2016年度

「重力レンズ効果による超新星の多重像の発生」

銀河団MACSJ1149.6+2223 において重力レンズ効果による超新星Refsdal の多重像が初めて 観測された。重力レンズ効果によるそれぞれの像の出現には時間差が存在する。その時間差に より未来に現れる像の出現位置を予想して観測することは、超新星爆発の理解に役立つ可能 性がある。そこで本研究では同銀河団をレンズ天体とし、超新星と見立てた点光源を赤方偏移 を固定した上でランダムに配置し、現れる多重像の位置や時間遅延等の性質について調べた。 多重像は配置した質量モデルの近傍の臨界曲線に沿った領域にのみ確認された。

「重力レンズ効果を受けた超新星爆発 を用いたハッブル定数の推定」

一般相対論で説明される重力レンズ効果により複数の像が観測された場合、それぞれ の像からの光が我々に到達するまでの時間は異なり、これを時間遅延という。本研究では、 銀河団MACS J1149.6+2223 内の銀河による強い重力レンズ効果を受けてその像が複数に 分離された超新星「Refsdal」に着目した。時間遅延はハッブル定数およびレンズ天体の質 量分布に依存するため、この系について観測されている時間遅延や像の情報を用いて質量 分布を決定し、ハッブル定数の推定を行った。

「移流方程式の数値計算法」

宇宙の天体現象は流体力学で記述できる。流体方程式は非線形な偏微分方程 式であり、解析解を得ることは一般に困難であるため、数値解析が必要であ る。代表的な有限差分法は、テイラー展開に基づくため、不連続な衝撃波が 発生する場合に適用できるか非自明である。本研究ではまず、1 次元移流方 程式を数値的に解き、差分スキームへの依存性をみた。さらにGodunov の定 理を満足するようにMUSCL法で高次精度化を行った。次に非線形の移流方 程式である、バーガース方程式に対して、保存形式といくつかの差分スキー ムの精度比較を行った。

「衝撃波管問題に対する数値解析」

超新星爆発における衝撃波や、銀河風などの高速の流れに起因する膨張波などの天体現象は、流体方程式で記述できる。しかし、流体方程式は連立非線形偏微分方程式であるため、多くの場合解析的に解くことは難しい。そこで、数値解析が必要となる。本論文では、衝撃波管問題に対して、Roe 法をMUSCL法を用いて高次精度化したコードを開発し数値解析を行った。この問題は解析解が存在するため、開発したコードのチェックを行える点で重要である。得られた結果を比較し、誤差を評価したた。

「移流方程式の数値解法:物理および数値的考察」

本研究では流体方程式の数値解について物理的・数値的解析を行い、その振る舞いを調べるところを目的とする。時間前進差分、空間中心差分を用いたスキームでは数値不安定により解を正しく得ることが出来なかった。物理的考察の結果これは差分方程式に負の拡散項と分散項が含まれる為であることが分かった。数値解析的にもvon Neumannによる安定性解析で不安定になることが確かめられた。同様の解析をLaxスキームおよび風上スキームの場合についても行い数値解の振る舞いを調べた結果、風上スキームが最も性能のよい数値解法であることが分かった。

「Hawking radiation」

場の量子論に基づいてHawking 輻射を調べた。Hawking 輻射を調べる上で、同じ概念 から導かれるUnruh 効果も調べた。Hawking 輻射とは、ブラックホールの事象の地平線 付近での粒子生成により、ブラックホールから熱的放射を観測する現象である。Hawking 輻射における粒子生成は、事象の地平線付近の過去における基底での真空と観測者がいる 未来における基底での真空が異なることにより起こる。ここで、2つの基底はBogliubov 変換で結びつけられる。粒子のエネルギースペクトルを計算するとプランク分布になるこ とが分かった。このように熱的放射になる理由も考察した。

「光子計数型THz 干渉計の 開発に向けた0.8K 冷凍器の評価」

天体観測において光子計数型THz 干渉計のSIS 検出器を運用するためには、0.8[K] 以下 の極低温を維持しなくてはならない。本実験では超小型の0.8K 冷凍器の開発を目的として 2 つの吸着冷凍器の評価を行った。1 つ目は2015 年に試作した冷凍器であり、小型で交互 運用できるものであるかを調べた。2 つ目は2016 年に試作した冷凍器であり、1 つ目の冷 凍器では変えられなかったパラメータを変えて評価することができる。この冷凍器ではある パラメータで実験を行い、保持時間と到達温度が再現したことにより性能を評価した。