2013年度

「ダークマターの速度分布の時間発展」

現在みられるような宇宙の大規模構造等の形成には、ダークマターが重要な役割を果たしていると考えられている。本研究では、銀河団程度の大きさの天体中でのダークマターの速度分布の時間発展を、重力多体シミュレーションを用いて数値的に計算した。それにより、銀河団に付随するダークマターの速度分布は時間と共にマクスウェル分布に近づきはするが、現在の宇宙年齢に達してもずれることが分かった。さらに、銀河団の内縁・外縁部で分けて計算した結果、ずれの原因は外縁部における物質の降着によるものであることが分かった。

「銀河団密度分布の時間発展」

ダークマターが支配的な宇宙では、銀河団は普遍的な密度分布をとることが大規模数値計算により示唆されている。しかし、その物理的根拠については十分に明らかになってない。そこで本研究では、数値計算を用いて銀河団の密度分布の時間発展を調べた。その結果、銀河団内縁部は早い段階で一定の密度分布に落ち着くが、外縁部ではその後も降着が続き密度分布が変化することがわかった。現時点では銀河団内縁部のデータ量が少なく誤差が大きいので、数値計算の粒子数を増やすことで銀河団のより内側の領域を確認できるようにしていく。

「重力レンズ効果を用いた質量測定の密度分布依存性」

重力レンズ効果は、天体の質量を測定する上で有用な手段であるが、天体の密度分布により得られる質量に違いが生じる。本研究では銀河団を対象とし、密度分布が質量測定に与える影響について調べた。密度分布は特異等温球と、大規模数値計算から示唆される密度分布の2つを用いた。その結果、同一のアインシュタイン半径内における質量を比較すると、約15%の違いが生じることがわかった。また、天球面上に射影された質量と、球対称を仮定した質量を比較すると、約60%の違いが生じることがわかった。

「強い重力レンズ効果を用いたハッブル定数の推定」

一般相対論から導かれる重力レンズ効果によって、遠方の天体が複数の像を形成する場合、形成されたそれぞれの像からの光が観測者に到達する時間は異なる。その時間差は、観測者、レンズ天体、光源天体の間の宇宙論的距離とレンズ天体の密度分布に依存する。本研究では、2つの像が現れている系について、質点、特異等温球、大規模数値シミュレーションによって導かれた密度分布の3つのモデルを仮定してハッブル定数を推定した。そして、それらの結果を、セファイド変光星の距離測定結果から導かれたハッブル定数の値と比較することで、レンズ天体の密度分布にはどのモデルが適するのかを考察する。

「相対論的効果による補正の有無によるGPSの測定位置の違い」

GPSは米国が軍事用に開発した位置測定システムで、現在では一般向けとして、カーナビ等のナビゲーションシステムや、携帯電話等で位置を知るために使われている。GPSで知る事が出来る位置情報は数mから数十mの精度で知る事が出来る。しかし相対論的効果を考慮せずにGPSを運用した場合は正確な位置情報が得られないといわれていて、そのずれは一日当たり約12kmになる。この論文ではこの相対論的効果によるずれの大きさを計算より求め、一日当たり約12kmになることを確認し、GPSの運用には、相対論的効果の補正が不可欠であることをみる。

「GPSの相対論的補正」

GPSは人工衛星から発信された電波を地球上で受信し自分の位置を正確に割り出すシステムで、カーナビや携帯電話などに使用され、現代社会において必要不可欠なものである。GPSは時間補正をしなければ1日に約12km測定位置がずれることが知られおり、正確な位置を割り出すことができない。本論ではニュートン力学のケプラー問題を相対性理論に拡張し、摂動を用いて計算する。その結果、特殊相対性理論の効果は人工衛星の時間を地球上の時計と比べ遅らせ、重力の影響は衛星の時計を早める効果があることが確認できた。