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ブランディング事業メンバー講演5

細胞死亢進による上皮バリアの破綻

医学研究科 中野裕康


講演要旨

アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患においては、表皮バリア機構が不全となり、水分の過剰な消失や外界からの病原体の侵入によって、病態のさらなる増悪が引き起こされると考えられる。その原因は感染や遺伝性要因などが考えられるが、詳細はわかってない。我々はデス受容体からの細胞死の抑制に必須の分子であるcFLIPを表皮特異的に遺伝子欠損したマウスを樹立し、表皮の細胞死が亢進した結果どのようなメカニズムにより皮膚炎が誘導されるかの解析を行った。
表皮特異的cFLIP欠損マウスは、TNF受容体存在下では胎生の18.5日に表皮基底細胞のアポトーシスが亢進し、致死となることが明らかとなった。TNF受容体欠損マウスとの二重欠損マウスを作成すると、メンデルの法則にしたがい出生したが、生後5日目ごろから皮膚炎を発症し、生後7日以内にほとんどすべての個体が致死となった。組織学的な解析により、二重欠損マウスでは表皮細胞のアポトーシスの増加と基底細胞の増殖の亢進、不全角化を伴う角化層の肥厚が認められた。またLoricrin, FilaggrinやKeratin 10などの表皮の後期分化マーカーの発現の著明な低下と、それに対応して表皮からの水分蒸散量の顕著な増加を認めた。細胞死を抑制するためにTNF以外のデスリガンドであるFasL及びTRAILに対する中和抗体を出生3日目から投与したところ、皮膚炎の改善と生存期間の延長が認められた。また皮膚炎に伴いIL-6, IL-17AやIL-24などの炎症性サイトカインの発現が上昇していた。それらのサイトカインが表皮の分化障害に関与する可能性を検討するために、初代培養ケラチノサイトを調製し、in vitroでの細胞分化培養系に添加したところ、IL-6と共培養することでLoricrin, FilaggrinやKeratin 10などの分化マーカーの発現の著明な抑制が認められた。
以上より、細胞死に伴う炎症が誘導されている表皮の微小環境では、炎症性サイトカインの産生上昇と、それによる表皮の分化障害が誘導され、その結果表皮バリア機能が低下し、さらに外界からの細菌などの侵入により炎症が増悪する、という負のサイクルが存在することが明らかとなった。