2010年度

「ブレーン理論を用いた重力の大きさの考察」

自然界における大きな問題の一つに、重力が他の基本的な力に比べて極端に弱いことがあげられる。この問題の有効な解決手段の一つが、ブレーン理論である。この理論では、我々の4次元宇宙は5次元時空に埋め込まれたブレーン(膜)であり、重力だけは5次元空間を伝わることができるため、我々の宇宙では重力が弱く見えていることが導かれる。本論文ではこの理論を用いて重力の大きさを考察した。その結果、5次元空間の歪みによりブレーン上での実効質量が小さくなり、これが重力の弱さの原因であると考えられることがわかった。

「素粒子物理学における階層性問題」

1999年に提唱されたRS(Randall-Sundrum)モデルは素粒子物理学における階層性問題、言いかえると素粒子間においてなぜ重力が他の基本的な力と比べて非常に弱いことについてのメカニズムを説明するものである。我々の住む4次元空間(ブレーン)は負の曲率を持つ5次元時空にあると考える。5次元時空の持つ真空エネルギーにより時空全体が歪むことにより重力の弱さの説明がつく。本論文ではRSモデルの安定性を考察し、ブレーン間の距離が時間変化する場合このモデルは不安定になるが、高次元粒子が存在するならばモデルの安定性に影響を及ぼす可能性がある。

「5次元世界における重力波の伝播」

我々は5次元世界の4次元時空内に住んでいるという宇宙モデルにおいて、5次元での重力波をアインシュタイン方程式の弱場近似によって求めた。その結果重力を伝えるとされる重力子は、5次元目方向への伝わり方が違うことが分かり質量mがm=0の4次元世界に束縛されている重力子と、5次元のm>0の散乱状態があることが分かった。また5次元目の時空の大きさを有限にとって周期的境界条件を導入する宇宙モデルに適応することにより、m?0の重力子の質量は連続な状態から離散的な状態に制限されることが分かった。

「セファイド型変光星及びIa型超新星を用いたハッブル定数の測定」

我々の宇宙は永遠不変ではなく、時間とともに膨張し続けている。その膨張率を決めるのがハッブル定数であり、宇宙の進化を解明する上で最も重要なパラメータの一つである。本論文では現在のハッブル定数を測定するため、ハッブル宇宙望遠鏡にセファイド型変光星とIa型超新星の最新の観測データを用いた。それらの等級値のデータに様々な補正を加え、精度の高い距離データの算出を行った。これと赤方偏移のデータを組み合わせることで、ハッブル定数 [km/s/Mpc]を得た。

「膨張宇宙における非線形密度ゆらぎ成長の流体シミュレーション」

現在の宇宙には自己重力により集積してできた、非一様な階層構造が存在している。本論文ではその形成過程を調べるために、ガスとダークマターの密度ゆらぎがどのように成長するのかを、球対称な領域に対する数値計算を用いて調べた。まず簡単な自由収縮の場合から始め、圧力や宇宙膨張の効果などを順に付加しながら、どのように形成過程が変化していくのか比較した。その結果、ガスは宇宙膨張の効果により初期には膨張するが、ダークマターを含めた重力により、初期ゆらぎの大きな部分から順に収縮に転じる事が分かった。また、収縮によってガスが加熱されて生まれる圧力勾配が、重力に対して斥力となりガスの収縮を妨げる事が分かった。

「パイオニア・アノマリーの原因」

太陽系内を飛行していた宇宙船パイオニア号の観測データが予測値と一致しなかった。これをパイオニア・アノマリーという。この要因は複数考えられ、本論文では主に2点からアプローチした。宇宙に広く存在しているダークマターであるとした場合には、天王星の軌道内に太陽質量の1/10000程度存在すると見積もられた。さらに万有引力の法則の逆2乗則のべきがずれるとした場合、パイオニア・アノマリーを説明するにはどの程度ずれが生じるか調べた。

「回転するブラックホールによる光子の軌跡湾曲の解析」

本研究では、回転するブラックホールの周囲で、光がどのように進むのかについて調べた。アインシュタイン方程式の軸対称定常解から導かれる光子の軌跡についての方程式をもとに、様々な初期位置・初期運動量の光子がたどる軌跡を数値的に求めた。また、観測者がブラックホールの背後からの光を見たとき、ブラックホール近傍で、重力場がどのように観測に影響するのかを調べた。その結果、ブラックホールは背後からの光を遮る影をつくり、その影は回転効果によって歪むことが解った。

「チャンドラセカール質量について」

チャンドラセカール質量とは、白色矮星のようなフェルミ粒子の縮退圧で支えられている星の限界質量のことである。それを導出するために、まず縮退しているフェルミ気体に対する圧力・エネルギー密度・粒子数を算出した。この結果をポリトロープ球を仮定し得た状態方程式と合わせたことにより、太陽質量程度の値が得られた。さらに粒子が電子ではなく中性子の場合、元素の種類や状態方程式を変更した場合などについて考察を行った。

「レーザー干渉計による重力波検出」

一般相対性理論から予言される時空のさざ波である、重力波について学んだ。重力波は、物体が加速度運動すると発生する。本論では、重力波源として中性子星やブラックホールに着目する。重力波は透過性に優れ、光速度で伝搬する。HulseとTaylorによって間接的に重力波の存在は証明されたものの、現在まで直接観測されていない。私は、重力波を直接観測するために、レーザー干渉計を用いる場合を考えた。重力波を理解するために、アインシュタイン方程式から平面波解を導出し、レーザー干渉計に入射した重力波による位相変化を計算した。また、その位相変化量が非常に小さいことがわかった。