研究代表者インタビュー

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森林火災で地球温暖化が加速!?
人間の管理による自然保全へ向けた研究

研究情報

研究期間 2016年度~2020年度

研究種目 基盤研究(B)

研究課題/領域番号 16H05787

研究課題 熱帯季節林の水分ストレスと火災が炭素循環に与える影響評価・森林再生への対策

研究代表者 安立美奈子

Introduction

大気や水、陸上、海洋、生物の間で、植物や動物、微生物などの活動よって循環する炭素の研究を行っている生命圏環境科学科の安立美奈子准教授。

 森林火災が頻発するタイの熱帯季節林で炭素の放出・吸収量を調査しました。

地球温暖化や環境破壊によって生態系の炭素循環の均衡が崩れてきている中、私たちにできることとは?

熱帯季節林の森林火災によって何が起きている?

——科研費を利用して行った研究について教えてください。

火災実験の様子
 森林では樹木などの植物が光合成によって二酸化炭素を大気から吸収します。また、同時に植物は呼吸として二酸化炭素を放出するのですが、土では枯れた植物を分解する微生物が生息していて、土からはこれらの呼吸として二酸化炭素が出ています。私は、森林の二酸化炭素の収支がどうなっているのか、どういう森林管理が必要なのかなど、地球温暖化と絡めて研究しています。

 東南アジアのタイには、雨期と乾期がはっきり分かれる熱帯季節林が多くあり、乾期には森林火災が頻発しています。

 森林火災が起きると枯死する樹木が増えるだけでなく、土壌表面にある枯れ葉などが燃えてしまうため、貧栄養な土壌となり樹木が生長しない森が形成されるのではないかと考えました。

 今回の研究では、毎年森林火災が起きているタイの熱帯季節林で火災実験を行い、火災が起きた区域と、そうではない区域の樹木の枯死率や、土壌からの炭素の放出量の違いなどを調査しました。

——地球温暖化によって、さらに乾燥が進み火災が増えるということですか?

 そうですね。将来、熱帯地域は乾燥化すると言われています。火災が増えることで、小さい木が育ちにくく、また土の栄養が少なくなることで、さらに森林が疎林になるのでは考えています。

 大気中の二酸化炭素を減らす役割のある植物がいなくなると、ますます地球温暖化は加速するといわれているので、森林火災は地球温暖化にとっては悪循環に繋がるということです。 

 熱帯季節林の森林火災は自然発生してしまうため、どうしようもない部分がありますが、人間による管理や気をつけること、例えば新たに植林するなど方法があるのではないかと思います。

 樹木を切らず森を育てることが地球にとっても生物にとっても易しいことだと、もっと知ってもらいたいです。

——研究期間がコロナ禍と重なっていますがどうされたのでしょう?

予想外の森林火災で調査地が全焼した様子(左)と約3年後の姿(右)
 5年の研究期間のうち最初の1年は準備期間で、2年ほどタイでの現地調査ができましたが、残りの2年は渡航できず最終的な結果を見られませんでした。今は、2年分のデータを取りまとめて論文にしているところです。 

 野外での調査は気候や条件が異なるため、同じ時期に同じ実験をしても、その年によって結果が変わります。3年、5年と何度も繰り返して、数値のふり幅をふまえて結論づけたかったので悔しいですね。
 
 先日、約3年ぶりにタイへ行き、調査器具などの片づけをしてきました。コロナ禍の間の森の様子を現地の人に伺ったところ、一度も森林火災は起きていないということで驚きました。調査地には3年間の間に成長したと思われる高さの小さな木もたくさんあって、火災がなくなると森林は復活していくのだと感じました。タイでも森林の炭素吸収量の評価をするそうで、科研費での活動は終わってしまいましたが、引き続きカセサート大学との共同研究を続けていけそうです。

——2年分のデータからどんなことがわかりましたか?

 土から放出される二酸化炭素は、微生物の呼吸によって土の中の栄養が分解されることで作られています。そのため、一般的には土の温度が高いほど微生物の活動が活発になり、二酸化炭素の放出量も増えるとされていました。

 調査では、自動計測できる機器で土から出る二酸化炭素を観測したのですが、乾期の熱帯季節林の土は極度に乾燥しているため、土壌呼吸速度は地温よも土壌水分量の変化によって影響を受けることが分かりました。

 そして火災後、直射日光が当たるようになって温度が上昇しても、土から二酸化炭素の放出量は増えなかったのです。「温度が上がれば二酸化炭素放出量も増える」ということではありませんでした。熱帯乾燥林の土壌炭素放出量は地温だけでは推定できないことが明らかとなり、これは面白いデータだと思います。

自然や森林を守るため科学的な根拠を立証していきたい

——今回の研究から現在につながっていることはありますか?

 火災実験ではありませんが、千葉県で「人の管理と植物の炭素固定量」というテーマで研究をはじめました。人が管理することで植物や森林がどう育つか、また、それによって二酸化炭素をどれくらい固定できるかを身近な生態系で示していきたいと思っています。

 千葉県でも森林が減ったり、荒れた竹林が拡大している現状があります。地下茎で伸びる竹林は花が咲かず、実もつかないため生物多様性があまり見られません。竹林ばかり増えていけば生物多様性が劣化しますし、荒れているからと安易に切られてしまいます。

 人の手を加えて、自然に生えてくるほかの植物の生長を促すことで、炭素循環にも生物多様性にもいい影響を与えられると考えています。自然がもつ価値について、学生たちと科学的に証明していくことで、地域の方たちにも周知しながら千葉の森林や自然を守る活動をしていきたいです。

 タイの研究も根底は同じで、「地元の方たちと一緒に森林や自然を守りたい」という思いがありました。

自然界はわからないことだらけ。豊かな想像力が大事!

——今後を担う高校生へのメッセージをお願いします。

 かわいい生き物が好きな人は多いと思います。その生き物を飼ってみたいと思うのもいいですが、自然に暮らせる環境を守ることも考えてみてほしいです。

 森林を保全することで生物多様性が守られるだけでなく、二酸化炭素が固定されて地球を守ることにもつながります。森林には炭素循環や二酸化炭素の固定など、目に見えないことがたくさんあります。

 科学が進歩しているとはいえ、生態系や植物の生長についても、まだまだわからないことだらけです。人間がよかれと思って作った生態系が、保全したい生き物たちにとっては大きなお世話なこともあります。

 自然を大事にするという気持ちが、将来の地球を守っていくことにつながります。同じ気持ちを持つ人を一人でも増やしていきたいですし、一緒に研究してくれる仲間も募集中です。

 生き物、自然、地球について、想像力を巡らせながら、知的好奇心を育てていってほしいなと思います。

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