近年、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が炎症性腸疾患だけではなく多くの疾患の発症に関連すると報告されており、腸内細菌叢を改善することは健康維持に重要である。腸内細菌叢は数百種の常在細菌で構成されており、食物や抗生物質などの影響を受けて変化する。宿主側は腸管に分泌されるIgA抗体によって腸内細菌を認識し制御していることがわかってきた。しかし、各IgA抗体が常在腸内細菌の何を認識して腸内細菌叢にどのような変化を与えるのか、などその詳細は明らかではない。
私たちはマウス小腸由来IgA産生細胞からモノクローナルIgA抗体をクローニングし、各IgAクローンが認識する細菌由来分子を探索した。まず、単離したIgA抗体の中で、多くの種類の細菌に最も強く結合する能力を持つW27抗体に着目した。W27抗体が強く結合するのは大腸菌など悪玉菌の仲間であり、乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる善玉菌に対しての結合は弱かった。
W27抗体は多くの細菌が持つ代謝酵素(Serine hydroxymethyltrasnferase)中の4アミノ酸の違いを識別しており、この特定のアミノ酸配列を認識して結合することで大腸菌と乳酸菌を識別し、さらに共培養により大腸菌の増殖を抑制した。一方でW27抗体は良い菌の増殖を妨げないので、マウスへW27抗体経口投与を行ったところ、全体として良い菌が優位になる方向に腸内細菌叢が変化する効果が見られた。W27抗体を腸炎モデルマウスに経口投与すると、腸内細菌叢が変化し、その結果腸炎が抑制された。IgA抗体と腸内細菌との相互作用は未知の部分が多く、今後のさらなる基礎研究が必要であるが、IgA抗体を腸内細菌叢改善薬として利用する可能性について議論する。