私は山岳域でも調査を行っているのですが、高山植物や山岳景観には、言葉に出来ないほどの魅力を感じています。

また同じ場所でも季節や年で起こることは変わるので、そうしたダイナミックな変化を感じるのはとても楽しいですね。

——体力面以外でも大変なことはありますか?

例えば、ある花について調べたいとなると、その花が咲いている年に1度の限られた期間に現地に行かないといけません。その時期を逃してしまうと、1年待たないとなりません。

あと何回調査できるかな、と考えてみると、単純に自分が生きている残りの年数分しかできないので、実験室で季節を問わず何回でも出来る研究に比べると不利な部分もあります。

ただ、逆に限られたチャンスを生かすというのが生態学の醍醐味だとも感じています。 

知る喜びは制約なし。知的好奇心を忘れずに!

——自然を愛する先生から、高校生たちに伝えたいことはあります?

私はよく「自然界はゲームより奇なり」と言っているのですが、上述したように、人間が考えるよりもよっぽど不思議で面白い現象が自然界では起きています。

みなさんには、まずは身近な自然に目を向けてほしいです。例えば紅葉した葉っぱを見てなぜ赤くなったり黄色くなったりするのだろうと不思議に思いませんか?

人間は不思議なことを知りたいと感じる知的欲求を持っています。何かを考え、知識を得ることには何の制約もありません。だから、ぜひその自由を謳歌していろいろなことに興味を持って、知的好奇心を満たしてもらいたいと思っています。

小さいころから昆虫や鳥などを好きな人は少なくありませんが、植物好きな少年少女はあまりいないように思います。どうしても子どもは動くものの方が好きですから。

でも、植物は動かないですが、その代わりに動物にはないメカニズムを持っています。ほかの動物とも関わり合って生きていますから、セットで好きになってくれたらうれしいです。

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