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【実習1】 動物組織のプランクトン検査体験

緒言と目的

研究室にて
研究室にて
法医学で、水中死体の死因が溺死であるか否かの診断を行うことは、大変重要です。 釣りをしていて水中に転落し、低体温になり水中で凍死した場合や、船舶火災で、一酸化炭素中毒死してから船が沈没した場合など、水中死体の死因は、常に溺死であるとは限りません。(その逆に、水中以外で溺死することもあります。)肺などの主要器官に含まれるプランクトンの検査を行い、陽性であれば、溺死診断のひとつの根拠としています。また、溺死である場合、死者体内の溺水と現場水のプランクトン構成に矛盾がないかについても、検討を行います。例えば、自宅で水道水を沸かしたお風呂に入浴中、溺死したが、肺から日本海に多くみられる種類のプランクトンが多数検出されれば、日本海で亡くなった後、お風呂に移動された可能性を疑います。
液体を気道内に吸引して、肺の気管支末端や肺胞腔が閉塞されることを溺水といい、それによって死亡することを、溺死といいます。そのため、溺死診断のプランクトン検査では、溺死現場水や肺組織中のプランクトンの有無・種類・量について、また、溺水時に血液循環があれば、血液・肝臓・腎臓などにもプランクトンが運ばれるので、それら組織中のプランクトンについても同様に検査します。
なお、胃腸にも溺水が入ることがありますが、食物等胃腸内容物に含まれるプランクトン との鑑別も難しく、胃腸内容物よりも、肺や肝臓・腎臓などのプランクトン検査のほうが 重視され、胃腸内容物のプランクトン検査は行わないことも多いです。
従来のプランクトン検査法は、強酸を炊く「壊機法」が主流であり、「酵素法」などの方法もありますが、どれも一長一短だといわれています。「壊機法」では、強酸に耐えるプランクトン(おもに強靭な殻をもつ珪藻類)しか残らないことと、安全管理が問題であり、「酵素法」は時間がかかりすぎることが、実務での短所です。新潟大学は、県内唯一の司法解剖機関であり、年間解剖体数は多い年で130体程度、多い日には一日に数体の解剖があり、警察が行列を作っていることもあります。夏と冬には、自殺や海中転落、船舶事故関連などの水死体の解剖が多く、県外者も見受けられ、身元を調べるのに時間がかかることもあります。このような、解剖件数の多さと、強酸または酵素で溶けてしまう、甲殻類や藻類の好漁場である日本海から、脆弱な珪藻もいる清流までの、多様な水域を持つ新潟県では、「壊機法」や「酵素法」は、プランクトンのスクリーニング検査法として不向きです。
江東区内にて
江東区内にて
そこで、筆者は、家庭用パイプ洗剤と家庭用品(100円均一商品など)を用いた、安全・迅速・経済的、かつ、手技の習得が容易であり、甲殻類や藻類、脆弱な珪藻類までも検出できる、プランクトンのスクリーニング検査法の開発に取り組んでいます。日本海のプランクトンの基礎データは不足しており、コントロールとなる現場水のデータを得るため、実際に船を操縦しての野外調査から研究を行っています。
佐渡海峡にて
佐渡海峡にて
採水を終え、羽茂港に帰るところです。
隣で写真を撮ってくれたのは、
海技教員の鬼教員。
今回は笑顔でした。
本実習では、佐渡産のカキの組織からプランクトン検査の体験を行います。カキは溺死したのではなく、また、限られた実習時間の中で、カキの外呼吸器官のみを摘出することは難しいので、ヒト溺死体の場合のように、呼吸器官からプランクトンを検出し、実習材料のカキの溺死を証明することはできません。しかし、カキの1個体からプランクトンを検出する手法は、ヒトの主要器官ひとつからプランクトンを検出する方法に近く、本実習では、カキの1個体をヒトの主要器官ひとつに見立て、プランクトンの検出を試みます。ここで検出するプランクトンは、おもに、カキの消化管内容物に含まれていたものです。水産生物の消化管内容物のプランクトンを分析することは、悪天候による時化などで溺死現場に近づくことが難しく、現場水を採水できないときに現場水のプランクトン構成を推測するひとつの手段になります。
佐渡の複数地点の現場水と、2種類のカキのそれぞれについて、家庭用パイプ洗剤と100円均一グッズを用いて、安全・迅速・経済的、かつ、手技の容易なプランクトン検査を行い、カキが育った水域の現場水はどれか、鑑定をします。
結果、考察が記入できる資料はこちら

動物組織のプランクトン検査体験資料(47KB) pdf

材料

カキ2種類 (カキA・B、下のどちらか)

  • 佐渡島 旧・両津地区 加茂湖(汽水湖)産 カキ
    〔加茂湖周辺には家屋等が建ち並び、生活排水が加茂湖に流入する。〕
    臭みがなくさっぱりした味。生産量が多い。
  • 佐渡島 旧・佐和田町 沢根(日本海)産 カキ
    〔沢根の海岸は日本海(外海)に向いている。〕
    臭みがなく濃厚な味。生産量は少ない。

現場水5種類 (現場水C~G、下のどれか)

  • 佐渡島 旧・両津地区 加茂湖の湖水
  •  
  • 佐渡島 旧・佐和田町 沢根沖の海水
  • 佐渡島 旧・小木町産 ながも(アカモク)の洗い水
  • 佐渡市の水道水
  • チョークの粉末が入った佐渡市の水道水
    (細粒物とプランクトンの破片の見分けは難しい。)

器具など

100円均一グッズ

  • 家庭用パイプ洗剤
  • プラスチックピッチャー(机上廃液用)
  • ミニカップ(スポイト洗浄水用)
  • ドレッシング容器(洗ビン代わり)
  • バット(白いトレー)
  • キッチンバサミ
  • ピンセット(直・曲・切手用)数本
  • スポイト数本
  • つまようじ
  • アルミカップ(中)
  • アルミカップ(大)
  • 排水溝ゴミ取り袋
  • コーヒードリッパー
  • コーヒーフィルター
  • 大カップ(300ml以上、ろ液受け)
  • 黒鉛筆(顕微鏡スケッチ用)
  • 色鉛筆(顕微鏡スケッチ用)
  • 消しゴム(顕微鏡スケッチ用)

便利な理化学用品

  • マウントメディア®(封入剤)
  • 船形バランスディッシュ
  • 色フロストのスライドグラス
  • 幅広タイプのカバーグラス
  • 50ml ファルコンチューブ
  • 1ml エッペンドルフチューブ
  • 使い捨てワイパー(紙タオル)類

電気器具など

  • 顕微鏡観察用具一式
  • 電気保温プレート

方法

カキの内臓を家庭用パイプ洗剤で溶かし、プランクトンの有無や、種類・量などを検査する。
  1. 状態の良いカキ1個体を選ぶ。
    ・全体に弾力があり、体のまわりの「ひだ」が黒くて毛状の構造がしっかりしているもの。
  2. カキの内臓部分(濃色)のみを、ハサミで切り出す。
  3. 船型バランスディッシュの上に切り出した内臓を、ハサミを使って細切する。
  4. 細切した内臓を、つまようじの頭に少量つけて、スライドグラスになすりつけ、カバーグラスと水で一時プレパラートを作成し、顕微鏡で観察する。顕微鏡にしぼりがついていれば、しぼり気味にすると良い。

  5. 50mlチューブに、細切したカキ内臓・水30ml・パイプ洗剤5~10mlを、静かに入れる。
  6. 50mlチューブのキャップを確実に閉め、ゆっくりとやさしく、2~3回ほど転倒混和する。
  7. 50mlチューブを、5~10分ほど、静置する。静置中に、ろ過の準備をしておく。(コーヒードリッパーにコーヒーフィルターをはめこみ、コーヒードリッパーを大カップにのせる。)
  8. 50mlチューブのキャップをひねり、開いた感覚がしたら、ゆっくりとゆるめながら、キャップをとる。
  9. 50mlチューブの口に、ストッキングタイプの排水溝ゴミ取り袋をかぶせ、チューブ内の液体を、コーヒーフィルターの上に注ぐ。
  10. 液が落ちにくくなったら、ろ紙が破れないように注意してスポイトを使い、コーヒーフィルターの水を、吸ったり出したりする。
  11. さらに、水を300ml程度、コーヒーフィルターの上から流し込み、パイプ洗剤を洗い流す。
  12. コーヒーフィルターの底部の残量がわずかになったら、最底部1ml程度をスポイトで吸い、エッペンドルフチューブに移す。
  13. エッペンドルフチューブを立て、数分間静置し、底のほうから数滴分をスポイトで吸い、カバーグラスと水で一時プレパラートを作成し、顕微鏡で観察する。顕微鏡にしぼりがついていれば、しぼり気味にすると良い。

  14. 永久プレパラートを作るには、カバーグラスまたはスライドグラスに落とした試料液を、電気保温器で乾燥させ、マウントメディア®で封じるとよい。珪藻とガラスの屈折率の関係で、病理組織検査用の封入剤は不適である。
  15. 現場水5種類のそれぞれについて、カバーグラスと水で一時プレパラートを作成し、顕微鏡で観察する。顕微鏡にしぼりがついていれば、しぼり気味にすると良い。

連絡先

体験を希望される方は、お気軽に、ご連絡をお願い致します。
クラス人数分の材料や器具の無料貸出等のご相談も受け賜ります。
【連絡先:025-227-0426 新潟大・医・法医 手塚】