2017年度

「流体力学に適用する偏微分方程式の数値解放の有用性の検証」

 宇宙で起こる現象の解明には圧縮性ガスの運動のシミュレーションが有用である。ガスの振る舞いはオイラー方程式によって記述されるが、厳密解をよく再現する数値解法の構成は単純ではない。本研究では一次元線形スカラー方程式の解法を、非線形方程式が解けるように改良し、また高次精度に拡張することで、一次元オイラー方程式の数値解を高い精度で算出できる数値コードを開発した。また、そのコードを衝撃波管モデルに適用し、厳密解との誤差を調べ、オイラー方程式の数値解法の有用性を検証した。

「特殊相対論的流体における数値計算法」

 本研究のテーマは特殊相対論的流体の数値計算法を用いての解析である。宇宙流体においてはその相対論的効果が無視できないこともある。よって、宇宙流体において相対論的流体方程式に対する数値計算法の重要性は疑う余地もない。本卒業論文では実際に非線型偏微分方程式で与えられる相対論的流体方程式に対しての数値計算法について考察をし、実際に数値計算を行った。結果、非相対論的流体に対して有効な数値計算法は多少の変更を加えれば相対論的流体に対しても正しい計算結果を得られることが明らかとなった。

「強い重力レンズ効果を用いたハッブル定数の測定」

 ハッブル定数は宇宙の膨張に関する重要なパラメータである。代表的なハッブル定数の測定法には、距離はしごや宇宙マイクロ波背景放射を用いる方法があるが、最近の測定値には報告されている誤差よりも大きな差がある。そこで本研究では、それらの方法とは独立した重力レンズを利用した測定法を用いる。多重像が観測され、各像における光の到達時間に差があるクェーサーを選び測定を行った。結果は前述の方法よりも大きな誤差が生じてしまった。精度を向上させるには、レンズ天体の質量モデルの最適化が必要であると考えられる。

「バリオンと暗黒物質の相対速度による密度ゆらぎ成長の抑制」

 現在の宇宙論では、宇宙の晴れ上がり直後にバリオンと暗黒物質の間に相対速度が存在することが示唆されている。この相対速度は、バリオンの密度ゆらぎの成長を抑制し、宇宙の構造形成に影響を及ぼす。本研究では、2種類の物質の密度ゆらぎと速度ゆらぎの連立偏微分方程式を数値的に解き、相対速度の存在によってバリオンの密度ゆらぎの進化がどの程度抑制されるかを調べた。その結果、約30 km/sの相対速度がある場合、バリオンの密度ゆらぎの成長に必要な臨界質量が1桁程度大きくなることがわかった。

「Kerrブラックホール周りでの天体の軌道ならびに潮汐力について」

 ブラックホールは、宇宙物理学的に重要であるが直接の観測が困難な天体である。よって、その性質を明らかにする為には、周辺での天体の軌道や潮汐崩壊について調べることが有用であると考えた。本研究では、一般的に多く存在すると考えられるKerrブラックホールを研究対象とし、まず軌道の数値計算を行った。その際、有効ポテンシャルとの比較により、整合性のある結果が得られた。次に、様々な軌道における潮汐力と天体の自己重力を比較し、潮汐崩壊の起こる条件を調べ、潮汐崩壊の有無を確認した。

「セファイド変光星とIa型超新星を用いたハッブル定数の測定」

 ハッブル定数は宇宙の膨張率や年齢を知るために重要なパラメーターである。代表的な測定方法として、近傍の天体までの距離や、宇宙マイクロ波背景放射を用いる方法があるが、これら二つの方法の測定値には8%の相違がある。そこで本論文では、セファイド変光星とIa型超新星を組み合わせた距離測定法を用いてハッブル定数を求め、その誤差の妥当性を検証した。その結果、統計誤差は1.5%程度と小さくなるも、Ia型超新星のデータ選択によっては測定値が4%程度変化することがわかった。このことから、異なる方法による測定値の差はそれぞれの測定法における系統誤差に起因することが示唆される。